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bichigusoさんのChuSingura46+1 -忠臣蔵46+1-の長文感想

ユーザー
bichiguso
ゲーム
ChuSingura46+1 -忠臣蔵46+1-
ブランド
インレ
得点
93

一言コメント

「はぁ……はぁ……」「インレ?忠臣蔵への熱意と愛情?しっかりと感じたぜ……?」

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

『剣客商売』『鬼平犯科帳』『藤枝梅安』といった精々モデルがいます程度の創作時代物は好きなのだが、史実に基づいた歴史物にはさほど興味がない。
忠臣蔵の知識はほぼ皆無ゆえに新鮮な気持ちで楽しむことが出来た。
何より復讐物が好きであることと、人生折り返しを過ぎてから死に方を考えるようになっている自分の心情とマッチした。
どう死ぬかというのはどう生きたかということである。
しかし死に方を選べる人などそうはいない。
だからこそ浪漫を感じる。
それは置いても、まず非常に登場人物が多くパターンが豊富な立ち絵に圧倒された。
そして各章の導入部が上手く、次に繋げる引きも上手い。
お陰で止め時が見つからない。
累計時間を見ると46時間30分プレイしたようだが、そんな長さを感じさせない名作だった。
これ題材に書いてくれと仕事でやった商業ライターではなく、好きだからこそ書けた(元)同人作品ならではの意気込みを大いに感じた。

マイナス要素は絵柄が好みではないこととエロの薄さ。
それと女体化物は名前も女になっていないと抜けないのよね……。
ただ山科屋敷の縁側に座るとフラグが立つというのが妙におかしくて変なところでツボった。
後は主人公の不殺体質がスカッとしなかった部分。
吉良を2回斬ったり一学の腕をぶった切ったりしてるが、雑魚にはめっぽう甘い。


1章 9時間
恐らく最も史実をなぞっているであろう章。
長い間支持されている話だけあってさすがの面白さと言える。
洗練された現代剣道に比べたら対策されている古い剣術などチョロい、そういう力関係でいくのかと最初は思っていたがやはり武士は強かった。
清水一学のバランスブレイカーぶりがさすがにちょっとと思ったが、後から考えれば一番強かったのがこの初登場時。
登場キャラが多いから各章複数同時攻略方式で数右衛門のHシーンもあると思っていた、この章が終わるまでは……。

2章 11時間
主人公は10年修行すれば安兵衛を追い越せると言われ、1章につき2年だから最後には……と思ったがそんなことはなかった。
実戦による経験値の上澄みはあるだろうが、修行での強化はこの章で実質打ち止め。
まあ鬼平でも部下に自分より強いのいるしね。
脱盟者を別視点から眺めるというアプローチで作品理解がより深まった。
安兵衛がヒロインの章だからどんな強さを見せてくれるかと思えば敵に回ってちとガッカリ。
後はお梅が安兵衛にとって悪い影響しか与えていない邪魔者に思ったり、小平太には冷めた感情しか湧かなかったという点もあった。
どんな事情があろうと内通者は許せない性質なので。

3章 10時間30分
このルートがヒロイン合わせて一番好き。
主人公が無気力になって本作初の中弛み感を味わったが後半盛り返す。
脱盟者による吉良討伐第二陣は熱かった。
新八のキャラ自体は何故「お兄ちゃん」と呼んで執着しているのか唐突で理解が出来ず、多面的で厚みのある本作の中心的キャラ陣の中では非常に薄っぺらく感じた。
こういうシリアスなゲームで好奇心だけがモチベーションみたいなキャラは浮く。
とはいえ終盤の一騎打ちは演出もよく出来ていて面白かった。
そして相合傘はわかっていても涙せずにはいられなかった。
エロゲで感動したのはいつ以来だろう。
ところでこの章から地の文に装飾が増えてきた気がする。

4章 6時間30分
剣道大会女子部門3位程度の腕前で江戸時代の剣客と打ち合えるのか?と疑問だったが問題なかったらしい。
一魅が吉良側の視点を語る。
赤穂浪士が正義であることに疑いを持っていなかったため、そういう見解もあるのかと大変興味深かった。
尤も反証が提示されるだけで止揚されない。
作者が導き出したジンテーゼが最終章の着地点なのだろうと期待したのだが叶わず残念。
実際に3周ループ分体験したことより文献の記述に惑わされてしまったり、一魅の説明は人物が男でないと成り立たない部分があり作品世界とは別の話だと明らかなのに双方割り切って考えない辺りの違和感もあったがそれは目を瞑る。
これまでイラッとする名有りキャラはいたが、クズだと思ったのは平左衛門が初めてだった。
一魅が心変わりした部分はよく理解出来ていない。

5章 9時間30分
3章同様、主人公が動かないので中弛み感がある。
サブヒロインでは一番好きな眼鏡美人速水しゃんのエロCGがあったのは嬉しい。
橋での小夜と右衛門七の別れのシーンは泣けた。
それだけに、それ以降も小夜がしばしば登場するのは余計だと感じた。
で、ラスボス。
「お前だったのか!!」を期待していたのが「……誰?」だったガッカリ感と言ったらない。
正体を隠すのが上手なのは認めよう、だがいくらなんでも匂いを消し過ぎだ。
ここまで丁寧に伏線を散りばめてきた本作だから、本命は莉桜の家族だが地獄修羅子は単なるお遊びではないだろうと小夜まで容疑者に入れていた。
時間跳躍は自由自在、でも「毒殺の証拠などないわ」いやあ最低でも確認してこようよ。
柳沢吉保を操れるくらいなんだから浅野家に取り入って真実を見届けるくらい楽勝でしょう。
しかしモブの顔は使い回しであるという"ゲーマーの思い込みを逆手に取った仕掛け"の類は大好物なので不満は相殺。
3章で燃えたのを更に輪をかけて熱いラストバトルは大変結構。
特に郡兵衛。
味方の強キャラが初めてフルポテンシャルを発揮出来る舞台に歓喜。
富士に戦力集まり過ぎだろうと思わないこともなかったが、それだけ黒安兵衛は強敵なのだということで。
現代に戻った主人公が、昏睡状態から目覚めた莉桜に昔の時代で生活している長い夢を見ていたと話を聞き、それは右衛門七のことだと気付き……みたいな最後を予想していたのだが全然違った。
そのための右衛門七ヒロインじゃなかったのかい。
といっても忠臣蔵に対する先入観や思い入れがなかった分、全員生存の大団円には満足。
残された謎や補完はFDできっちりまとめてくれるのだと信頼する。