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astroさんの時計仕掛けのレイライン -朝霧に散る花-の長文感想

ユーザー
astro
ゲーム
時計仕掛けのレイライン -朝霧に散る花-
ブランド
UNiSONSHIFT:Blossom
得点
90
参照数
3377

一言コメント

前作と比較して若干盛り上がりに欠けるものの、最後はやはり熱い展開と共に綺麗に纏め上げてくれた。完結編として理想的な作品。過去二作が気に入ってる方なら是非プレイを。得点は三部作の総評。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ネタバレ全開べた褒めレビューです。過去作含め未プレイの方はご注意。




●シナリオ
 今回は遺品による事件は殆どなく、物語の大半が20年前の真実を追い求めつつ敵勢力と対峙するというもの。
伏線自体は既に殆ど回収されていたため、全体の盛り上がりとしては前作より劣っていた印象。
ただ、ミスリードや伏線回収の過程は前作同様秀逸で、期待を裏切らない出来。
先の読みづらい展開にも関わらず、種明かしの時点で推定できるだけの要素はきちんと用意されている点はシリーズを通して大いに評価したい。
例えば、日記に登場する三人目や、黒幕、黒谷や三厳の正体など。
先入観に囚われているとまず予想できないが、しっかり事実関係を明らかにして紐解くと節々に違和感に気付けるだろう。

 盛り上がりは劣っていたと上述したが、それは畳み掛けるような怒涛の種明かしがあったためである。
三厳がモー子に告白、魔女として覚醒し、そして魔法陣を破壊する流れは個人的にシリーズ中で最も白熱した展開だった。
主人公がピンチに覚醒するというのはよくある展開ではあるが、所謂「火事場の馬鹿力」的な根性論に頼らなかった点は評価。
魔力のパスを繋ぐという行為は一見突拍子もなく聞こえるが、既にアーデルハイトと鍔姫間で提示されており、ユーザーに得心させやすくしてあったのも◎。
 当シーンにあった「保留は、終わりだ」という発言は、個人的にシリーズ中で最も気に入った台詞。
「保留」とは、小太郎を救うまで恋愛関係にならないという口約束だったが、それを敢えて前倒しした三厳は最高に格好良かった。
憂緒の支えにより不安を完全に払拭してくれた、その恩返しという意味合いもあっただろう。
ただ、何より小太郎を必ず救い出すという強固な意思の表れだったのだ。
それまで若干出番を食われていたが、クライマックスで主人公としての格をまざまざと見せつけてくれて、本当に熱い展開だった。

●キャラなど
 キャラの扱いについては、過去二作同様、相変わらず上手く立ち回らせることに成功している。
何より本作の目玉は、七番雛の扱いだろう。
思い返してみれば、彼女だけは遺品に直接関与することもなく、唯一出番が全くなかったのだ。
加えて射場とのエピソードも描写されており、主要人物以外の関係性も丁寧に描かれていた。
 三厳が主人公として大きな活躍を見せたのも満足。
というのも、大所帯となった前作から主人公としての意義が若干薄れており、本作ではどのように扱われるのかと懸念していた。
だが、本作では予想をはるかに上回る能力を発揮してくれて、それは杞憂に終わった。
やはり、最後は主人公に格好良く派手に決めて欲しいと思っているので、災厄の魔女だったという事実には鳥肌が立った。
 また、憂緒が無力感に苛まれる展開を予想していたため、その悩みから過去に遡行してあらゆる策を講じる大役目を果たしてくれた点も満足。
流石に既存のキャラ全員に出番を与えることは叶わなかったものの、私が前作終了時で期待した以上の動きを見せてくれたので申し分なし。

 憂緒は、ここ最近では最も惚れ込んだヒロインだ。
一作目では見事なクールキャラを体現してくれ、二作目では半端に関係を持ったが為に極度のヤキモチ焼きに、そして保留とした三作目では刺が抜け落ちてデレ化。
まさに個人的なクール系ヒロインの理想型であり、数年ぶりにイチャラブ目当てのFDを渇望したくなったほど。
勿論、他のキャラも前作同様総じて魅力的であった。
過去のレビューで散々触れてきたので省くが、私がこの作品を評価している大きな要素の一つである。

 ただ、アーリックの扱いについては少し残念だった。
ルイに対抗するにはそれなりのチートキャラを用意しなくてはならないのは理解できるが、
正気に戻ってからもシナリオに直接関与する場面はなく、ただの戦力差を埋めるための存在となってしまっていた。
主要キャラとの人間関係を実感させるようなエピソードがもう少し欲しかったというのが本音。

 BGM。高品質なものが取り揃えられており満足。
シリーズ物なので今作より新たに収録された曲は少ないものの、場面を盛り上げるのに一役買ってくれた。
中でも、憂緒が支えになると言い、三厳が保留を破棄したクライマックスで流れる「Ley-Line」は素晴らしい。
聴けば分かる通り過去三作の主題歌のフレーズが使われており、コンセプト的にも最高の盛り上がりを見せるシーンのBGMとしてこれ以上はない一曲だろう。
 演出面では過去作のレビューで触れたため割愛するが、キャラクターの立ち位置によって左右の音量を調整されていたのは非常に細やかな配慮で好印象。
ゲームという媒体の利点を最大限に活かしている作品だなと感じた。


●総評
 全体的な盛り上がりでは前作に劣るものの、鮮やかな伏線回収と読後感の良い結末で、シリーズ最終作を飾るに相応しい作品。
メインヒロインを明示してあるにも関わらず、出番が憂緒に偏重することもなく、上手くサブキャラを立ち回らせていた点も高評価。
二作目の「残影の夜が明ける時」を気に入ったユーザーなら、多少上下するかもしれないが確実に満足できる内容だと思われる。
 シリーズを総括してみると、第一作の「黄昏時の境界線」の時点で本作までのプロットは完成していたと実感させられるほどよく練られた構成だった。
一見突拍子もなく思える新事実でも、思い返してみると確実にヒントとして違和感なく用意されている構成が何より評価できる点なのだろうと思う。
号泣したり、情感が極限まで高まるようなシナリオではないものの、一つ一つの要素を懇切丁寧に扱っている点を、私は大いに評価したい。
 私は黄昏時の2周目をプレイ中であるが、色々な何気ない場面で新たな発見があり、本当に面白い。
これを違和感なくやってのけたのだから、お見事と言わざるを得ない。

 余談ではあるが、三作プレイした人は設定資料集は絶対に読んでほしい。
これまで明かされなかった真実が書かれており、非常に読み応えのある逸品となっている。

 各作品をミドルプライスとして見るとボリューム不足感は否めないが、3作セットで11,800円ならお釣りが来る程の内容だった。
泣きゲーのように直接情感に訴えかけるようなシナリオではなかったが、世界観、CG、BGM、構成、キャラの魅力、演出…どれをとっても高水準。
それだけに、黄昏時のシナリオを単体として売ってしまったのは本当に勿体無いと思う。
残影の内容も含まれていたのなら間違いなくもっと評価された作品だっただろう。

 べた褒めで偏った評価になってしまい申し訳ないが、個人的に二作目以降は殆ど非の打ち所が無く、本当に楽しめたシリーズだった。
この作品を世に送り出してくれたスタッフの方々に、多大なる感謝を。