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astroさんの時計仕掛けのレイライン -残影の夜が明ける時-の長文感想

ユーザー
astro
ゲーム
時計仕掛けのレイライン -残影の夜が明ける時-
ブランド
UNiSONSHIFT:Blossom
得点
88
参照数
708

一言コメント

一作目で不完全燃焼だった要素はほぼ消化され、また展開自体も惹き込まれるものがあり、素晴らしい出来。キャラの魅力、CG、演出も申し分なく、非常に高水準に纏まった作品。ただ個別は相変わらず尺が短く淡白なのが惜しい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 「時計仕掛けのレイライン -黄昏時の境界線-」の続編となる今作。
前作同様、基本的に特殊事案調査分室(特査)に持ち込まれるトラブルを解決していく物語である。
しかし、前作でこれでもかと撒き散らされていた謎の殆どが回収されており、読後感の良いシナリオに仕上がっている。
その上本筋の盛り上がりは前作の比ではなく、本当に素晴らしい作品だった。

 以下、ネタバレ有りの書き殴り所感。前作のネタバレも含むため注意。


◆シナリオ
 他の方も述べられているように、伏線の回収が非常に秀逸である。
今作にはホムンクルスという概念が新たに登場するのだが、この情報を足掛かりにして前作での謎や伏線を一手に回収仕切る構成には度肝を抜かれた。
一つのヒントを得ることでパズルのピースを嵌めるかの如く連鎖的に真実を解明していく様はまさに圧巻の一言。
また、シナリオと無関係だと思わせる場面にも何らかの意図を張り巡らせていたのも良かった。
一見ただのコミカルなシーンにも細かに伏線を仕込むことで先の展開を予想させ難くさせており、次が気になってクリックが止まらなかった。
また、終盤で明かされる怒涛の真実の多くが過去に何らかのヒントとして明示されているのもよく練られている。
魔術という所謂チート的な存在を題材にしておきながら、安易にその汎用性に頼り切らなかった点については評価したい。

 また、伏線だけでなくシナリオ展開についても大変素晴らしかった。
前作の本筋シナリオは可もなく不可もなくといった印象だったが、今作は緩急の付け方が上手く次へ次へと読み進めることができた。
というのも、前作では魔術が存在する雰囲気や世界観の形成は出来ていたのだが、如何せん盛り上がりに欠ける面が大きかった。
その理由として、憂緒たちを始めとする主要人物には、推理は出来ても魔術的な実動力が殆ど無かったためだ。
そのため、物語の大半が推理パートと化してしまい、人物達に動きが少なかったのが痛手だった。
 しかし、今作は正統な魔術の家系が新たに登場することで、行動指針が大幅に拡大。
本人たち自身が有能でかつ学園の謎を解き明かすために能動的に活動していたというのも大きい。

 加えて、明らかな敵対勢力を登場させたのも盛り上げる要素の大きな一因を担っている。
今までの事案は、言ってしまえば大半が不慮の事故でありどこかシナリオに軽い印象を与えてしまっていた。
反面、今作はヴァインベルガー家の人間が敵対ポジションとなったり、現世の生徒を犠牲にして夜の生徒を復活させるという深刻な思惑が明らかにされるため、その目まぐるしく動く展開に目が離せない。
 そして何より衝撃的だったのは、小太郎の消失とその正体。
睦月を探し出すことを物語の主目的だと捉えていた私は、事件が収束してからの急転直下に見事にやられた。
 ギャグ、シリアス、推理、燃え、萌え、感動と様々な要素がバランスよく揃っており、本筋シナリオは本当に申し分無いレベルである。
それでいて次回への布石もきちんと残しており、完結編がとても待ち遠しい。

 一方で、憂緒以外のシナリオについては今作も投げっぱなしである。
今回は訪日者のアーデルハイトと学園長の分岐ルートが用意されているのだが、相変わらず尺は短く起伏のない淡白な物語。
両想いになる理由付けも弱く、ただの恋愛物として見てもあまりに適当な作りである。
特に学園長に至っては、本筋では昼の生徒を犠牲にしようと画策しているし、全く別次元の物語であると言っても過言ではない。
もはや個別は形式上結ばれてHシーンを見るためだけのルートなので、そのキャラが特別好きだったり、単純にCGを埋めたいと思う人以外は完全スルーでも何ら問題はない。

 他に気になった点は、風紀委員があまりにもぞんざいに扱われていたこと。
西寮の風紀委員は特殊な訓練を積んでおり並大抵のことでは敵わないとされていたが、全く実感が伴わなかった。
というのも、1章にて大勢の風紀委員がアーデルハイト一人によって壊滅させられてしまうという不甲斐ない光景を目の当たりにしたためである。
西寮の風紀委員は普通の風紀委員とは違って戦闘能力は高いという、字面だけではなく印象付けるエピソードが欲しかった。
そうすれば、終盤の風紀委員に囲まれる展開に更なる緊迫感を与えることができたのではないだろうか。
 新キャラの聖護院百花についても、風紀委員長として何がどう有能なのか全く触れられなかったのはマイナス。
あれで聖護院は信頼できる方だと言われても納得しかねる。
風紀委員全体の掘り下げが不足していたのは残念だった。


◆キャラクター
 シナリオ面もさることながら、キャラクターも非常に魅力的である。
 今作ではドイツから来訪したアーデルハイトや風紀委員の聖護院百花などの新キャラが登場するが、その中でも一際存在感を出していたのはやはりルイだろう。
頭脳明晰で冷静沈着、魔女の資質も持つ超ハイスペックな人物。
終盤で聖護院と対峙するシーンではその能力を遺憾なく発揮し、サブキャラ枠を超える程の活躍を見せてくれた。マジイケメン。
 顔見せ程度ではあるが、三厳の妹である満琉や憂緒の捜し求めていた親友の睦月も少しだけ登場する。
この2人の主人公たちとの具体的な絡みは殆どなかったため、次回に期待したいところ。
満琉は三厳と静春、睦月は憂緒とそれぞれ関係深いので、次回作ではさらにキャラの魅力が引き出されることだろう。

 前作で鍔姫や静春、春霞が正式に仲間に加わり、また新キャラに焦点が当てられたにも関わらず、既存のキャラにもきちんと出番が与えられていた点にはとても好感が持てる。
どうしても大所帯になると、主人公との関連性が低かったり平凡な人物は空気になってしまいがちだ。
だがその点、本作では適宜ザッピングを用いることでその欠点を上手くカバーしている。

 お気に入りキャラクターは憂緒、リト、アーデルハイト、ルイ、小太郎、静春。
特に憂緒は本当に良いキャラをしている。感情描写も丁寧で好感が持てる。
前作では殆どクールでいたのに対し、今作では目に見えて嫉妬深くなっていたのは自然で良い感情の変化だ。
肉体関係を持つまで進んでしまったのなら誰だって嫉妬深くなるし、逆にクールなキャラのままでいられたら憂緒の評価を下げていたかもしれない。
それだけに、憂緒ルート以外のあっさり身を引く展開には首を傾げずにはいられない。ただのifだと割りきってしまったほうがいいのだろうか。
 また、アーデルハイトも初期のイメージとは異なり非常に可愛らしい性格をしているし、主人公と静春のコンビも相変わらず見ていて楽しい。
前作のレビューでも触れたが、このシリーズは本当に魅力的なキャラクターが多い。それだけで恋愛物のエロゲとしては高得点を上げたい。


◆その他
 演出についてだが、細やかな配慮が為されていて非常に良い。漫符あり。
最近では珍しくなくなったが、ボイス中に表情や立ち絵が変化する仕様はキャラの魅力を引き立てる効果が絶大だと思っているので高評価。
また、キャラが歩く場面では立ち絵をスライドさせるだけでなく細かく上下に動かしたりと、本当に丁寧に作られている。
効果音も適した場面で使われており文句無し。
また、前作でもそうであったが夜の世界に移行したり遺品を封印・収納するシーンには専用のムービーが用いられている。
炎や光の演出もちゃんと用意されており、臨場感を出すのに一役買っている。
やはりゲームである以上こういったアドバンテージを活かすことが重要である。

 CGに関しては前作同様相変わらず安定している。
淡い塗りが世界観にマッチしており、とても高水準。

 Hシーン。アーデルハイト2回、二人2回(うち+百花1回)、憂緒2回の計6回で、内妄想Hが3回。
回数は少なめで、どれもあっさりしている。ただ憂緒の妄想で悶えるシーンは非常に可愛い。
個人的に、憂緒の着衣Hを要求したいところ。

 システムに関しては可もなく不可もなく。
私は基本的にボイススキップの可否、テキストのスピード程度しか弄らないので特に不満はなし。
一般的な機能は完備されていると思われる。
 前作のレビューでは触れなかったが、本シリーズにおける選択肢は非常に良い役目を果たしていると思う。
ユーザーに実際に推理させることで没入感を与えるだけでなく、現状の情報整理としての効果もある。
また、間違った選択をすると憂緒が論理的に反論してくれるのも良い。

 BGM。雰囲気にマッチしており特に問題なし。
個人的に、BGM鑑賞モードで各曲に作曲者さんのコメントが載せられているのはプラス評価。こういう細かい特典は嬉しくなる。
BGM MODEの曲数は33曲。
「Harmony und Disziplin」「Die Melodie des Schattens」
「Casual Days」「Intruders」「Vanish」あたりがお気に入り。


◆総評
 前回で不満だった要素は本作で殆ど解消されており、大変素晴らしい作品だった。
展開自体もメリハリがあり、ギャグ、萌え、燃え、感動と非常にバランスよく構成されている。
キモである魔術に関しても今作では深い部分まで触れられており、派手な戦闘をしない魔法系のファンタジーとしてはかなり理想型に近いのではないだろうか。
シナリオ以外でも、CG、演出、BGMとどれをとっても高水準で纏まっており、非常に丁寧な作り。
 ただ、前作同様個別シナリオに関しては実質あって無いようなものである。
惚れる理由もよくわからないまま付き合ってエンディングを迎えてしまう。
そのため、憂緒以外のキャラ目当てで購入するのはやめたほうがいいかもしれない。

 二作目の評判が良いことは前から知っていたが、想像以上の出来だった。
かなりハードルが上がってしまっているが、完結編にも全力で期待したい。




◆おまけ
 今回の憂緒ルートでは前回と異なり完全に三厳の意思で性交してしまったわけだが、次回作では他のヒロインルートに行くことがあるのだろうか?
どう見ても既に二人は両想いであり、ここからブレるとなると相当の理由が必要な気がするし、どういった構成になるのか若干不安である。
(完結編のHPには数人のHCGが公開されている)
"大人の事情"だったりよく分からない理由で他の分岐に行ってしまうのなら評価を下げることになるかもしれない。Anotherだと信じたいところだ。
まあ単純に憂緒が好きなのでここまで進展してしまったのなら幸せになってほしいなあと個人的に思っているだけなのだがw