ヒロインの鮮烈な過去を描いた良作。
何気なく手にした体験版が思いの外面白かったので購入。
天音の過去話であるエンジェリック・ハゥルのために購入した方も多いのではないでしょうか。
●シナリオ
共通パートは約50の小節で構成されており、ここがいわゆる日常パート扱いとなります。
このパートはシーン同士の繋がりがほぼなく、またシリアスな部分も殆ど無いため、日常系の短編集を読み進めているような感覚です。
蒔菜の英会話レッスンなどギャグは秀逸で、面白いシーンが多かったです。
ただ、共通パートはかなり長くシナリオがほとんど進まないため、人によっては冗長に感じてしまうかも知れません。
初めに蒔菜ルートを攻略。
5つのルートの中では最も雄二が力を発揮したシナリオと言えます。
シナリオはよく練られており、とても楽しめました。
特に麻子の墓参りに行く独特な雰囲気が自分好み。
ただ、トゥルーEDは本当にアレで良かったのかが疑問。
結局バッドとは雄二が生存しているか程度の違いしかありませんし、もうちょっと救われる道があっても良かったんじゃないでしょうか。
そんなモヤモヤを抱えながら天音ルートを攻略。
天音ルート=エンジェリック・ハゥル と言っても過言ではないほどの天音の過去の重量感。
バス転落による2週間余りのサバイバル生活はもの凄く読み応えがあります。
公式のキャラ紹介に掲載されていたいかにもモブっぽい生徒達が不安要素でしたが、
過去話を終えた時点で部員全員の顔と名前を覚えていたこと吃驚。
上手く大人数の生徒を操作させたなぁと、ライターの力を感じました。
ただ、過去は雄二の姉の一姫の存在が大きく、また過去編以外は非常にあっさりとしたものだったので、
天音自身の印象が薄れてしまったのが非常に勿体無かったです。
それ以外は文句なしの出来でした。
次に幸ルートを攻略。蒔菜と天音というヘビーなルートを攻略したせいか、軽い気持ちで読むことが出来ました。
天音たちとは異なり、ちょっとホロリとさせられるハートフルな純愛系。
登場する人物も他のルートとは違って両親が良い人でした。
また、"いい子"であり続けようとする幸にかなりの狂気を感じました。
舞台が隔離された学園であるだけに、性格としては一番しっくりときました。
ただ、展開や演出には微妙な点がいくつかあり、定型句の濫用(「…っ」)なども気になりました。
次にみちるルートを攻略。
多重人格を抱えているという、良くも悪くもありきたりな設定。
文章量も他と比べて少なく感じました。
また、他のヒロインと比べて過去が軽い印象を受けました。
しかしシナリオ自体は良く出来ており、要所々々で光る演出も良かったと思います。
みちるも可愛くて概ね満足したのですが、雄二の対応に違和感。
他と比べてヒロインにあたる態度がきつかったと感じました。
最後に由美子ルートを攻略。
しかし、最後に回したためか若干肩透かしを食らった感が。
最後の父との決戦などの強引な展開も多く見受けられました。
由美子の飛行機を追いかけるシーンはさすがにどうかと…w
また、いくら気が動転していたとはいえ情報に強い由美子が公衆電話が逆探知されることを知らないというのも違和感を感じました。
由美子の魅力もイマイチ活かせず仕舞い。
最後はヒロイン全員の力を合わせるシーンなどから由美子が今作におけるメインポジションなのでしょうが、由美子ルートが最も印象が薄かったです。
あと、由美子にもバッドEDも用意されているのですが、他のバッドと比較すると全然幸せな気が…。
シナリオの評価順としては 天音>蒔菜>みちる>幸>由美子。
キャラでは幸、一姫、みちるがお気に入り。
ただ、地下の教授の正体や雄二の過去の話などをもう少し掘り下げて欲しかったです。
教授は十中八九一姫でしょうが、それなら尚更絶望的な状況からどうやって生き延びたかなどを描いて欲しい。
●音楽
BGMはOP、インスト、ED含め39曲。ボーカル曲はOP+ED5種の計6曲。
ボーカル曲はOPが飛蘭、EDがeufonius、橋本みゆき、NANA、茶太、佐藤ひろ美と個人的に好きな歌手しかいない豪華なメンツ。
中でも
・OP 終末のフラクタル/飛蘭
・天音ED HOME/橋本みゆき
・蒔菜ED 迷いの森/佐藤ひろ美
の3曲が特にお気に入りです。
劇中のBGMはメリハリが利いており、どれも適材適所でした。
特に「グレープドロップス」「瓶詰めの空」や、各EDテーマのシリアスアレンジが印象深い。
●その他
シーン回想はHシーンだけでなく全てのシーンを閲覧可能。
印象的なシーンはセーブで取っておく癖のある自分にとってとても有り難い機能です。
また、クリア後の特典としてヒロイン5人+JB千鶴のシステムボイス7種や、
ヒロイン勢の壁紙17種、(恐らく)全キャラのアイコン57種があり、とても豊富に揃っており好印象。
システム面では、各キャラのON/OFFから最小化時メモ帳偽装機能まで、非常に細部まで設定可能。
私は特にシステム面は重要視しませんが、ショートカットを個人で設定できるなど、
他のエロゲ作品と比べても親切な設計になっていると思います。
CGは質・量ともに概ね満足。
ただ、パースの崩壊やポーズの不自然さなどもいくつか見受けられました。
(由美子のデッサンCGの雄二の姿勢、由美子ルートのチャリで追いかけるCGなど)
CGの内訳は以下の通り。
差分なしCG総数(CG+SD)
計:137(104+33)
由美子:27(21+6)
天音:21(18+3)
みちる:23(19+4)
蒔菜:25(20+5)
幸:31(23+8)
他:10(3+7)
●総評
色々不満を漏らしましたが、由美子ルート以外は期待以上の出来でした。
またキャラのレベルも総じて高く、全体的に見て大満足です。
FDがあるならば各ヒロインの後日談や雄二の過去話、上述した未回収伏線の回収などもしてほしいです。