粗は散見されるものの、キャラクターの成長を巧く多角的に描いた作品。
●シナリオ・テキスト
攻略可能なヒロインは明日香、みさき、真白、莉佳の4人。
全攻略後におまけみたいなFINALEエピソードが追加されますが、ルート数としては一般的です。
プレイ時間は凡そ30時間。
作中の構成としては、第6話までが共通、第7話・最終話が個別となります。
本作の主題は「成長」です。
真白ルートはやや恋愛傾向にあるものの、他の3ルートは部活動一色。
強敵に立ち向かうためにひたすら汗を流す物語です。
どのルートも描き分けが出来ており、似たような展開にならなかったのは好印象。
共通部分ですが、何より第6話の夏の大会が非常に濃密で熱かった。個別シナリオのクライマックスかそれ以上に盛り上がったと言っても過言ではありません。
各部員が激戦・熱戦を繰り広げてこれでもかと盛り上げてからの決勝での急転直下は本当に良く出来た構成でした。
特に信念を貫き通した青柳部長の戦い、真藤から感情を露わにさせる程の本気を引きずりだした明日香の戦い、圧倒的な技術力・戦略で会場に絶望感を与えた真藤と乾の戦いは最高に白熱した。
個別ルートでは、みさき、明日香がお気に入り。
特にみさきルートは挫折からの復帰を果たして猛特訓、最後は大団円で終わるというジャンプ的な王道で熱い物語です。
根性論だけではなく、FCの魅力の一つでもある戦術的要素も多分に組み込まれており、"枠を超えないFC"としては最高の展開ではないでしょうか。
劣等感などの人の持つ黒い感情の描写も丁寧で、良い意味で最も人間臭さが出ているルートでした。
ラストのみさきvs明日香はまさに手に汗握る展開。
身近な人物がラスボスというのは王道ながらも素晴らしい。
反面、明日香ルートは違う意味で王道です。強者が強者に立ち向かう物語。
枠内の戦術で勝負に挑んだみさきとは異なり、こちらは枠外の戦術でFCの殻を破るスケールの大きな物語です。
ラスボス格の乾だけでなく、真藤部長や各務顧問のような名を馳せる強者との試合も用意されており、試合内容はとても充実しています。
また、主人公とヒロインの実践練習が唯一存在するルートでもあります。
二人の技を組み合わせて決着をつける展開はスポ根として定番ながらも熱い。
個人的には乾との決戦よりも各務顧問との試合の方が、選手とセコンドが一体となって戦っているようで白熱しました。
選手固有の技・技術があるとテンションが上りますね。
ただ、このルートは基本順風満帆なサクセスストーリーです。そのため、賛否はかなり分かれるでしょう。
良くも悪くもみさきルートとは正反対の展開です。
みさきルートとの対比描写として良く出来ていたため個人的には評価しているのですが、単純にスポーツもので天才的な展開を嫌う人は多いのではないかと思われます。
逆に残念だったのは莉佳ルート。
ラフプレイヤーと化したかつての友人・黒渕との関係について描かれた物語ですが、とにかく心情描写が薄っぺらい。
過去が殆ど掘り下げられていないため、黒渕がラフプレーを好むようになった理由付けが希薄。
また、友人だと明かされてから決意するまでの葛藤が非常に短く、唐突過ぎて決戦では何のカタルシスも生まれませんでした。
試合も元々ラフプレーを是とする選手が相手なため、燃えるような展開に乏しく、他学校という必要性もあまり感じられず褒められる点が殆ど無かった。
また、このルートに限り明日香の行動にも疑問があり、シナリオのために動かされたような印象が強く残ってしまった。
所々メンブレンの存在が忘れられていますし、担当ライターが違ったのでしょうか?
個人的に特に楽しめた試合は
(共通第6話)青柳紫苑 vs 乾沙希
(共通第6話)倉科明日香 vs 真藤一成
(共通第6話)真藤一成 vs 乾沙希
(明日香最終話)倉科明日香 vs 各務葵
(みさき最終話)鳶沢みさき vs 倉科明日香
他気になった点
・全体的に過去の掘り下げが不足している。黒渕の友人時代が殆ど描かれず仕舞いだったため、決戦には何の感動も呼び起こされなかった。また、明日香はFCに出会うまでは何の取り柄のないダメな子だったらしいですが、それらしいエピソード描写が全くなかったため万能キャラという印象になってしまった。主人公が幼少期に出会っていたという設定も殆ど活かされず残念。あのプロローグは何だったのか。
・FINALEの蛇足感。全ヒロインのエンディング後に唐突に別シナリオが開始されるものだから読後感が非常に悪い。何を伝えたかったのか未だによく判らない。
・FCの抜け穴。ショートカットされた際にその選手の前のラインでとどまった場合どうなるのか?スイシーダ(海に突き落とす技)はタイプの相性によっては完封できるのではないか?など。まあ今挙げた点はルールにいくらでも追記できるのですが、公平を期すスポーツである以上どうしても気になってしまいますね。
・上述のように、莉佳ルートにてメンブレンの存在が所々消滅していた。互いにグラシュを起動させた状態で普通に手をつないだりしていている。メンブレン同士は反発しあうという設定はどこにいったのだろうか。空中でのON/OFFはロックが掛かっていて通常解除は出来ないはずですが。
●キャラクター・CG
ヒロインは4人と平均的、サブキャラは非常に豊富です。
ヒロインは言わずもがなですが、久奈浜FC部や高藤学園の面々はとても活躍していました。
特になんちゃって高飛車キャラの佐藤院のルートを望む声は多いのではないでしょうか。私もその一人です。
男勢も魅力的で、本当に素晴らしいサブキャラ陣でした。
しかし、一部に関しては上手く立ち回らせることが出来ていなかったのが残念でした。
特に四島水産の我如古繭に至っては顕著で、存在意義すら問いたくなるほどの空気っぷり。
一応直接的な試合描写自体はあるものの、相手は真藤を圧倒するレベルと化した明日香でしたし、本当に見せ場が無かった。
ゲームを終えた時点で、公式HPのキャラ紹介文以上の情報が得られなかったといっても過言ではありません。
メイン原画は悠木いつか氏、鈴森氏。
柔らかいタッチで癖も無く、万人受けする作画だと思います。
エロさは感じませんが、個人的にドストライクな絵柄。
お気に入りキャラは明日香、窓果、佐藤院。
イチオシCGは明日香の告白シーン。正面絵での告白は意外と珍しく、夕日の背景と相まってたまりません。
●サウンド・その他
主題歌、挿入歌、各ヒロインEDに1曲ずつ、FINALE EDに1曲の計7曲。
中でもお気に入りは、
・主題歌『Wings of Courage ~空を超えて~』/ 川田まみ
・挿入歌『INFINITE SKY』/ KOTOKO
の二曲。
前者は透明感、後者は疾走感を表現出来ており、空のスポーツとして非常にマッチした曲調。
BGM数は不明。
本作はサウンドモードが実装されていないため、曲名を確認できず。
試合中のBGMや、Wings of Courageのピアノアレンジがお気に入り。
他の不満点として、CGモードの差分一覧表示。
差分間の移動でいちいちメニューを介さなくてはならないのが面倒です。
●総評
複雑な人間関係は無しにして成長譚が見たい!という方におすすめしたい作品。
テンポが良い為、中弛みすることなく読み進めることが出来ます。
試合中の演出も秀逸で、画面シェイクやスクロール等を効果的に入れることで臨場感溢れる内容を表現出来ていました。
また、選手の動きをテキストに起こすのは基本的に困難ですが、コントレイルと呼ばれるグラシュの軌跡を示したCGを多数用意することで、読者に視覚的にイメージさせやすくしていたのは高評価。まさにFCならではの工夫と言えます。
ただ、主人公が選手復帰して大活躍するような物語ではないため、根本から求めている方向が異なるとかなりの肩透かしを食らうかと。
また、先述のように人間関係は割と淡白。もう少しエピソードを多く挿入すれば関係性に重みが生まれたように思います。
体験版ではそこまで惹かれませんでしたが、個人的に満足な作品です。
長文失礼致しました。