ErogameScape -エロゲー批評空間-

bidouda2000さんのセミラミスの天秤の長文感想

ユーザー
bidouda2000
ゲーム
セミラミスの天秤
ブランド
キャラメルBOX
得点
80
参照数
1608

一言コメント

惜し過ぎるロジックワールド(※一応解釈あり。バランスモード推奨、BADを見ないと作品として意味が無い)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

コンセプトが素直にマイフェイバリット。
安直な例えを出すなら「デスノート」が好きな人間は好きだと思われる。
面白くない人間にとっては全く面白くない。

ジャンルをカテゴライズするなら心理サスペンスだろうか。
登場キャラクターの心象描写にいちいち神経質に噛みつくような人間(自分)に向けて作られたコア用タイトルである。

これを面白いと感じた男性ユーザーの99%はモテない男です(例えオタでなくても)。
これはもう引き返せません、諦めましょう。

面白いと感じつつなおモテる方は1%の希少種です、ご自愛下さい。


のり太(敬称略)のキャラクターデザインも大幅に変わっている。
線は微妙に残してあるが、輪郭のぼかし方が上手くなっている。これは非常にいい進化だと思う。

以前はズームアップ時が少し厳しいといった印象だった。
実際に、CGでは引いて全体を捉える描写が多かったし、ズームアップ時は線を多用して誤魔化しているような感があった。
今回からはかなり画面をアグレッシブに使っているシーンが多く見られる。


しかしながら、内容が惜しい。正確に表現すれば、片手落ち感が強い。
オープ二ングの期待感と、エンディングの非充実感の差が激しいと言わざるを得ない。

経過は面白い。ここでいう面白さは"展開が良い"とか"萌える"とかそういうことではなく、
ロジックをきちんと表現しているという面白さである。
そもそも、入口からして人を選ぶジャンルであるため、この感じ方は必然であるのだが。


主人公の『幻聴が聴こえる』という設定も登場している必要が分からない、もっと正確に言えば曖昧すぎる。

劇中に登場するAと無数の死体Bの概念を当てはめれば選ばれなかったヒロイン(むしろ非攻略キャラクターなのか?)
と考えればいいのかもしれないが、流石に判断するための幻聴描写が少な過ぎる。

仮にそうであっても、あれだけしか触れられていないのであれば「だからなんだのだろうか・・」となってしまう。
もっと深く物語に介入しなければ効果は薄いと思われる。

ミスリードはユーザーがミスリードと認識しないことには無価値である。
このミスリードという要素はユーザーが如何様にも解釈できるので、議論をしても結果は出ない。
いずれにしても判断材料が無さ過ぎる、これは致命的な弱点であろう。


以下に勝手な解釈を書いてみる。

前提として、幻聴の主は(主に)不遇な扱いを受ける非攻略キャラクター達。
BADエンドのヒロインたちを含めるかどうかは判断が付かない。

『「幻聴」というものは本来は全ての人間が聴こえているのものであるが、小さくて観測できないものである』という、
物語だけでなく、ある意味プレイヤーの現実にまで及ぶような広義的な解釈。

これはオープニングの「不確定性原理」に掛っている(「予定調和」はミスリード、単なる物語の性質)。
この場合の幻聴は当然ながらオープニングに登場した魂である。最小単位がモナドとされる魂を"さらに"砕いた(正確には他人に砕かれた)もの。

主人公は他の人間には観測できない観測領域を手に入れたため、幻聴(他人の魂の足の先)が聞こえるようになる。
こう考えれば、幻聴の主が無数の死体(正確には死体から分離・欠けた魂)であり、物語中に自殺・ないしは心神喪失状態となるキャラクターが登場する理由になる。

オープニング当初で聴こえる幻聴は、不安定状態の響から発信されたものと考えればわからなくもない。
物語で過剰に「おバカ」とされていたし、「自分のせいでこうなったんだ!」と号泣するシーンにも少し違和感があった。
あれは響の魂が砕かれているという説明付けだったのだろうか。小さい子供が全力で泣いているような描写に感じる。
自身の子供のころを思い出すと、泣くときは「世界の終り」くらいの感覚で泣いていたように思う。
こう考えれば響が非攻略キャラクターであることも理解出来るし、幻聴の主(達)が非攻略キャラクターであることにはならないだろうか。

さらに言えば、響(幻聴)の存在を最初から登場させることで、「幻聴=砕かれた魂」をカモフラージュする目的もあったと考えられる。
誰かが死んだあとに幻聴が聞こえるならば、その幻聴が死者の声(砕かれた魂)であることは明白である。
「最初からいきなり聴こえている」という点において極めて重要であるし、それに最も深く関わっている響をどうしても無視することができない。


この説を確認するには、「幻聴が聞こえるタイミングで非攻略キャラクターの状態はどうなっているのか」を確認すればいいのだが
・・・何だか疲れてしまったのでしばらくは確認しないと思う。正直自信もない。ほとんど妄想に近い。

さらに言えば、これが正解なら塔子も幻聴を感じとれないとおかしい(冒頭でしゃべってるのは塔子だと記載されている)。
そのため、「主人公の反応より先に塔子が幻聴に反応している」的な描写が必ず表現されているはずである。

・・そんな描写あったっけなあ?
最後のエピローグ描写の謎の女がそのまま塔子だとすれば通らなくもないんだけど・・
オープニング冒頭をそのまま根拠とすればそれまでだが。


しかしながら、重ねて書くが最大の問題はこの解釈が正しかろうと、「だからなんなのだろうか・・」となってしまう全体にある。
表現したいものが余りに乏しい。

ヒロイン格に選ばれなかったサブキャラクターに対する絶望のようなものを提起したいのだろうか。

結果としては天秤にかけられているのは「主人公によって救われる(=攻略される)可能性を持ったヒロイン達」と
「ルートが決まっており、悲劇という役割を運命づけられた(この辺りがオープニングに掛っているともいえる)非ヒロイン達」ということなるが、
これでは仕組みとして弱過ぎると思われる。

素直に「攻略されたヒロイン」と「攻略ルートによって選ばれなかったヒロイン達」と捉えた方がよほど分かりやすい。
(しかし、こんなありふれたものが回答であるのかという先入観的な疑問は拭えないのだが)