ここまで期待と現実が乖離した作品は実に数年ぶり。「泥亀の月」の行方は、置いていく。
初恋の行方は、置いていく。
遠い日、鉄屑の山に煌めいた、気高い金色の髪。
思い出す必要は無い。彼女は、何も変わっていないのだから
(公式HP 吉岡家サイド ストーリー紹介より引用)
このキャッチコピーを見て、幼馴染スキーとして内心わくわくが止まらなかった本作。
前日譚「泥亀の月」をプレイして、想像を上回る内容にかなりの期待を寄せていた。
だが、いざ本編の蓋を開けてみると、完成品と呼ぶのも烏滸がましいほど杜撰な作品だった。
まず、私が本作に最も期待していた要素。それは、
「三角関係にある対立組織の各当主が、過去の確執とどう向き合い、どう葛藤して乗り越えていくのか」
という点。
結論から言うと、そういった描写は全くと言っていいほど存在せず、まさに期待外れ。
共通ルート終盤で地元民と企業間の関係が決裂する危機に陥るも、あっさりとした幕切れで肩透かし。
というか、このシーンが事実上のクライマックスだなんて、誰が想像できただろうか。
それだけならまだしも、個別ルートがあまりにも酷いため、キャラゲーとしても到底褒められたものではない。
本作にはメインヒロインに樹理といろは、サブヒロインに綾と檸檬が存在するのだが、
そのどれもが2時間弱で終わる驚異の肉抜き状態。
樹理ルートでは申し訳程度に泥マサ達の話題に触れられるものの、あとは二人が付き合ってHして終了。
イチャイチャも恋愛描写も削ぎ落とす大暴挙。8年来の想いは何処に?
制作陣は「エロシーンをブチ込んでおけば良い」とでも思っているのだろうか?
ヒロイン(特に樹理)自体はかなり自分好みなだけに、なおタチが悪い。
また、公式で明らかにされている設定が本編で全く掘り下げられていない点が露見される。
公式のストーリー紹介に、
・主人公こと正志の初恋の相手が幼少期の樹理であること
・そんな樹理を義姉として受け入れることや次期吉岡家長としての重責に忍耐力を必要としたこと
とあるが、そんな描写は皆無である。
というのも、これこそが個人的に一番の問題だと感じた点だが、主人公の存在が異常に希薄なのだ。
ヒロインやサブキャラ視点のシーンは頻繁に描かれるため、彼女たちの心理はまだ理解できる。
反面、主人公視点のシーンや台詞が極端に少なく、心情はおろか人物像すらあやふやで把握できない。
櫓名と吉岡の板挟み状態への心情、初恋の描写、大企業の責任者という重責に対する苦悩、
ヒロインへの好意の変遷、その他諸々、何をかもが読者に伝わらないという惨い状態になっている。
さらに、そんな空虚な主人公とヒロインの余韻ゼロな個別ルートの後日談(冬編)が描かれているのだが、
どうしてこんなものが出来上がったのかが不思議でならない。
僅か数分間のための冬服立ち絵、冬用背景を用意するという謎の力の入れよう。
どう考えても注力する箇所を間違えてるとしか思えない。
まあ、素材だけは一式納入できたものの、大人の都合上シナリオを削ぎ落としたのかと邪推してみたりしたけど、
冬編に入った時点ですでに私の感情は死んでいたので、何かもうどうでもいいや。
世界観良し、キャラ良し、CG良し。素材だけは一級品。
ただ、個人的に許せない箇所が多すぎたため、駄作という評価に落ち着いた。
主人公がダメだと何をやってもダメだということを再認識させられる作品だった。
本編より「泥亀の月」の方が面白いし、もう短編だけ作っていれば良いんじゃないかな(適当)