よくある恋愛モノを大量の水で薄めたような作品。
星メモで一躍時の人となったなかひろ氏がメインライターを務めた作品。
体験版時点では非常に期待させられましたが。
以下、割と辛辣目な批評です。
テキストは非常に丁寧に書かれており、ボリューム面で不足に思う人はまずいないでしょう。
プレイ時間は計測していませんが、恐らく50時間近くはかかっているのではないでしょうか?
ただ、本作はその長さが逆に仇となってしまっています。
これでもかと丁寧に書かれているのはひしひしと感じるのですが、あまりに丁寧すぎてテンポが大幅に損なわれています。
しっかりアピールしたい場面は重厚に書き、スピーディな展開を重視させたい場面は軽妙に書くという緩急が欠落していたように感じました。
また、そもそも物語の起伏自体が少ないため、上述の欠点と併せて更に冗長化。特に一夏、琴里、りんねルートでは顕著でした。
このテキスト量なら各ルートにもう一つ山場が欲しいところ。
●シナリオ・テキスト
攻略可能なヒロインは落葉、一夏、琴里、りんね、コロナ、雪々の6人。
どれもサブ的な位置づけではないので、攻略対象は多い方ですね。
今作の主題は総じて「家族」。どのルートも主に家族愛について描かれています。
しかし、それだけに似たような展開が散見されたのは残念。
特に、コロナルートの取ってつけたような家族要素は不要にすら思います。
反面、落葉ルートは良く出来ていました。
陸本人が家族の一員となっていたこともあり、家族愛について最も深く語られていました。
落葉、葉月、陸の三者間の関係性・エピソードがしっかりと描写されており、物語への没入感では他のルートの追随を許さない。
また、中心となる落葉と葉月が他ルートのキャラと比較して精神的に成熟しているために比較的機敏な行動が取れており、他ルートのような冗長さはあまり感じなかった。
涙を流しながら大樹を拒絶したシーンは少し涙腺が緩みました。
お気に入りは落葉ルート、次点で雪々ルート。他は展開が割と陳腐な割に無駄に冗長で薄っぺらく感じられました。
他気になった点
・ネタ、展開の使い回しが多い(夜這い、累との会話など)。キャラ単位で見たら如何に同じことしか喋ってないのかが分かるかと。陸が作中で「またかよ」などと発言していますが、完全にこっちのセリフ。
・会話でネットスラング(「ぷぎゃー」「ww」など)やメタ発言(「ルート」「伏線」「攻略キャラ」など)の濫用。特にコロナシナリオでは顕著。時々挟むぐらいなら良い塩梅になるのですが、濫用されると興醒めですね。特に、会話文に顔文字は意味がわからない。
・落葉と一夏は親友同士であるはずですがそういったエピソードが今ひとつ貧弱で、言うほど仲良くは見えなかった。コロナと累、琴里とひなたと柚子の組み合わせのほうが強い友情を感じられた。一夏があまりに早い段階で陸に恋心を抱いてしまい、陸に執心する描写が増えてしまったのが原因でしょうか。
・葉月が拐かされたというのに、無罪放免。ユーザーの多くはヴァル研の人への何らかの制裁を求めていたはずです。あの収束のさせ方はおざなりすぎてあまりにも酷い。
●キャラクター
上述したように、ヒロインは6人。サブキャラクター達も充実しており、非常に豊富。
どのキャラも場面はちゃんと用意されており、空気と化している人物はいませんでした。(クロノスの能力者勢は除く)
キャラの性格や設定のブレもなく、一度気に入ったキャラなら安心して見ていられます。
メイン原画は司田カズヒロ氏。ロリ傾向が強め。
基本的に絵は可愛いと思いますが、ただ着色がちょっと気になりました。
独特な塗りは今更語ることもないですが、今作は全体的に白く薄い印象。
儚さをイメージしたのかもしれませんが、コントラストは強めでもいいと思う。
お気に入りキャラは落葉、琴里、幸。
中でも落葉がお気に入り。家事もできて、思いやる心もあり、何気にツッコミが出来て、Hシーンでは一番エロい。ツンとのバランスが素晴らしいですね。
家庭的でエロ可愛いとか最高。
●サウンド
劇中ボーカル曲はOP1曲、挿入歌1曲、ED2曲の計4曲。(アレンジ除く)
・オープニング『White Eternity』/ 新田恵海
・挿入歌『雪のエルフィンリート』/ 桃園にな、山本美禰子
・エンディング『季節を抱きしめて ~blooming white love~』/ 橋本みゆき
・グランドED『After snow -白き永遠-』/ Ceui
どれも作風に合った曲で、高水準に纏まっています。
中でも『After snow -白き永遠-』がお気に入り。透明感といい、寂寥感といい素晴らしいの一言。
BGMは60曲(ボーカル曲含む)。
常冬が舞台ということもあり、静かなBGMの比重が高め。
場面場面に適した曲調で、曲選は良かったと思います。
『クオリア』『冬が終わる日まで』『いつまでも、みんなで』あたりがお気に入り。
●総評
とにかく、無駄に長い。その一言に尽きます。
基本的に、題材はよくある「すれ違い」なのですが、一つの問題に対する人物の葛藤描写があまりに過剰で辟易。
特に一夏は個別に入った途端共通部分で見せたスピーディな展開は鳴りを潜め、殆ど停滞してしまいました。
辛辣な言い方ですが、ヒロインたちの抱える問題の多くはほんの少しの勇気で解決するようなハードルの低いものばかりです。
勿論、直面する問題の大小だけで評価を決めているわけではありませんが、葛藤する期間との兼ね合いは考えるべきかと。
シナリオは長ければ良いというものではありません。
ギャグや日常、もしくは直接的なトラブルを織り交ぜると緩急がついて読みやすくなるのではないでしょうか。
コメディ要素もシナリオ性も薄く、雰囲気ゲーだったというのが正直な心境。
総括すると、かなり期待はずれ。
ただ落葉ルートと雪々ルートに限り比較的良く出来ていたと思うのでその部分は評価したい。
最近のFAVORITEの方針を考えると、幸をヒロイン昇格させたFDが出るのでしょうが、現時点では食指が動きません。
また機会があればプレイさせていただこうと思います。
長文失礼致しました。