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asteryukariさんのゆきのかなたの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
ゆきのかなた
ブランド
RUNE
得点
78
参照数
108

一言コメント

全体的に丁寧さが欠けてはいるが、描くところはしっかりと描き切ってくれたかなと思う。優しさで塗り固めない、素敵な結末が用意されていた。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

不思議な力を持った少女たちが紡ぐ少し暗めの物語であり、可愛らしい絵柄とは相反して暴力的なシーンが描かれていることもしばしばあった。それもBAD派生した後限定ではなく、HappyEndに派生したとしても見ることになったりするから驚きだ。改めてかなり攻めた内容だったなぁと思う。

システムは至ってシンプルな作りになっており、セーブの仕様だったり、バックログが欲しかったり、演出の処理速度を上げてほしかったり、改善してほしい点を挙げればキリがないが最低限必要なものは揃っていたのでまあまあといったところ。攻略順にロックがかかっている点は気を付けなければならないが、それ以外は何というか、その時代らしいものだったなと。

以下ルートごとに感想を述べていく。


〇未殊

みんなの妹分的な立ち位置にいるヒロインであり、私の第一印象としても"可愛らしい女の子"だった。実際にほかのヒロインと比べるとひ弱で(他が強すぎるので...。)、彼女が活躍するシーンなんかはない。攫われて主人公を輝かさせるタイプのヒロインだった。

ただ、このシナリオで輝いていたのは間違いなく新城だろう。地味キャラだとばかり思っていたが格上であるハンスに対しても勇敢な姿を見せてくれた。主人公がわりと空気だったり、ほかのヒロインの状況が気になったりもするお話だったが、予想外に男を見せてくれたキャラがいたのでまあまあといった感じだろうか。

 

〇ヒース

何となく好きそうなヒロインだなと思っていたが、組織に教育された凄腕の暗殺者という素晴らしいキャラクターだった。シナリオはこの手のキャラにありがちではあるけれど、感情が切り替わる瞬間がハッキリしていた点が良かったなと思う。嵩秋を消そうとした彼女が嵩秋を庇って傷つく。あの出来事は彼女にとって相当衝撃的だったのだろう。いつもはクールな彼女だからこそ表情の変化が映えた。

そして、組織の人間をばっさばっさと殺していく姿は最高の一言。ああ、こういう光景が見たかったんだよという私の願いを見事に叶えてくれた。今まで頼りにしていた道具が自分たちに牙をむくとどうなるか、ルグランくんもあの世でよく理解しただろう。結末もちょっぴり切ないが好みだった。

 

〇燕

組織が狙うくらいだから強いのはわかっていたが、それでもわんころを切り刻むシーンには目を奪われた。あんな人畜無害そうなお嬢様にこんな力があったとは。多くのキャラが異能に振り回されていたが、中でも彼女は印象的だった。ヒースのように道具として生きる道があった方がまだマシだったのではないかとすら思う。

そして、この√では主人公が見せてくれた。大きな対価と共に絶大な能力を得る。単純に無双するのも良かったが何よりも良かったのはその対価をきちんと結末まで持っていってくれた点。HappyEndと言うには辛すぎるし、人によっては受け入れられない事もあるかもしれないが、私は本作で一番の名シーンだったと思う。燕も決して悲観せず、希望をもって生きている点が素晴らしい。

 


〇アスリエル

本作の最後にふさわしいお話であり、選択肢がほとんどない点を見てもシナリオを読ませたいという意志が伝わってくる。好みかどうかはさておき実際に話の出来は最も良かったと思う。あの憎きハンスを正面からぶっ倒してくれた点も嬉しい。

この√の見所はアンリエルの生き様、これに尽きる。主人公と交わした約束が叶わないと知っていてもなお彼のために尽くす。「たとえ世界中があなたを消そうとしても~」の台詞には感極まって涙が出そうになった。他√では何らかの形で嵩秋が主人公らしい立ち回りをしてたが、この√の主人公はアスリエルであり、ヒロインもアスリエルだった。本当に素敵なキャラクターだったなと、思い返すだけでにやけてしまう。

 

全体的に粗が多めで、放置されている要素もいくつかあったが、それを加味しても好きなお話が揃っていたかなと思う。特に日和った結末が少なかった点がかなり嬉しい。