75-20で55点。風香ルートのみレビュー。他は正直… ともかく、風香ルートについては、いくつかの素晴らしいシーンと数多くの初歩的なミスが共存するシナリオで、とにかく「もったいない」作品でした。長文感想は、「素晴らしいシーン」と「数多くのミス」詳細です。
このレビューでは、「風香√」のことしか扱いません。なぜかというと、ほかのルートが全く印象にないからです(一方は「他人のことを考えない未熟な人が他人のことをちょっとだけ考えるようになりました、よかったね」みたいな退屈なものでしたし、もう一方に至っては「なんだったんだ…」としか言いようがないのでそもそも批判を書く気もあまり起きないのです)。なにとぞご了承ください。
ではなぜ風香√だけは評論を書く気になったかというと、まずこのシナリオだけはメッセージが(複数の印象的なシーンのおかげで)しっかり伝わった&それが筆者の関心にも触れるものであったから。そして、一方で、そのメッセージを押し出す中信じられないほど初歩的なミスが複数見受けられるからです。ざっくり言えば、「このミス(複数)さえなければこのシナリオよかったのに!!!」となった、というわけです。
さて。そんなわけで、この評論ではまずこのシナリオで提示されるメッセージ(ゲームタイトルの「罪」に関わるもの)がなんであるか、をシナリオを振り返りつつ確認し、その後でシナリオの問題点とそれがシナリオで示されるメッセージに対していかなる影響を与えてしまっているか、を記していきます。
さて、まず風香√の「罪」に関わるテーマについて、ストーリーを追いつつ解説していきます。
まず風香について。√中盤で明かされるように、実は風香は野々村優人の生き別れた姉、野々村栞です。父親が死んで以来栞は母親とともに村を出ますが、弟がどうしているのか気になり、名前を偽って村へと戻ってきます。(名前を偽ったのは、以前村八分された身であるためと思われます。)そして、メインヒロインのあいと主人公が別れたのち、思い悩む主人公は風香にアドバイスを受け、その中で風香に対し好意を抱き始めます。
(実は、ここについてもあいと別れた後の主人公が自身のことについて「意外と大丈夫なんだよなあ」という発言をするシーンがあり、あいとの別れを悩んでいるのか悩んでいないのか非常に混乱しました。話の文脈でいえば悩んでいるのは当然なので、このセリフははっきり言って「あってはならないもの」なのですが。この作品はこのような、「人物の心情を誤解させるような発言・行動・解説文」が非常に多く、様々な場面で、特にあい√で散見され、しばしば混乱させられます。あい√についてはそういった場面が多すぎて、登場人物の思考が全く追えずに終わった気もする…けど前述のとおり詳しく書く気力がないのであしからず。)
ともあれ。そうして過ごす中、風香は栞が自分をかばって死んだ、ということ(風香=栞なのでこれは嘘です)、自分が優人の面倒を見続けていたのは栞に対する罪滅ぼしであるということ(風香=栞なので以下略)、を優人に伝えます。
この後風香は「自分の罪滅ぼしのために優人と一緒にいるのはよくない、栞の死を伝えて私の役目は終わったから村から出る」と優人に提案しますが、「風香は栞じゃない。だから俺は、風香のこと、もっと知りたい」という優人の言葉に動かされ、村にとどまることを決意します。そしてその翌日、優人は風香に告白し、その翌日風香もまた「同じように欠けた部分を持つ」主人公に惹かれていたことを打ち明け、二人は恋人関係となり、その晩二人は肉体関係を持ちます。
しかし、風香は本当は優人の実姉であり、近親相姦という罪の意識を隠し続けることができなかった風香は優人に自身の正体を打ち明けます。ここから、優人と風香は自身の性欲と理性の葛藤に悩まされることとなり、これがこのルートのメインテーマとなります。
まだストーリーの途中ですが、文句があるポイントは大体ここまでのシーンに入っているので、あらすじはこの辺で終わりにします。それではまず、テーマの示され方について述べていきたいと思います。
このシナリオ、メインテーマである「肉欲と理性の相克」及び「近親相姦という罪に向き合うこと」を示すという点では、印象的なシーンも多く、かなり成功していたように思います。Hシーン二回目の直前や(一度は欲望をはねのけるが、結局屈するシーン。跳ね除けた時の体の反応と理性の相克がよく描かれており、屈する場面のセリフも理性の敗北とともに理性の捨て台詞が書かれていて説得力がありました)、シーン三回目の後とか(欲望に溺れ、罪から逃げる風香を糾弾するシーン)。どちらにしても、「欲望に溺れて逃げている風香」と、「自分も欲望に溺れかけるも、風香には「欲望に溺れている風香なんて風香じゃない」と言って罪に向き合うよう促し、自身も罪に立ち向かおうとする優人」がよく描かれています。またシーン三回目後の風香の独白は、風香自身の「孤独と性欲の葛藤」が非常に良く描かれていました。性欲に溺れる自分を「怖い」と評したあたりが印象的でしたね。
正直、これらのシーンがなかったら、おそらくこのゲームについて評論を書くことはなかったでしょう。なんでここだけこんなに上手なんでしょうかね…
しかし、ここで問題点その1。これらのシーンのおかげで強化されたメッセージですが、風香が自身を栞であると告白するシーンにおける風香の発言
「遊びの気持ちでセックスしてた、なんて言ったら、君は怒るかもしれない」
によって爆砕されます。というかなんですかこのセリフ。これじゃあまるで風香は自分が行っていることに向き合わないどころか、その重大さすら全く理解せずにいるようではありませんか。せっかくいい感じにメッセージに浸っていたのに、二週目をやったらこれです。このやろう。
このセリフにしても、共通における優人の「意外と大丈夫」発言にしても、台無し感あふれるセリフです。いままで私がプレイしてきた作品は、少なくともこのようなミスがない作品だった分良質なものだったということなのでしょうか…。
次に、問題点その2。これは優人が風香に告白をするシーンにみられる問題です。
優人は、「風香が村を出るのを止めるとき」に、「風香は栞じゃない。だから俺は、風香のこと、もっと知りたい」と言い、風香に「こんなところで、告白する気?」という反応をされます。ここでは、風香は照れています。(実姉なのに。)しかし、その翌日。翌日と言っても、「風香が村を出るのを止める」シーンの次のシーンであり、当然ながらこの二つのシーンの間で二人に何か変化が起きたわけではありません。ところが、みかん畑で主人公が告白すると、あら不思議。「うふふ…ふふふふ…優人が私を好きって…ふふっ…あははは!」とか叫び出し、風香は突然ヤンデレ化します。ついでに目にクマもできます。
つまり、この二つのシーンでは、それらの間に何か人物の変化があったわけでもないのに、一つ目では告白に照れ、二つ目ではヤンデレ化します。意味不明です。ルーレットか何かでしょうか。正直筆者はこれを読んだとき爆笑してしまいました。
というかこれ、ライターの方は書いていておかしいと思わなかったのでしょうか…さすがにこれは問題だと思うので、次からはこういうミスはやめてほしいですね。台無しです。
さて次です。問題点3。
このシナリオでは、しばしば風香の独白が挿入されます。しかし、その独白1回目において、風香が言っていることが「???」なのです。
以下、独白シーン引用。これは、優人と風香が肉体関係を持ち始めた直後のシーンです。
栞は死んだの。
それなのに、心のどこかにいる栞が、孤独を訴えている。
寂しいから、体を触れ合っていないと不安になってしまうって。
優人は幸せかもしれないけど、私はずっと孤独なままだって。
栞の悲痛な声が聞こえる。
もう、あなたは死んだのに。
呪いみたいに、ひっついてきて。
優人と恋することが、罪だと言って。
…そもそも、風香は「風香」であるから優人と恋人として付き合い始めることができたのです。『姉』である「栞」では、優人と恋愛関係にはなれません。しかしどうでしょう、ここではほかでもない「栞」が「体を触れ合ってないと孤独」と言ってしまっています。お判りでしょうが、これは風香の中にいる「風香」と「栞」のうち、自分は優人の姉ではないとする「風香」が思うべきことであり、「栞」は風香の中の「姉」としての自覚がある部分であるのだから、「優人と恋することは罪」と言うべき存在なのです。つまり、「姉としての自覚」と「恋愛感情」の対比を描くうえで、前者を「栞」後者を「風香」に言わせるべきところなのですが、そうなっていないため非常に混乱させられるのです。
問題点その4。物語終盤において、風香が落石事故に遭います。ほかの方も書かれていましたが、このシーンは非常に唐突に感じられます。伏線は張ってあるのに、めちゃくちゃ唐突です。なぜか?
それは、おそらく「風香がその場に行ったというだけで落石が起きた」ということに由来すると思われます。つまり、なんの自然的要因が描かれることもなく落石が起こってしまっているのです。正直、ここは「雨を降らす」ということをすればすべて解決した気がします。このシーンは、先述した「風香の独白三回目」の直後であり、ムード的にも雨はばっちりマッチします。というかここなんで雨じゃないんですかね…。
というわけで。印象的なシーンが複数あり、それらの威力はなかなかのものである一方、上に述べたような問題点が足を引っ張っている、画竜点睛を欠く、という感じの(点睛っていうより頭部全体?)シナリオでした。
ただ、このシナリオのような重要な問題を描いたり、それらの問題やストーリー展開とエロシーンをきちんと絡めて書いているのはとてもよかったように思います。自分はこのメーカーの作品をやったのは初めてですが、こういう方向の作品(といっても風香だけか)を打ち出す方向に進むのであれば、なお上にあげたような粗をぜひ減らしていってほしいところです。次回作に期待。
最後に。風車なんだったんだ…別にこのルートではわざわざ使わなくてもよかったのでは。
あ、あともう一つ。共通やほかのルートではなかったのに、このルートでのみ「料理が下手」という描写があり、設定が統一されていません。複数のライターで一つの作品を書いている以上、このような人物設定の共有は必須です。ディレクター・制作進行・ライターの各位は反省してください。てかミスが初歩的すぎでは…()