ErogameScape -エロゲー批評空間-

astroさんの時計仕掛けのレイライン -黄昏時の境界線-の長文感想

ユーザー
astro
ゲーム
時計仕掛けのレイライン -黄昏時の境界線-
ブランド
UNiSONSHIFT:Blossom
得点
75
参照数
475

一言コメント

キャラやCGに関しては総じて高水準に纏められていて、本筋シナリオに関しては可もなく不可もなく。ただ、個別はかなり杜撰な出来。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 この度完結編が出るということで、積んであった黄昏時を開封。

 基本的には、遺品(ミスト)と呼ばれる魔術道具の暴走を止めるために奔走する物語。
終盤は行方知れずとなった同じ特査メンバーの憂緒を救うために立ち向かうなど、往年の作品でよく見かける展開である。
パッケージやタイトル画面からは重厚でシリアスな展開が予想されるが、本作はコミカルなシーンも多く、軽妙なタッチで描かれている。
魔術を駆使するわけではなく基本的に謎解きシーンが多いため、期待している方向性を間違えると肩透かしを食らうかもしれない。


 では何のカタルシスも得られないのかと言われればそうでもない。
主人公の正体の伏線回収には成る程と感心させられた。
思えば不審な点はあったのだが、魔術という何でもアリな手段が横行する世界観であったため、てっきり遺品を凌駕する隠蔽能力でもあるのかとミスリードさせられてしまった。
 ただ、現時点では多くの不明な点が放置されたままである。
夜の世界とは?憂緒の親友は結局どうなったのか?明らかに学生ではない(と思われる)リトの正体とは?など。
三部作の一作目ということもありそういった伏線や過去に纏わる真相に関しては本作だけでは判断できない。
そういったシナリオに重きを置いた作品ではなく、魔術の体験や特査のメンバー(主に主人公と憂緒)が不和を乗り越えて信頼関係を結ぶための、所謂レイラインという大きな作品の導入部といった印象だ。


 本作にはヒロインが三人用意されているが、憂緒ルートを主軸とした階段状分岐方式である。
そのため、あくまで憂緒ルートが本筋であり他の分岐はおまけ的役割になってしまうのだが、それにしてもあまりにも適当なシナリオである。
眠子と鍔姫への分岐シナリオは、どちらも魔術とはほぼ無関係なただの学園イチャラブものであった。内容も淡白で、尺も相当短い。
 例えば、眠子ルートは普通なら昼と夜の住人という違いに葛藤し、何か方法はないかと模索する…といった展開になるであろうが、そのような展開は一切なし。
住む世界が異なるという割と深刻な問題に対して殆ど苦悩することなく結ばれてしまったのは如何なものか。
鍔姫も、恋人になるまでの経緯が殆ど描かれずよく分からないままに終わってしまった。
尺が短いだけならたとえ納得は出来なくとも理解は出来るのだが、心情描写が杜撰というか、投げっぱなしだったのは大きなマイナスポイント。
短いなら短いなりにしっかりと纏めて欲しかったところ。
 他に気になったのは、眠子ルートで妄想台詞が過剰だった点。
妄想キャラなのはこれでもかと実感したが、一言毎に妄想を挟むためテンポが大きく損なわれてしまっていた印象。
ヒロインが何を考えているのだろうと予想するのもエロゲーの楽しみの一つであると考えているため、一言一句似通った妄想を聴かされるのは苦痛に感じてしまった。
 メインの憂緒ルートに関しては、学園の謎の一端に触れたり、犯人との対峙、クピドの弓騒動など、コミカルとシリアスのバランスが良く楽しめた。
真相を解き明かすのは次回作以降だが、まさに雨降って地固まると言った展開で、不仲な二人のの導入編としては良い流れだったのではないだろうか。
ただ本作では両想いになるまでに至らないので、エロゲとしては不完全燃焼。また、Hシーンへの導入は少々無理のある展開であった。
シーンを入れなければならないという"大人の事情"もあったのだろうが、なあなあで性行為に及んでしまうのはどうなのだろうか。まあ既に無自覚的に惹かれ合っているのだろうけれども。
この方式ならおそらく次回でも結ばれないであろうため、二人の恋物語は完結編に期待。


 キャラ評。
私が本作を評価する最も大きな点である。私情に塗れた駄文なのでご注意。
 何と言っても特査メンバー、特に主人公と憂緒の関係が本当に自分の好みにド直球。それだけで高得点を出したいほどである。
互いに歯に衣着せぬスタンスで常に啀み合い、それを宥める緩衝材のヘタレたところもある苦労人こと小太郎。こういう関係性を眺めているのが至福のひと時。
憂緒のような聡明で孤高、冷静沈着なタイプの所謂クール系ヒロインは珍しくないが、シナリオ補正もなくここまで好きになったキャラは久しぶりだ。
昨今はクーデレやツンデレと言ってもデレ成分が大半を占めている場合が多々有り、甘々な態度に辟易とまではいかないが心を動かされることが殆ど無かった。
反面、憂緒は簡単には外面に出さず、基本冷徹な態度を取り続けている。デレの割合が絶妙すぎる。
アナザーを見る限り、付き合い始めたら甘々になりそうなのもGOOD。付き合ってもいないのにデレに塗れたクーデレなんて必要ない。
クピドのエピソードで、可愛い可愛い連呼されて赤面せずクールぶっているのに内心穏やかではなく無意識的にポンコツ化している点とか含めてもう本当に可愛い。クーデレタイプとしてはド直球。
そして主人公が八方美人でない点が大きい。相手を選び正直に心情を吐露する性格は好感が持てる。
常に他人に気を使う温和なタイプも嫌いではないが、気に食わないときは正面から突っかかるタイプの方がヒロインの魅力も引き出せるというもの。
それでいて根はやっぱり優しいというのが良いバランスだ。
静春も子供っぽいが非常に良いキャラをしている。主人公が不遜な対応をしなければ、ああいういい意味で弄られ体質な一面は出なかったであろう。主人公と静春も良い関係をしている。
おまること小太郎はいかにも振り回される苦労人といったところでいい塩梅。ヘタレかと思いきや、ここぞという時には活躍してくれるタイプだ。
今作終盤では静春も特査に加わったことで、次回作以降ではこの4人て調査していくことになるのだろう。この先の面々を想像するともうニヤニヤが止まらない。大好きだこいつら。


 CGや演出その他諸々。
着色は淡く仕上げられており、中世をイメージしたアンティーク調の学園という世界観にマッチしている。
手錠で繋がれたCGの冷たい視線や、妄想を展開している眠子のいい意味でキモいにやけ顔など、表情の描写も秀逸。
SDも可愛く描けており好印象。作画が崩れることもなくどちらも文句無し。
 演出面や効果音も適材適所で使われていて文句無し。
座る時や立つ時の緩急つけた画面効果など、細かいところまで行き届いていた印象。


 総評すると、キャラ描写やCG・演出には不満もなく満足した出来であった。
特に上でも長々と吐露したように、キャラに関しては久々にヒットした作品だ。
様々な真相に関してはまだ三部作の一作目であるため評価はできないが、矛盾点などは今のところ特に感じられない。
 ただ、ボリュームが少ない点と、憂緒以外の個別の杜撰さはとても残念であった。
勿論価格相当のボリュームは必要であるし、短いなら短いなりの展開を用意するべきであった。
また、遺品の暴走→止めるために画策、奔走という同様の流れが続くのも人を選ぶかもしれない。
私はCCさ○らみたいな数多のショートストーリーで綴られる物語は好きなため特に不快に思うこともなく読み進める事ができたが、進展が遅くなりがちであるため退屈に感じる人もいることだろう。

 本筋のシナリオに関しては可もなく不可もなくといったところだが、キャラが非常に魅力的でCGも好みなため割と高評価。
次回作以降も是非プレイしたいと思う。





P.S.
手錠プレイで尿意を催す展開が無い…だと…?
尿意に打ち震える憂緒ちゃんに期待したワクワクを返せ!