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asteryukariさんのいろは ~秋の夕日に影ふみを~の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
いろは ~秋の夕日に影ふみを~
ブランド
Caitsith
得点
78
参照数
51

一言コメント

妖怪たちと過ごす日常はとても温かく、どこまでも優しさに包まれた世界がとても好きだった。個別に入った後に展開されるお話はテンポこそやや早めに感じたが、話自体は悪くなかったかなと思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

人里離れた山奥にある妖怪たち住む村を舞台にした作品であり、唯一の人間である主人公と妖怪たち、それから一人の少女を交えた、ちょっぴり切なくて温かいお話。タイトルにもある通り、夏の終わりから秋に差し掛かる頃までを描いた作品であり、「別れ」に重きを置いている内容と季節がマッチしている点も本作の隠れた魅力だと思う。

共通部分は村にやってきた夕奈の案内を通じて、村の住民たちの温かさを知るような作りになっており、読んでいて自然と心が安らいでいくような感覚を味わうことができる。主人公は村で育ったため知らないが、夕奈は人間の世界からやってきたので(厳密には違うが)人間たちの暮らしを知っているわけで、事あるごとに人間と妖怪の暮らしを対比させていた。

妖怪は恐ろしいイメージがあり、人を見たら襲ってくる。彼女も、そして私自身もそういった印象を抱いていてわけだが、あの村の妖怪たちは本当に優しくて、それが凄く印象的だった。夕奈が度々「ここでの暮らしも悪くない」と呟いていたが、本当にその通りで羨ましいなぁと。彼女と共に村を見てきた分、彼女の台詞が悉く刺さるから困る。

元々、人と人ならざる者との共存を描いた作品が好物だったのもあって、共通部分を読み進めれば読み進めるほど、本作の事を好きになっていった。種族の違う者同士が争う事もなく、和気あいあいと暮らしている。そんな優しい世界を前に嫌な気持ちなど沸くはずもない。 

ヒロイン達も単純に可愛いが為に目で追ってしまう子もいれば、個別ルートを読めば読むほど可愛くなっていく子などもいて、それぞれが別の魅力を持っていた。そのため好きなヒロインと好きなルートが違ったりもする。以下ルートごとの感想。

 

🍁夕奈
突然、村にやってきた女の子であり、彼女の存在は物語にとってもユーザーにとっても重要であった。後はまあ単純に可愛いので、彼女をめでるような読み方をしても楽しめるかなと。なのなの言いながら無邪気に笑う夕奈ちゃんが非常に愛らしい。

個別ルートに入り、読み進めていくと彼女が実は式神であることもわかり、そこからはやや切ない展開を迎えるわけだが…少し惜しかったかなと。話のジャンルとしては嫌いではないだけれど、事実が明らかになってから結末に至るまでのスパンがやや短く、また結末に関しても感動を冷ましてしまうような、少し残念な終わり方だった。夕奈が好きな身としてはレしいが...。

 

🍁凛
主人公と共に育った幼馴染的存在であり、その正体は化猫。彼女はまあ私好みのツンデレ幼馴染で、個別ルートに入ると途端に面倒くさい女になっていく。自身の気持ちを察してくれない主人公に苛立ちを覚え、いきなり暴言を吐いてきたりする。実に、いや実に良い!

終盤になると主人公の記憶覚醒に伴い、少し辛いお話になっていくわけだが、何があろうと主人公に尽くし続けようとする彼女はとても美しかった。また、こちらのルートが迎える結末がかなり好きで、役割を終えた者たちが今度は自分たちの意思で戻ってくるという事実がどうしようもなく嬉しかった。話としては一番好きかなと。

 

🍁紗雪
村に冬を呼び、雪を降らせる雪ん子ちゃん。見た目が可愛いのは言わずもがな、無表情で淡々と喋る姿も実に良い。時たま見せる驚きや照れの表情もすごく良い。そして、上の感情表現豊かな帽子ちゃんもすごくすごく良い。

話はとある子犬との出会いをきっかけに進行していくわけだが、まあ明るい話ではないし、このエピソードを通じてヒロインの魅力に磨きがかかるというわけでもない。しかしながら自責の念に駆られる紗雪を、主人公が何とか支えようとする光景自体は中々良かったかなと。結末も二人らしくていいと思う。カリスマカマクリストちゃんの実力が見てみたい…。

 

🍁彩
村の土地神であり、主人公たちの先生役も務めている実質的な村の中心人物。普段はけだるい感じで過ごしている彼女だが、時には神様らしい振る舞いを見せることがあり、そういった意味で暴走する式神から夕奈たちを守るシーンは印象的。

ルートとしては、ちょっとずぼらでえっちな年上のお姉さんと思春期の少年ということで、まあ恋愛というよりはシーンに力を入れたようなものとなっていたが、どちらも幸せそうだったので悪い気分にはならなかった。他のルートでもそうだったが、主人公の精力が凄まじくて笑ってしまう。

 


 

総括すると話に引っかかる点こそあれど、登場するヒロインと作品全体を包み込む温かな空気感は好きだったかなと。そして、だからこそ製作が発表されたまま凍結してしまったアフターストーリー「妖怪レストラン」が読みたくて仕方ない。