濃密なイチャラブに一滴の燃えを加えた萌えゲー。
●シナリオ・キャラ
・あらすじ
日本海の上空に浮かぶ島・幻創庭国イスタリカ。
この国には、日本全国にいる「魔法使い」を集めて教育する機関・ウィズレー魔法学院があった。
当時、物理法則を捻じ曲げる魔法は危険視されていた為、それらが使えなくなるまで生徒を保護する目的で建立された学び舎である。
そこに突如招き迎え入れられた主人公、夏本律。
魔法は若い女性しか扱えないとされていたため、史上初の「男の魔法使い」の出現に学院は大騒ぎ。
―――魔法とは、想いの力。
イスタリカ国の姫・オリエッタは、律の「彼女を作りたい」という強い願いが彼に魔法の能力を開花させたと判断。
先に入学していた律の妹・諷歌や、旧来の幼馴染・秋音、頼れる文武両道の先輩・姫百合らをも巻き込んで、主人公の恋人探しが始まる。
・シナリオ
攻略可能なヒロインはオリエッタ・秋音・諷歌・姫百合の4人。
どのヒロインのルートも、出会いを重ねて互いに惹かれ合いながら、最終的に主人公が一大決心して告白をするという王道まっしぐらラブロマンスです。
恋人になってからのエピソードは後日談として用意されており、そこではこれでもかという甘いイチャラブエロ物語が展開されます。
オリエッタルートは若干のシリアス要素や伏線を含みますが、基本的に他キャラとの対立・衝突やイザコザもなく、明るくて軽快なテキストが続きます。
魔法モノと銘打っていますが、ヒロインが魔法を駆使してひたすらドンパチするわけではないので、そのような話は期待しないほうが良いでしょう。
他に、イスタリカの謎を紐解くトゥルールートなるものが用意されています。
こちらは甘々な個別ルートとは打って変わり、主人公がクロノカードから世界の矛盾性を見抜き、それを打破するためにヒロイン達と共に奔走するシリアスな話が展開されます。
まあシリアスと言ってもあくまで個別と比較した場合の評定なので、どちらかと言うと熱い展開だと言えます。
戦闘が始まってからラストのシーンまで目まぐるしく進展するため、中弛みすることなく読めました。
緊迫した場面では、文章量を極力抑えることで物語の背景よりテンポの良さを重視することに成功した結果とも言えます。
トゥルールートは選択肢が非常に多く、プレイヤー自身が物語を正しく理解していなければクリアは困難となっています。(QSQLは言わない約束)
特に魔導天秤と呼ばれる、魔力量を計算して相殺するバトルは難関。初見突破できた方には心の底から敬意を表したい。
・キャラクター
ヒロインを一言で表現するなら、猪突猛進系元気ロリっ子、少し毒舌気味な巨乳妹、男装している幼馴染、女の子らしい性格に憧れる先輩。
キャラ被りも空気にもなっておらず、非常にバランスの取れたヒロイン勢です。
男装している秋音が普通の女の子の恰好に戻る場面では、吊り橋効果により一層魅力的に感じられました。
また、オリエッタと諷歌の関係は、エピソード自体はあまり無いものの、本当に仲の良い存在なんだと思わせる不思議な魅力がありますね。
個人的にはオリエッタと諷歌が好みです。決してロリコンではありません。
主人公は恋愛に対してどんどん突き進むため、よくありがちな受け身体質ではありません。
基本ポジティブシンキングで、青臭い部分も含めて個人的にとても好印象。
デザイン的には梱枝りこ氏の作風もあってロリ傾向が強め。
以前同メーカーで手がけた学☆王よりも一段階幼児退行させた印象ですね。
サブ勢では猫耳メイドのシャロンが良い味を出しています。
本編でも食堂という学生に馴染み深い場所で働いていたり、オリエッタと深く関わってくるのが大きいのでしょう。
反面、同じ教師陣であるメアリーやランディ、ジャネットはヒロインとの接点自体があまり無いため、どうしても印象が薄くなってしまいました。
ライター自身も上手く扱いきれて無いかなと。
まあ、メアリーがある意味印象深くなるのはトゥルー終盤ですが(泣)
●構成
構成は少し特殊で、ヒロインと恋人関係になった時点(共通終了)で一先ずエンドロールが流れます。
恋人になったヒロインは「ステディモード」に登録され、そのキャラを選択することでタイトル画面から後日談を遊べます。
この後日談が実質個別ルートに当たります。
後日談をクリアすることで初めて各ヒロインのクリアフラグが成立するようです。
エンディングは、リストに登録されないバッドエンドを除いても16種と豊富。
中でも、ヒロインズの各恋人エンド+後日談と幻創庭国イスタリカの真相に触れるトゥルーEDの5本が物語の中核となります。
おまけ的な位置付けのエンディングとしては、オリエッタの夜伽役になったりヒロインズを侍らせるようなエッチテイストなものから、
お茶漬けと結婚したり姫百合と超必殺技を習得する旅に出るようなおバカENDまで多岐に渡ります。
ただ、夜伽エンドや妊娠エンドではHシーンどころか専用のCGすら無かったのが残念。
せっかく「選択肢の幅広さ」をウリにしたゲームなのに、こういう点で妥協してしまったのは勿体無い。
●サウンド
ボーカル曲はOP1曲、ED2曲の計3曲。
・オープニング『Graceful Anomaly』/ ave;new feat.佐倉紗織
・エンディング『Sugar Ripple』/ ave;new feat,佐倉紗織
・俺らエンド『無慈悲なレクイエム~I'm engulfed in sorrow~』/ UMA
OP、EDともに軽快でキャッチーな曲調。佐倉紗織さんが好きな方なら気に入ると思います。
無慈悲なレクイエムはある特定のエンドでのみ流れます。色々な意味で悲しくなる曲です。
ちなみに、作詞は万年独身女性ジャ○ットさんの中の人です。
BGMは30曲(音楽鑑賞モード準拠)。
ポップ、シリアス、コミカル、壮大な曲まで取り揃えられており、好印象。
割と印象的なBGMが多かったように思います。
幻想的な曲調は、場面の情感を上手く表現しておりとても良かったと思います。
ただ、シリアスなシーンで日常曲を流すなど、いくつかのシーンで不適だと感じたのが残念です。
「Magical Charming!」「幻創庭国イスタリカ」「Advent of a New World」
「Crossing Desire」「Chronicle if...」あたりがお気に入り。
●システム
・クロノカードシステム
言わずもがな、今回の肝であるシステムです。その数なんと300種。
シナリオを進めていくと、要所々々で行動や物体、場所、各ヒロインの思い出などを記録したクロノカードを頻繁に取得します。
このクロノカードはプレイヤーの選択肢としてそのまま用いられるため、幾度もプレイすることで行動の幅が広がります。
ヒロインに好かれる行動を取るも良し、奇抜な行動を取ってヒロインの反応を楽しむも良し。俺らENDへ、いざ往かん。
システム画面から「クロノペディア」というページを開くことで、過去に入手したカードの説明を閲覧できます。俗にいうTIPSや用語解説のようなものです。
トゥルールートでは、殆どの人がお世話になると予想されます。
また、クロノカードはシナリオという面でも非常に重要なアイテムです。
トゥルーシナリオではイスタリカの本質を解く鍵となり、また戦闘でも重用されます。
戦闘シーンではプレイヤー自身が正しいカードを選択する必要があり、その成否は「どれだけクロノカードを収集したか」「プレイヤーがしっかり教師の話を理解していたか」に掛かっています。
単なる「お遊び」システムに終始せず、シナリオとゲームの二面性を持たせた手腕はお見事。
・コンフィグ周り
個人的にあまり弄ることは無いのですが、エフェクトON/OFF、選択肢後のスキップ継続、各ボイスの個別調整等、基本的な機能は完備。
各エフェクト毎のON/OFF、改ページで音声停止の有無、実行確認ウインドウの個別設定等、細かな配慮もなされている印象です。
ただ、文字の縁取り設定がないため、ウィンドウの透過率を上げると背景と同化してしまうのが瑕。
・その他システム
クリア後特典のおまけモードでは回収したCGの閲覧、シーン回想、音楽鑑賞といった基本的な機能に加え、各キャラの立ち絵や背景CGも見ることができます。
また、ステディモードでヒロインを選択すると、タイトル画面やシステムボイスがそのヒロイン仕様になります。
その状態で各ヒロインの誕生日やクリスマス、バレンタインデー等にゲームを起動することで専用イベントを見ることができます。
各ヒロインに8種ずつ用意されているので、パソコンの内部時計をいじりつつ探してみるのも良いでしょう。
●その他
立ち絵は表情差分含め各ヒロイン約40~50種あり、とても豊富。
表情がコロコロ変わるため、見ていて飽きない。
この豊富さもヒロインの魅力を引き立てる要因の一つになっています。
ポーズは各ヒロイン2種類ずつ。
以下、内訳(おまけモード準拠)
▽CG総数(内SD):95(12)
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オリエッタ:23(3)
秋音:23(3)
諷歌:23(3)
姫百合:24(3)
他:2
▽背景CG数:34
▽立ち絵CG(表情*服装)
オリエッタ:48*4種(制服・私服・水着・パジャマ)
秋音:37*5種(男子制服・男子私服・女子制服・女子私服・女子水着)
諷歌:49*4種(制服・私服・水着・パジャマ)
姫百合:40*5種(制服・私服・水着・ネグリジェ・浴衣)
Hシーン数
計:16
各ヒロイン:4
●総評
燃えエッセンスが少し利いたイチャラブ萌えゲー。
近年のLump of Sugar作品の中でも特にシナリオが練られていました。
伏線の張り方も巧妙ですし、主人公が考察する過程もプレイヤーに選択を委ねることでいい塩梅に共感させることに成功しています。
体験版そのものを伏線として使う手法は新鮮でしたね。販促効果があるかどうかは別問題ですが。
ただ、細かい部分の設定には故意か過失か触れられていないため、全てを明らかにしなければ得心できないプレイヤーには痼が残るかもしれません。
まあそれらの不可思議性は「魔法」という言葉で片付けられるとも言えますが。
大筋では論理も破綻していませんし、重箱の隅を突かなければ素直に面白いと感じられます。
あと、戦闘シーン(特にラスト)は恐らく何度もロードすることを想定しているため、人を選ぶかもしれません。
個人的にはプレイヤーの知識と歩んだ歴史を試される、趣向を凝らした面白い演出だと思いましたが。
総括すると、期待を遥かに上回る出来栄えでした。
正直、このライター陣からこれほどの作品が生まれるとは露ほども思っていなかった。
心からお詫び申し上げます。
次回作、期待して待っています。