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ban_07さんのマブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプスの長文感想

ユーザー
ban_07
ゲーム
マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス
ブランド
âge(age)
得点
85
参照数
1392

一言コメント

マブラヴという物語は、それぞれの人々が様々な人や環境の中でどのような想いを抱き、どのような選択をするのか。そのような物語だと思っている。そういった点において、非常に素晴らしい出来の作品だった。今作はオルタネイティヴのスピンオフ的作品ではあるが、冒頭部にて簡単にではあるが作中世界の歴史について触れられており世界観を掴めるため、今作からのプレイでも十分楽しめるであろうと思われる(もちろんオルタネイティヴ等を触れていた方が良いであろう点もあるが…)。私はオルタネイティヴ以降の関連作(クロニクルズ等)をほぼプレイしていないため、今作まで発売日換算で約8年程度のスパンが開いており、そのため今作では演出面を始め様々な面で進化しておりage(というかAGES)お見事!と感嘆の念を抱かずにはいられませんでした。(2014/10/4長文追記)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

・帝都燃ゆ
トータル・イクリプス本編(以下TEと表記)のメインキャラクター篁唯依の訓練校~初陣までの内容を描いた物語。
TEの前日談のような要素を持ちつつ、これ1つが1つの物語として完結したものとなっている。
こちらをプレイせずともTEをプレイするのに支障は無いが、TEの作中にて何度か帝都燃ゆの回想部が挟まれたり、唯依の言動や行動、思想に強い影響を与えたものとなっているため先のプレイを推奨したい。
アニメでの1話及び2話にて描かれた内容をゲーム化したものであるが、実際にプレイしてみるとアニメの2話分によく収めたなと思うほどのボリュームと内容の濃さであった。
ゲーム化の際に様々な場面が追加されたことにより(もしかするとアニメのBlue-ray全巻購入特典の「マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス 帝都燃ゆ“完全版”」の際に追加されたものかもしれないがこちらは未読のため不明)、唯依のみならず同期や教官などのキャラクターたちも非常に魅力的に描かれておりそれぞれのセリフなどの真意なども読ませられることが多々あった。
特に山城さんの最後の「――お願い撃って、早くっ!! 撃ってよぉぉッッ!! こいつらに食われる前に――ッ!!」「――撃ってよ唯依いいいいいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!!」というセリフはアニメでも強烈な印象を持たせることになったセリフですが、ゲームではそれ以上に様々な「想い」の感じさせるセリフとして非常に強いものとなっており、思わず涙が零れてしまいました。
そしてなんと言ってもEDに使われた曲があまりにも卑怯でした。「calling」は私の中で「継承」の曲としての印象だったのですが、今作においても非常に嵌っていたと思います。



トータル・イクリプスのアニメにて放映された部分はあくまでTEの物語前半部にすぎず、残りの後半部はゲームにて描かれるというのはアニメ放映当初から言われてきたことであるが、その後半部があまりに物語の中枢に関わる要素が多く、ヘタをするとただの「ネタバレ」で済まない程度のものであるため、分けることとしました。


・トータル・イクリプス本編前半部(アニメ最終話範囲まで)
帝都燃ゆ同様、アニメに比べて場面やキャラクター描写が増えており、ボリューム面、物語面などでパワーアップしているなと感じました。また、ただ増えただけでなく、追加された場面や描写に合わせてごく一部アニメから削られた場面もあるものの、それは物語上何か変化をもたらすようなものでもなく、特に欠点たるものではありませんでした。
序盤のユウヤは、過去にいろいろあったことは分かるのですが、それでも、事前に帝都燃ゆをプレイしたことも含め唯依視点で見てしまい、どうにも苦手意識が抜けませんでした。しかしだからこそ、唯依との幾度の衝突やラトロワ中佐の存在、初めての実戦経験等を積んで成長いくのがより実感させられました。
特に、カムチャツカへのBETA大規模侵攻やブルーフラッグ、ユーコン事件などの出来事は世界各地の情勢についても知ることとなり、以前は自分しか見えていなかったユウヤの視野を広げ、自分自身でも変わっていっていることを自覚ものとなっており、それがまたユウヤを成長させる要因ともなっているのは非常に好きです。
また、ユーコン事件後、つまりアニメでの最終話のラストの場面がゲームでは異なっており衝撃の展開にやられました。それと1つの区切りとしての「TOTAL ECLIPSE」が使われていますが、この曲は元々TEのAVANエンディングテーマとしての曲であり、ここまでをAVANとして捉えるのもアリなのかなと思いました。



※この先アニメ後の部分に関しては、物語の根幹に関連付く要素も多く、非常に重大なネタバレとなります。ご留意ください。












・トータル・イクリプス本編後半部
ある意味でここからが本番と言っても過言ではないと思われる内容の濃さを見せる後半部。
前半部のラストにて唯依が撃たれて以降、怒涛の展開と急速な伏線の回収が一気に進む。
ユウヤの親(特に父親)の話やクリスカとイーニァの出生やその身に施された処置、各国の情勢変化とそれに伴う陰謀など、これまでに明かされたそれぞれのピースがどんどんと繋ぎ合わされていく。
特にユウヤの父親に関連する話、もっと言えばユウヤと唯依の関係などについては正直に言ってかなり衝撃的でした。
その事実を知った唯依が、ユウヤに「選ばれる」ことを諦め、そのケジメとして武家の生まれの人間としての誇りとも言える刀をさずける場面は、ユウヤがクリスカを選び、不知火弐型を奪取したユウヤと相対し、最初で最後の剣術の教えとしてぶつかり合う場面と並んで、TEの唯依に関連する場面で特に好きなところです。
また、クリスカやイーニァの出生やその身に施された処置は、これまでの描写からしていた予想よりも凄まじいものでした。そのことについてサンダーク大尉やベリャーエフ博士を人道的立場から非難するのは容易ですが、いくつかその「実験」について否定しきれないなと思うところも少しですがありました。
それこそ、近接格闘戦を始めとした多任務用戦術機である不知火弐型と99式電磁投射砲の開発理念上の矛盾点を指摘された際に唯依が言っていたように「必死」なのであろうと思う。人類として生き残るために、故郷たる大地を取り戻すために、ソ連もなりふり構っていられなかったのではないかとも思う。だからと言って彼らのやったことを認めるわけではないが。
そうしたクリスカの生をロシア民話である「スニグラチカ」に例えてラトロワ中佐から語られる場面は、胸が詰まる思いにさせられたと共に、タイトルでもある「トータル・イクリプス(皆既月食)」がここで絡んでくるのかと驚かされました。

そして最終章にして最後の盛り上がりを見せる桜花作戦。これについては「マブラヴは燃えではなく人間たちの成長物語である」と考える私でも非常に燃えるものとなっていました。
桜花作戦と言えば、オルタネイティヴで主たるオリジナルハイヴ攻略が描かれた作戦だが、今作ではその突入支援のための誘導であるハイヴ攻撃場面の1つが描かれている。当初こそハイヴ攻略の主流である戦術で順調に進んでいたものの、BETA増援の中に現れた要塞級と重光線級を掛け合わせたかのような新種の登場によって崩される展開はとてもハラハラしました。
この新種(作中でГ標的と呼称)に対して即時判断で攻撃命令を出せるリトヴィネンコ中将はまさに将たる人物だと思います。
これだけでも非常に興奮させられる展開ですが、さらにここにラトロワ中佐率いるプラーミァ中隊の参戦、そしてBETA増援を切り崩しГ標的までの道を切り開こうと攻勢へ移る流れはたまりません。
こうして、新種による絶望感、中隊の参戦による一筋の希望、さらに新種の極大照射による更なる絶望というように、多大な絶望とほんのわずかな希望を見せられ、そんな中でも人類の未来のためにその身を投じ必死に戦い抜く様はまるでその人物の生き様を見せ付けられているようで目が離せませんでした。


・まとめ
久々に触れたマブラヴという作品の期待をまったく裏切らず全力で楽しませてくれた作品でした。
今後も柴犬やTDAなどもあるようですが無事発売されることを願って。