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astroさんのぼくの一人戦争の長文感想

ユーザー
astro
ゲーム
ぼくの一人戦争
ブランド
あかべぇそふとつぅ
得点
70
参照数
1411

一言コメント

人物描写は上手いし、人間関係はさすがと言ったところ。ただ、展開自体は決してつまらない訳ではないが、長々と読者の不安感や違和感を煽った割に解決はあっさりしたもので、然程カタルシスを得ることはできなかった。ヒューマンドラマを主軸に置いているにも関わらず世界観が不明瞭なまま進行し、物語への没入感を大きく損ねてしまった印象。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

●シナリオ
 場面場面を切り取って見れば、それなりに楽しめた作品。
例えば、しのぶが活躍し始めてから結花に焦点を当てたパートは成長譚として見事だったし、素直に楽しむことが出来た。
体験版では不安だった人物描写も、物語を終えてみれば各キャラに確かな魅力を感じた。

 しかし、"会"という摩訶不思議な超常現象の本質を捉えることもなく解決してしまったのは非常に残念。
"会"では、常々人間のコストについて触れられてきており、進むに連れて王の人間関係を表したものだということが明らかにされる。
また、"会"あまり関係が良好でない人物を含めた、人間関係の壁を乗り越えるための試練のようなものだとも触れられていた。
要は、人間模様に起因する精神的なものだと作中で散々語られているのだ。
 それにも関わらず、終盤になると急にるみが拉致られるという展開になり、さらに長門が"会"を引き延ばしている原因だという真実に至る。
その後、結局は長門を殺すという物理的行為によって物語を収束させてしまったのだ。
他の読者は分からないが、少なくとも私は人間関係を修復する精神的な成長にて"会"を乗り越えるものだと信じきっていた。
それだけに、"会"の本質に辿り着くことのない強引な解決法によって盛大に肩透かしを食らってしまった。


●キャラクター
 キャラクターに関しては、主要メンバーは魅力的に描けていた。
しかし、立ち絵の無いサブキャラ勢の多くが人間的に落ちぶれており、その後のフォローもされないため、あまり情感的にのめり込む事が出来なかった。
展開の多くが、ただの被害者と加害者という構図になってしまい、何の感慨も得られなかったのだ。
それだけに、成長した結花が周囲に認めてもらい、親友しのぶを取り戻そうという直向きな友情話に美徳を感じたのかもしれない。
 永治の扱いについても、終盤ぽっと出てきていいところを持っていったのは唐突感を禁じ得ない。
これでは、序盤で永治を主人公に見せかけたトリックの必要性も不明瞭なまま。
"会"の敵が永治という点も多くは触れられず、結局彼はどういう存在だったのだろうかと疑問に感じてしまう。

 お気に入りキャラは、結花、しのぶ。


●その他
 CG。原画は有葉氏。
絵柄は安定しており、また、塗りも非常にマッチしており、素晴らしい質感。
文句の付け所のない原画だった。

 BGMは38曲。この価格帯にしては多いほうだろうか。
「ふたりの果て-ピアノ独奏-」や「願いの存在」あたりがお気に入り。
場面場面で適切に扱われており、こちらも非常に高品質に纏められている。


●総評
 メイン勢の人物や人間関係の描写はそれなりに優れているのに、物語の着地のさせ方を誤ってしまった作品。
"会"は精神に起因し、また精神に干渉する存在であったにもかかわらず、最後は物理的に破壊して解決してしまったのは頂けない。
キャラの立ち回りはそれなりに上手くしていたように思う反面、事の発端となる側に何のフォローも無く、ただの可哀想な御話になってしまったのは残念。
関係性の喪失についても軽んじられているように感じられ、大きなカタルシスを得ることは出来なかった。
 また、世界観が理解の及ばないレベルで話が進むため、とっつきにくいというのもあるだろう。
中盤頃で大筋が理解できるのならまだしも、"会"については最終盤に至っても色々な真実はボカされていたため、読んでいて非常にモヤモヤさせられた。
 ただ、決してつまらないわけではなく、中盤は素直に先の展開が気になったりもしたし、結花のエピソードなど良い点もあった。
ただ、物語の根幹とも言える要素の終着点を間違ってしまったということが私にとって最大の不満点だ。