終盤にかけて作りがやや雑になっていく点は残念に感じるが、それでも本作を好きだという気持ちは最後まで変わらなかった。第一印象からではなく、お話を読んで初めてキャラクターを好きになる。そんな素敵な体験ができた。
<つくとり>
rufから発売された作品であり、シナリオ担当は味塩ロケットwith企画屋。味塩ロケッツもとい門倉敬介さんはそこそこお気に入りのライターさんで、どちらかというと硬派なシナリオを書かせた方が良い作品仕上がる印象があったため、本作のジャンルが和風サスペンスアドベンチャーだと知ると、一層期待に胸が膨らんだ。
舞台は閉鎖的な田舎町で、"ツクトリ様"と呼ばれる未知の存在を軸に、連続殺人事件の真相を探っていく。物語を読み始めてすぐに首吊り死体が見つかったり、読み進めていくとヒロインや主要人物が殺されたりと中々に猟奇的なシナリオになっている。ルートによっては主人公が死にかけるなんてこともざらで、全体を通してスリルのある作品になっている。
ただ終始、緊張感が漂っていたかというとそれは別である。雰囲気を和らげるためか至る所にギャグが仕込んであったからだ。特に序盤はギャグ成分が強く、久十生のようなタイプのキャラクターだけでなく、綺子や杳まで会話な合間に理解不能なボケを入れてくる。クスッと来る場面もあるのだが、大体のやりとりは寒いので、ここが苦手なポイントだったユーザも多く存在するのかなと。ちなみに私は理解不能な言動、行動をすればするほど嬉しくなってしまう質なので、作品の良い所として捉えている。
ルート分岐し始めると話も本格化してきて、誰が犯人なのか、ツクトリ様とは何なのか、グリーン・フォークとは等々、読み手が気になっている部分にどんどん触れていく。嬉しいのが実質一本道な点で、ENDを追うごとに少しづつ真実に近づいていく構成がとても気に入った。ただ、終盤はそれが少し雑になっていて、冷める部分もあったりしたのだが...。特に最終章なんかはやりたい方だな内容になっていて、これまでの積み重ねは何だったのかと少し落胆したりもしていた。
ただまあ、それでも本作を好きな作品だと主張しておきたい自分がいる。最終書「風の淵に~」の前の三つのお話の内の一つ「神代のしずく 絶えつとき 八鏡が朱に染まる 後編」の内容が抜群に良かったからだ。このお話では今まで謎多き人物だったグリューンの過去が語られていくわけだが、これがもう本当に大変に私好みだった。
幼い頃に家族を亡くし、売春婦の真似事をしながらお金を稼ぎ、生きていく。そんな夢も希望も、目的すらもない毎日から彼女を救い出してくれたのが、靜眞だった。居場所を与えられただけでなく、「大下茜」という名前までもらった。それが彼女にとってどれほどに嬉しくて、大切なものだったかは終盤のシーンを見れば痛いほど理解できる。
「私はどこの組織にも属さない。私が信じるのは『森下靜眞』だけ」
「あなたに出会わない人生など、私にとって意味はないわ」
これまでの印象もあり、非情な人間だと、少し狂ったキャラクターだと思っていたが、そうでなかったのだ。好きな人のためなら共に死ぬことすら恐れない。作中で最も愛に深いキャラクターだった。このお話を読んでからはもうグリューンの事しか考えられなくなってしまった。物語を読み、キャラクターの本質を知ることで初めて好きになる。久しぶりに素敵な体験ができた。彼女に出逢えたことこそが本作における最大の喜びである。