『天使のいない12月』は恋に恋してる人をぶった切る。ロマンチックな幻想をぶち壊し粉砕します。
[一行の文字数:70]
ヒロイン5人の個別ルートをやり終わる。そこには暗い現実しか待ていなかった。誰も主人公のことを好きな人がいない。ただそこにいたから、君でいいやというノリなのだった。
それはまるで「運命の恋人? そんなのいるわけないじゃない」
ときつい言葉を浴びせられているようだった。
運命の恋人―――それは「私の隣にはあなたが居てくれなきゃ嫌、他の誰かなんて許せない、結婚するのも死ぬ時もあなたのそばがいい」 という他人への絶対性なんだと思う。
恋愛ならこれ以上の理想はない。自分は彼女のことが好きで、彼女は自分のことが大好き。その好きは結婚し、死ぬ時までずっとずーっと在り続ける。そんな永遠を感じる。
うん。これが「運命の恋人」なんだと思う。絶対性というかただ一つというか不変というか。
だけど、これは現実じゃ存在しない。ただの夢物語だ。恋愛は楽しいだけじゃない、きらきらしただけのものじゃない。同じくらいに痛く汚く、薄暗いナニかなんだ。
恋愛が甘いものだけじゃない理由を、3つほど挙げてみる。
[一行の文字数:50]
■ 1)好きじゃなくても身体は繋げられる
主人公・時紀は、現実への感覚がとぼしい。
生きてるとか、生きたいとか、存在してるだとか、そういった実存の意識がない。そのため誰かを"好き”になるこ
とも、難しいように思う。
彼は誰かを好きになる前に、まず身体が反応する。興奮し発情し情欲する。どこまでもプリミティブ(原始的)で
自動的に女の子と繋がろうとする。
そして気づくのだ。
セックスは好きの延長線上ではないことに。好きじゃなくてもセックスができることに。身体だけは繋げられるこ
とに。
"ただ、身体をつなげただけよ? ”
"愛し合ってるわけじゃないわ ”
"ただ、つなげたくてつなげたの ”
(須磨寺雪緒)
―――真っ白でピュアな恋愛を思い描いてる人に、この現実はきつい。
セックスというのは、好きの延長線上であり、好きじゃない人とはしない。そういう貞操観念があるからだ。 セッ
クスが愛の形という絶対的な思いは、一面にしか過ぎなかったと知ることになる。
[一行の文字数:40]
■ 2)好きは永遠じゃない
この世界に、永遠なんてものはない。
これは須磨寺雪緒の物語がとくに感じさせる。
彼女もまた、現実への感覚が乏しい女の子。失い続ける現実世界より、すべてが無くなら
ない死の世界を望んでいる。
「永遠なら、よかったのに 」
「終わりがなかったら、きっとよかった」
(須磨寺雪緒)
死という永遠を求めるということは、ここは永遠じゃないということ。ここは脆い場所だ
。日向においた砂糖菓子のように、時間がたてば溶けていく現実だ。 溶ける現実、とろけ
て消える世界。大事なものもいつかは無くなるし、"大好き”もいつか薄れてしまう。好きは
ずっとは続かない。
永遠の愛はない。運命の恋人は存在しない。
[一行の文字数:30]
■ 3)君じゃなくてもいい
運命なんていう、絶対性で結ばれたカップルは存在しない。近くに
いて、そこにいたからキミの隣にいるだけなのだ。
例えば、時紀は明日菜さんとの関係をこう言い表す。
ここにはバカな女に騙されてるフリをしているバカな男と、バカな
男を騙しているつもりのバカな女しかいないのかもしれない。
―――榊は
「俺たちはきっと永遠にひとつになれないのだろう。ひとは生まれ
てから死ぬまで、ずっとひとりっきりなんだ……。」
―――真帆ちゃんは
「それでも、その無意味な関係がいまは必要だった。
荒野のような世界に立ち尽くす。頼れるものも、目指す場所もなく
て。 だけど、そこにひとりではなかった。 それが荒野に立ち尽くす薪にもならぬ枯れ木であろうとも……。」
時紀と一緒にいる女の子たちは、必ずしも"時紀じゃなくても良かっ
た。時紀自身も、"必ずしも彼女たちじゃなくて良か”った。誰でも
よかったんだ。
たまたまそこにいて、利害が一致していたから一緒にいただけ。
それは永遠ではなく
真実でなく
ただ、そこにあるだけの想い……
『天使のいない12月』の最後は、全部この言葉で締められる。この
言葉に、この作品の本質は格納されている。
この言葉は、こう言いたいんだと思う。
―――それは永遠ではなく
(ずっと続く"好き”はない)
―――真実でなく
(彼と彼女の恋愛に"愛”はない)
―――ただ、そこにあるだけの想い……
(あるのは一瞬で忘れてしまう儚い感情だけ)
「運命の恋人? 天使? そんなのいるわけないじゃない」
と
天使なんていない
愛していなくてもセックスはできるし、好きでもないのに発情でき
る。心は繋げられないのに、身体は繋げられる。自分の変わりはい
くらだっている。誰だっていいんだ。
そんな最悪な恋愛を知る。
最悪で最低でどこまでも救いのないゲームだった。凍える真冬にこ
れ以上似合うものはない。
"<b>天使のいない12月</b>―――残酷で非情で手がかじかむくらいに冷たい物語"
物語。どこまでも空っぽな恋愛を描いた作品だった。