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astroさんの11月のアルカディアの長文感想

ユーザー
astro
ゲーム
11月のアルカディア
ブランド
LevoL
得点
81
参照数
1315

一言コメント

巧みな伏線や驚嘆させられる展開は特に無かったものの、物語の道筋がしっかり明示されており、非常に受け入れ易い作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

●シナリオ
 この作品に感じた一番の魅力は、とにかく単純明快で分かりやすいシナリオであったということ。
本作は、妹を蘇らせるというただ一つの悲願を達成するために、迷いを振り切り直走る物語だ。
本当にそれだけの展開で、あっと言わせるどんでん返しも巧みな伏線も特に無かった。
ただ、シンプルなだけに作品の趣旨を噛み砕きやすくなっており、敷居は低い。
異能がいい塩梅に展開をボカしており、読者を牽引する力を十二分に発揮。
また、単純であるが故に主人公の思考がダイレクトに伝わったのも評価。
伏線といった文章構成で楽しませるのではなく、ひたすらユーザーの心に訴えかけた物語だった印象。
 しかし、単純で且つテキストの技巧で魅せる作品ではないため、主人公に同調できなかったりキャラに魅力を感じないと一気につまらなく感じるかもしれない。


 物語開始時点で最終目的が確定している作品においては、葛藤描写が評価の決め手となる。
本作で言う葛藤とはヒロインと結ばれる展開、即ち悲願の放棄のことで、作中では何度もその誘惑が主人公を襲う。
ただし、全てを捨てる判断をしたとはいえ、ただの一学生が常に鋼の心を持ったままでは人間味が薄くなり盛り上がりに欠ける。
逆に、一度覚悟した人物がいつまでも愚図っていてはユーザーの欲求不満を呼び起こす。
このように、非常に繊細な扱いが要求されるデリケートな要素だ。
 しかし、本作ではその迷いを選択肢という形にしており、ユーザー自身を当事者に見立てることで軽減させていた。
それでも葛藤描写は若干過剰かもしれないが、ゲームという媒体の利点を巧みに活用していた点は大いに評価したい。
作品を通して、主人公の心情を如何にして解りやすく伝えるか、といった製作者の強い拘りを感じた。
 主人公の最大の敵は、相反する心情を抱える自分自身だったのかもしれない。

 ただ、限られたチャンスしかないのに戦術に突っ込みどころがあった点は惜しかった。
例えば、終盤の空弾に差し替えるといった提案。
何度も試行錯誤したにも関わらず、空弾の場合”糸”を逃す可能性に至らなかったのはさすがに抜けすぎてないかと感じてしまった。
事実、普段察しの悪い私でもすぐさまその危険性に気付いたぐらいである。
空弾で自分たちが優位に立てると気付いたのなら、”糸”にも同じことが言える事に気づいて欲しかった。
万が一のための予防策だと言っていたが、その万が一の展開を否定するためのタイムリープでは無かったのだろうか。
まあ展開を盛り上げるためには、多少の抜け落ちは致し方なかったのかもしれないが。


●キャラクター
 基本的に、”11月”含めどのキャラクターも上手く立ち回っており、効果的に役割を果たしていた印象。
 ただ、ヒロイン間に出番の差があったことは否めない。
アイルやココ姉は異能やオーブについて密接な関係があったため深く掘り下げられていたが、
反面ノノやセナについてはあまり深刻な事情も無かったため軽く触れられた程度。
セナについては戦闘員という役割があったためバトルシーンにおいて真価を発揮していたが、ノノは戦闘能力としても微妙な立ち位置であり中終盤においてイマイチ存在感を出しきれていなかった。
主人公に葛藤を与える火付け役として重要なポジションではあったものの、もう少しTrueにおいて異能を活かせる展開があれば嬉しかった。

 お気に入りキャラは、ノノ、アイル。


●その他
 CGは文句無しの出来。
元々、この作品の購入を決定付けた大部分はCGだったため、絵柄については高評価。
非常に可愛らしく描けていた。

 演出。個人的に高く評価したい要素。
会話文中の立ち絵の変化は勿論完備。
そして、戦闘シーンのような軽快さと激しさが要求される場面では、キャラクターのボイスをメッセージウインドウに表示せず、SE扱いしていた点は太鼓判を押したい。
エフェクトや立ち絵を動かすエロゲはいくつも見てきたが、ボイスとエフェクト、SEを同時に処理させているエロゲは私の経験上で初めてかもしれない。
紙芝居と揶揄されるエロゲーにおいて最大の弱点である戦闘シーンを上手く纏めていた点に感心させられた。

 BGM。適材適所で、問題なし。
戦闘BGMも不安感や焦燥感を煽るものが多く、とても良かった。
「零れ落ちる涙」「Cross the Rubicon」
「影たちは舞う」「手を取り合って」あたりがお気に入り。

 あと、これは賛否が分かれるかもしれないが、主人公のフルボイスは非常に嬉しかった。
エロゲ業界ではなかなかお目にかかれない仕様である。
同じ台詞でも、周回するたびに苦悩が滲み出ており、声優の素晴らしさを改めて実感。
主人公の心情が手に取るように伝わってきたので、評価の要因としてプラスに働いた。


●総評
 ストーリーは単純明快で非常に解りやすく、誰もが取っ付き易い作品。
痛々しいほどに主人公の心情が伝わってきて、目的意識がはっきりとしたシナリオ展開だった。
また、初めから道筋が明らかにされている作品は展開を引き伸ばすために雑多な要素を加えがちであるが、
本作は序盤から終盤まで「妹を救うためにオーブを盗む」という目標ただ一つの為に動いているため、ダレることなく読み進める事が出来た。
また、一人では無力でも力を合わせれば為せる、といった仲間との連帯意識がしっかりと描けていたのもグッド。
仲間一丸となって事態に当っている感が色濃く出ており、バランスブレイカーとなるキャラを出さなかったのは好印象。
能力の性質上、大筋は予想できても細かい変化までは予測できない曖昧性も孕んでいたため、先へ読ませる牽引力は非常に高い。
演出面も秀逸で、シナリオの進行を阻害せず、ボイスを上手く織り交ぜたエフェクトの応酬は評価したい。
 しかし、ひたすらに苦悩する様を描いた作品であり、カタルシスを得られるような技巧性は殆ど無いため、キャラとの間に意識のズレが生じると一気に退屈になってしまうかもしれない。
また、限り少ないチャンスにも関わらず、戦術に抜け落ちが散見された点は惜しい。
最終決戦もキューブの重ねがけゲーで、3つ目を使った後の絶叫は思わず笑ってしまった。
単なる力押しではなく、もっと上手く立ち回らせることができたのではないだろうか。

 主人公の葛藤のくどさ、戦闘、キャラの立ち回りなどいくつか不満点はあるものの、全体的に見れば牽引力は確かにあったし十二分に堪能できた。
 LeboLの次回作にも大いに期待したい。