共通と個別の注力配分を間違えてしまった、惜しい作品。
▼シナリオ
時は遠い未来。地上は人の住まう地で無くなり、地下ドームでの生活を余儀なくされた世界。
無味乾燥な毎日を送っていた主人公・秀隆は、ひょんな事から街の外交官的な役割「特務官」に就く。
その奇抜な発想をする頭脳を駆使して街の為に奔走する、といった物語。
対立組織となるドリームタウンの特務官との抜きつ抜かれつの政治的攻防を繰り広げるような話ではなく、
新人特務官として与えられた任務をその卓越した頭脳を以って如何に乗り越えるか、を重視した物語です。
その合間に、凛やアクセラの抱える問題を解消していくのが本編の主な流れとなります。
片桐家の家庭問題やストーカー事件の真相を暴くエピソードはしっかりと細部まで練られており、とても好印象。
ただ、高坂特務官と言う相手側のエースとの直接対決を期待していると肩透かしを食らうかもしれません。
個別は、各ヒロインが抱える悩みを解決していくという定番のストーリー。
その中で頭ひとつ抜けているのが、秋ルート。
他の個別と比較しても鮮烈なシナリオが展開され、妹との険悪な関係の真実が明かされます。
今の主人公を形成した原因も判明するため、ある意味最もメインに相応しいルートと言えます。
特務官とは殆ど関係のない展開ですが、個人的に最も楽しめたシナリオです。
逆に、他の個別はかなり淡白かつ短く仕上げられています。
アクセラが活動停止するというシリアスチックな話は共通で消費してしまうのですが、
個別シナリオを肉厚にするためにもこのエピソードはアクセラルートに回しても良かったのでは?
また、キズナルートでは唯一秘められた地上に触れることができますが、起承転結の転で強制終了した印象。
展開的にも、レミニセンスのメインシナリオを想定して作られたと思われますが、
キズナの動機や心の機微が今ひとつ読み解けなかったため、のめり込むことはできませんでした。
裏ルートとして、ドリームタウン側が保護した地上の生き残り・恭一視点のシナリオが用意されています。
時間軸自体は本編と同じで、恭一という別視点から眺めたシナリオ。
話中で秀隆がキズナと付き合っていると明言したことからキズナルートの別視点だと思われるが、所々に齟齬がある模様。
せっかくの別視点なのだから、地の文を大幅に加筆して欲しかったですね。
特に秀隆と接する場面では地の文こそが別視点の意義でしょうに。
しゃんぐりら様の作品「暁の護衛」シリーズに深く関わっているシナリオですが、様々な謎は明かされず仕舞い。
恐らく次回作への布石でしょう。
▼キャラクター
メインヒロインはキズナ・秋・アクセラ・凛・希望の5人。
個人的に気に入ったヒロインは、ドリームタウン組の希望と凛です。
というより、共通での他ヒロインは殆ど主人公弄りに徹していたため、魅力が感じられるエピソードが余りなかったのが残念。
ここはライターの手腕に依る所が大きいでしょうが…。
主人公は弄られ体質を持つ、頭の切れるキャラ。
確固とした信念を持っており、非常に好感の持てる主人公です。
見た目がモブとは言わない約束。
そしてメインを食いかねないほど魅力的なサブキャラ勢。
特に愛佳に至っては、個別ルートを求める方も多いのではないでしょうか。
辛口なヒロインに囲まれていると、純粋に好意を寄せてくれるのは精神的にも安らぎますね。
絵師はトモセシュンサク氏。
表情の造形に定評があり、私も氏の描く表情(特にニヤリ顔)が好みです。
ただ、若干バランスがおかしい立ち絵CGも散見されました(凛の横を向いた立ち絵等)。
お気に入りキャラは凛、希望、愛佳、和葉。
キャラクターデザインでは秋、凛、愛佳、恋。
▼構成
攻略順は一部ロックされており、凛と希望をクリアした後、残り3人が開放されます。
全員攻略後、裏シナリオの恭一視点が開放。
エンディングは各ヒロインの正規5種、恭一視点1種に加え、裕輔とホモENDのようなバッドがいくつかあり、計6+α種あります。
▼サウンド
ボーカル曲はOP2曲、ED1曲の計3曲。
・メインオープニング『やがて消える幻でも』/ 榊原ゆい
・恭一編オープニング『幻影ノスタルジア』/ カヒーナムジカ
・エンディング『未来をつなぐ記憶の欠片』/ BOTG feat.霜月はるか
可もなく不可もなく、といったところ。
BGMは35曲(音楽鑑賞モード準拠)。
大人しめな曲調が多かった印象です。あまり記憶に残ったBGMは無かったかな?
「Deep Inside」あたりがお気に入り。
▼システム
・コンフィグ周り
特筆すべき点はなし。
そもそも個人的に殆ど弄ることは無いので評価しにくいのですが、基本的な機能は完備されていると思います。
・その他システム
ロード画面が若干見にくく感じられました。
ぱっと見ではセーブした時点のテキストしか表示されないため、どの場面なのか判断し辛いです。
フリーコメントを保存出来るよう仕様改善を望みたいところ。
▼総評
共通の序盤~中盤は重厚なテキストでとても楽しめましたが、個別に入り途端に失速(というより終了)した惜しい作品。
秋ルートはシナリオだけでなく心情描写もしっかりされていたので、先へ先へと読ませる魅力を読者に感じさせましたが、
凛・希望・キズナルートはこれからと言う所で終わった、と言っても過言ではありません。
特に凛ルートや希望ルートはエンドロールを流す場面さえ唐突で、無理矢理締めた印象を受けます。
テキスト量が共通と比べるとかなり貧弱で、ボリューム配分自体に問題があったと思われます。
あと日常会話であまり笑えなかったのが残念。主人公が調子に乗る→ヒロインによる弄り、のパターン会話が濫用されて流石に飽々してしまいました。
ただ、個別に入ってからは基本的にどのヒロインも魅力的に描けていると思います。
あと、巷で話題になっているように「暁の護衛」をプレイしているとより一層楽しめます。むしろプレイしてると更に謎が深まるかも?
全く別ブランドのゲームなので深くは触れられませんが、色々な所で優遇されています。
続編及びFDがあるのか分かりませんが、それの出来によっては次作を合算した評価値は高くなるかもしれません。
そもそも、本作は地上に指先が触れた時点で終わっているのですから。
つらつらと辛辣目に書き殴りましたが、共通自体は楽しめたので次回作には多大な期待を寄せています。
長文失礼致しました。