事前にnarcissu1・2のみプレイ済み。「死神の花嫁」と「メサイア」は非常に良かったが、「-Ci-シーラスの高さへ」は残念な出来となっていた。
・シナリオ
プレイ時間は17時間と予想以上の長さでした。
このプレイ時間は事前にプレイしたnarcissu1・2のプレイ時間を合算したものとなります。
narcissuのナンバリングの一つとなっているが、内容は完全に外伝集となっており、作者の異なるものが3つ収録されている。
この3作品はSteam版の「Narcissu 10th Anniversary Anthology Project」には未収録となっている。
それぞれの評価を以下に記す。
なおこれはゲーム内の表記に合わせた順であり、評価している順ではない。
「死神の花嫁」
医師側の視点から見たホスピスを描いた作品となっており、これまでにない視点からという事もあり新鮮さを感じさせる作品でした。
内容も非常に良く出来ており、ホスピスに対する医者の葛藤というものが非常に良く描けている。
頻繁に登場する研修医の佐野洋輔という人物もその新鮮さに拍車をかける大きな要因となっていた。
人物そのものも非常に好感が持てる上に、声優の声が役柄によく合っている。
テキストも非常に読み易く、所々で描かれているコメディも思わず口元が緩んでしまいそうになるような面白いものが多い。
ちなみにコメディに関しての例を挙げるなら、初めに表示される選択肢で”小野”を選んだ際のやり取り等となる。
また後半の選択肢でルートが分岐するので、忘れずに両方確認しておくことをお勧めします。
「-Ci-シーラスの高さへ」
narcissuシリーズの中で最も出来の宜しくない作品。
死生観や7Fのホスピスが登場する点は他作品と同様だが、テキストが致命的なまでに面白くない。
主人公の言動には頭を抱えたくなるようなものが多く、それが作中のヒロインからは評価されるという理解に苦しむ展開に終始し、この点を受け入れられなかった私には読み進めるのに苦痛すら伴う非常につらい作品となった。
主人公の言動には相手を笑わせようとするふざけたものが非常に多く、またそれが相手を気遣った物や場の空気を和らげるために計算高く用いられているとテキストでは表現されているが、私には到底そのようには感じられなかった。
この作品内での描写のされ方と、実際に描かれている物の乖離が非常に大きく、ライターの力量不足なのか、はたまた私の感性に問題があるのかは定かではないが、問題点の多い作品なのは間違いないでしょう。
「メサイア」
こちらも医師の立場からの物語となるが、新米の小児科医という本来であればホスピスに関わることのない立場からの視点となっている為、医者というよりは友人に近い視点からの物語となっていた。
作者が早狩武志ということで期待していたが、期待にたがわぬ素晴らしい作品でした。
視点が患者である相島久也と医者の鈴木拓人で切り替わることがあるが、「-Ci-シーラスの高さへ」とは異なり自然な流れで切り替わる為一切テンポを損なう事が無く、それが序盤の違和感を上手く覆い隠す伏線ともなっており、非常によく出来た仕組みとなっていた。
物語の顛末を鑑みれば、本作品が最もnarcissuらしい作品となっていたようにも思う。
内容も非常に良く考えられており、死そのものについて深く考えさせられた。
またホスピスの入院患者とそうでない者の差異について、より深く一歩踏み込んだ内容ともなっており、今まで無意識の内に目をそらしてきた事実を強く突きつけられた。
ただ一部違和感を覚えた点があり、これが原因で作品の評価が揺らぐといった物ではないが、何故”余命”の読みが”よみょう”となっていたのかが不思議でならない。
“平均余命”を”へいきんよみょう”と読むのであれば頷けるが、単体で”よみょう”と読むのはどうにも違和感が残る。
どちらの読みが正しいのか私には判断が付かないが、”他人事”を”ひとごと”と正しい読み方をしていた事を考えると、案外”よみょう”の方が正しい読みなのかもしれない。
ここまでが別ライターによる作品であり、以下は片岡ともの作品についての評価を記す。
「小さなイリス」
死生観の一点のみが被る程度で、ホスピスの概念が登場しない異色の作品となっている。
異国情緒溢れる舞台背景の上で語られる死生観といった具合だが、死そのものに対する物よりも信仰の向かう先についての方に強く焦点が充てられている。
その為かどうにもnarcissuの外伝という位置づけそのものに違和感がある。
相変わらずテキストは読み易く内容もそう悪いものではないが、他作品程の良さは感じられなかった。
主人公の自我が薄く、ある程度の説明が必要となってくる異国情緒の強い作風に、この短さでは単純に相性が悪い。
もう少し尺を用意し、しっかりと描くことが出来なければ、この手の作品の良さを読者に伝えることは難しいように思われる。
またおまけページに記されている時間軸順では本作品が「narcissu 1st」の後に記載されているが、1stの後の物語ということになるのはどうにも疑問が残る。
騎士や長弓ばかりが登場する事から中世を想像していた為これには驚かされた。
「姫子エピローグ」
プレイ順としては真っ先にプレイした方が良いと思うのだが、何故か上記の4作品をプレイしなければ開示されないシナリオとなっている。
内容としては可もなく不可もなく。
「1980」
これは「narcissu 3rd」には収録されておらず、Steam版の「姫子エピローグ」の”ATOGAKI”にのみ収録されている。
narcissuの原典とも言える作品となっており、短いが出来は良い。
「1993」
「1980」の続編となっており、「narcissu 3rd」では”Product”の中に、Steam版では「小さなイリス」の”ATOGAKI”の中に収録されている。
こちらも良くできている。
個人的には「1980」よりも好きな内容でした。
・絵
あまり良いとは言えない。
特に「メサイア」のCGでは頭身に違和感があり、子供のように見える。
・音楽
非常に良い音楽が多い。
「Narcissu 3rd」では珍しく音楽鑑賞機能が用意されているので、再度お気に入りの音楽を記しておく。
鑑賞画面では番号をクリックすると曲名が表示される形となっていたので番号も合わせて記す。
ただしこの音楽鑑賞に収録されている楽曲は使用楽曲全てという訳ではないようで、複数の使用楽曲が欠けてしまっている。
その為以下の物は収録されているものの中から、という制約の元でのものとなる。
お気に入りのBGM
・08 光降るなら -inst version-
・21 鳴る高架線 2007
・29 ナルキッソス inst
・35 ナルキッソス -inst-
・36 週末の過ごし方より
・システム
「Narcissu 1st」と完全に同一の物となっている。
Steam版の「小さなイリス」と「姫子エピローグ」は本作品に収録されている物よりもシステム面で勝っており、最大の違いは”次の音声まで継続”という機能が搭載されている点となる為、この2作品のみSteam版でプレイしています。
個別に感想を書くのが手間であったため、プレイ時間を合計した上でこの場にてまとめて記しています。
・総評
Steam版の「Narcissu 10th Anniversary Anthology Project」を購入している場合、本作品を購入する意義は薄いように思われるかもしれないが、「死神の花嫁」と「メサイア」の出来は非常に良いので、可能であれば本作品を購入される事をお勧め致します。