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bidouda2000さんの源平繚乱絵巻 -GIKEI-の長文感想

ユーザー
bidouda2000
ゲーム
源平繚乱絵巻 -GIKEI-
ブランド
インレ
得点
80
参照数
679

一言コメント

無理矢理だが潔し

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

盛り上げるところはぐぐっと盛り上げて盛り下がるところはスパッと切る潔さ。

ストーリー上において説得力に欠ける部分等(※)もあったりすし最終的にはファンタジー展開だが、だからこそこういうバランス感が非常に重要になる。数は多くないとはいえミスリードもきちんと用意されているので幅の広いユーザーに楽しめるのではないかと思う。

もう歴史物であることについて他人がどうこう言っても仕方がないか。個人的にはもっと現代的なストーリーを作って欲しいとは思うが己が熱意を注げるものでないとシナリオをつくるのが難しいのも分かる。

次は信長公辺りだろうか。歴史に興味は無いけれど信長公くらいキャッチーであればタイムスリップ・転生が無くても楽しめるような気がする。


※ストーリー上で説得力に欠ける部分等

・結局のところなんで主人公3人が選ばれたのか分からない。それほど重要な「お役目」がある可能性があるなら専用の教育が施されるのが妥当だろう。それが無いのであれば他の親類でも良かったのではないか。ミスリードによって実は苗字が重要ということが隠されているので最終的に説得力を打ち消すかたちになってしまっている。まぁこれはこれで現象として面白いけれど。

・上の内容と平行して「なぜ主人公が何も知らないのか」という疑問が発生する。少なくとも主人公については兄が死んだ以上封印の確認をするという役目を引き継ぐ義務が発生するのだから絶対的に親から説明を受けるはず。『平安時代に封じられた怨霊に殺された』なんて言っても信じないだろうが、だからといって封印について言及しない理由にはならない。受験勉強で忙しくしている描写があれば「進学してから」という推測もできるが部活も辞め勉強もせずにスマホガチャに踊らされている始末である。親は何をしているのか。

・なぜヒロイン二人がタイムスリップ時に十束剣の装具を持っていた(※正確には周囲に落ちていたであるけど)のか最終的に何の説明もないのは相当に痛い。ヒロイン二人はそれとは別に役割があるのだからこのような要素を入れるのであれば絶対に説明をしなければいけない部分。説明が出来ないなら入れるべきではなかったと感じざるを得ない。

・すいぶんさんが何故現代社会の武器を所有しておらず単独で乗り込んでいるのか分からない。サバイバル知識の前にまず武器と仲間だろう。スマホを持っている=道具を持っていくことができるという図式が成立している。すいぶんさんの立場としては生存、或いはラスボスを殺すための武器は必須であるはずだし、エンディングであちらの仲間を現代に呼べているのだからタイムスリップできるのは他の人間でも可能であることの証明になっている。最初のタイムスリップ時に「一人で立っていることを確認して行っている」とあるので他人を巻き込んでしまうことを自覚していると推測できる。すいぶんさんのキャリアは謎なので実はあらゆる任務を素手でこなせる特殊工作員なのかもしれないが、そうであっても単独で行くことはどうしても説得力に欠ける。「主人公兄が死んで直ぐにタイムスリップ」ということであれば「時間が無かったから」と推測もできるが作中では兄が死んで結構な時間が経過しているためどう考えても仲間を集める時間はあったはず。

・なぜラスボスがあの時代に復活出来たのか分からない。「現代での封印が説かれる=義経が活躍した平安時代後期で復活」というプロセスは繋がっているようで繋がらない。壇之浦で草薙剣が紛失しているからその時代周辺に自動的に標準があったと好意的に解釈することもできるが、作中の史実では「実は草薙剣は失わていない」ということになっているのでそもそもの前提条件が成立しなくなる。もしラスボスが「過去にタイムスリップ+復活」という能力を持っていたと仮定したとしても、歴史的に壇之浦で草薙剣が紛失した(と思われている)瞬間より後じゃないと流石に都合が良すぎるのではないかと。そこまで万能であればもう何でもアリになってしまうと思われる。

・上の内容と平行して、すいぶんさんが主人公サイドに対して説明をしないのが不自然。タイムスリップ前や直後であれば「そんなことを話しても伝わらないし信用されなくなるから困る」し、壇之浦までは平家を倒さないと歴史が進行しないので説明を控えることも理解できる。主人公がヒロインと関係を持たないといけないので平安時代2回目までは「余計なことを言わない」というスタンスを取るのも分かる。しかしながら、それ以降に関しては歴史改変は最早どうでもよいことになっているので自発的に説明をした方が効率的…というか敵の情報なのだから説明をしないと話にならないだろう。誰と戦うのかも説明せずに戦場に誘導するのはいくらなんでもありえない。

・主人公のメタ描写は必要だろうか。ギャグであれば必要な場合もあるだろが、殺す殺されるという極めて真面目な展開やってる最中に『そう、実は、××に応援を頼んでいたのだ』といったユーザー側にわざわざ説明する文章を入れる必要性が分からない。こんなことをやってもテンション下がるだけにしか思えないのだが。小説であればテキストオンリーなのでそういう文章を入れないと説明が出来ない場合があるかもしれないがゲームはグラフィックを見せることができる。画面を反転させて「応援を頼む描写」をちょろっと挟めばそれで十分に伝わるだろう。ユーザーは最低でも18歳以上なのだからそんなに馬鹿ではない…はず。

・上の話に平行するが補完する部分がズレていると思える。『そう、実は、××に応援を頼んでいたのだ』的文章を挟むくらいならマメに家系図を表示するようにした方が良いのではないか。よほど日本史に興味がある人間じゃないと義経ファミリーなんて知らないし知っていてもうろ覚えになっていたり自信が無い場合も多々だろう。少なくともキャラの立ち絵を表示されるより有益のはず。

・表現に関して平行して追加すると、現代組のクローズな会話の場合は「(ああああ)」といった感じで表記に差を付けるべきだったと思われる。声のトーンがひそひそと話している感じではないのでシチュエーションそのものが間抜けに見える。勿体ない。

・グラフィックについては矢のサイズに疑問というか何というか。少なくとも源為朝の矢及び矢尻はもっと大きく描かないと表現としての説得力に欠ける。厳密に比較検証しているわけではないがパッと見て他キャラが使う矢と同じ大きさにしか見えない。最終的にファンタジー展開をするのであればこの辺りは誇張であってもインパクトを優先した方が全体のバランスとして良い。

・一部キャラクターで元号ではなく西暦を使って過去の歴史を話している描写がある。『こいつもタイムスリップしてきたことを示すミスリードなのか?』と思ったがそんなことは無かったので単純なミスなのだろう。エンタメ要素が強い内容とはいえタイムスリップを扱ったタイトルでこのミスは地味に痛い。

・選択肢が一切登場しないにも関わらず、システム上で「前の選択肢に戻る」とあるのはネタなのかミスなのか分からない。三部構成になっているので選択肢と言えば選択肢なのだけれど、ここは「章の最初に戻る」といったものに修正した方が分かりやすい。