ギャルゲーにおける小さな再発見
恋愛ゼロキロメートルで地位を確立したASa Projectの次回作。前作がとてもよく出来ているだけに、比較すると劣ってしまう感は否めないが、それを差し置いてもよく出来ている。
ギャグゲー(むしろバカゲーか?)としてのテンポの良さとキャラクターのコミカルな躍動感が際立って面白い。かといってゲームとして媚び過ぎることもなく、現実プレーヤーの「おまえら」を絶妙に皮肉る要素もあるが、それを不快に感じさせないのがASa Projectの持つ最大の魅力だろう。非常に稀有なブランドである。
ここまでキャラクターが突き抜けているとテンプレ学園モノとは言いがたいし、実際に舞台を変えたところで効果があるとは言い難い。主人公性に関しても、疑問を持つより先に登場キャラクターのコミカルな魅力に引っ張られてしまう。製作側のバランス感覚が絶妙。
寿りさルートでギャルゲーにおける小さな再発見がある。
作品コンセプト通り「主人公知人の知人(りさ)」が攻略対象になる。そのため「主人公の知人(阿知華)」が物語のキーとして展開される訳であるが、寿りさルートでは"ヒロインである寿りさと協力してサブキャラである阿知華を攻略する"という展開になっている。
ギャルゲーの(最終的な)展開としては、「主人公とヒロインが向かい合う」場合が非常に多い。向かい合うということは対決するという意味であり、実際に争っていなくても、置かれている状況や環境、もしくは過去といったものと戦っている。これは構図としてはヒロインと対峙することに他ならない。
バトルやアドベンチャーでは協力して相手を倒す(脱出する)ことは極めて普通であるが、それでも最後は『その状況を招いたのは実はヒロインの過去だった』とか、『自己犠牲に走るヒロインを説得する』的な展開により、主人公VSヒロインの構図が作られることも少なくない。
ギャルゲーであるにも関らず、寿りさルートは主人公VSヒロインの構図が取られていない。お互いが仲良く手を取り合ってワンツーフィニッシュである。これはギャルゲーとしてはとても珍しい。
対決が無いということはドラマが無いということである。これはヒロイン性の欠如(ヒロインではなくフレンドに近くなってしまう)とも言い換えることも出来るのだが、作品のコンセプトがこの矛盾点を見事にカバーしている。
どこまで意図されているのかは分からないが、これは見事と言うに他が無い。