後一味あれば・・・
全体的に良く練られているが、それゆえに「街の秘密」に対する説得力の無さが浮き上がってしまっているのが惜しい。
結果として街の秘密は「人身売買」ということになっているが、その程度であれほどのシステムを作り上げるのは不経済としか言いようが無い。わざわざ秘密のルート(作中の規模では相当の金が掛っていることは明白である、前の市が作ったとも思えない)を作るよりも、東アジア等で適当に攫ってきた方が遥かに安上がりであるし、国外で実験を行う方が実験者からすれば遥かに安全であろう。
また、その人身売買も最終的には「研究のため」という名目な訳であるが、作中に出て来る程度の「実験」などは既に戦時中及び戦後においてどこぞの国々で行われていることなので重ねて説得力に欠けてしまう。
最後の最後に宗教的な要素がチラリと登場するのであるが、これをもっと強く出すことは出来なかったのであろうか。
宗教・・・作中の場合は邪教であるが、それに狂った人間達が行う行為ということであれば、不経済も不効率も道理が通るところである。また、科学性と宗教性は対立させることが容易な構図であるため、ここに「キリカ」と「ココ」を当てはめれば、ダブルヒロイン的に展開される物語である理由も堅固になるところであろう。各ヒロインの持つ二面性に対するミスリード及び説得力に利用することも可能であったはず。
非常に惜しい、後一味あれば名作である。