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asteryukariさんのEXTRAVAGANZA ~蟲愛でる少女~の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
EXTRAVAGANZA ~蟲愛でる少女~
ブランド
BLACKCyc
得点
83
参照数
379

一言コメント

読めば読むほどに繋がりの大きさを実感するような、とても心温まる家族のお話だった。二人の歩みにただただ涙するばかり。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


言わずと知れたBLACK Cycさんの作品であり、昔から面白いと聞くため気になっていた。BLACK Cycといえばエログロな作風が印象的で、本作もサンプル画像を見ると中々にえぐみの強い絵がいくつも見られた。なのでまあグロいけれどシナリオもそこそこ面白いよ系の作品なのかなと偏見塗れの考えを持っていたわけだが…そんな程度のものではなかった。本作をプレイしてようやく本作が評価されている理由を理解した。紛れもない名作である。


物語は幼蟲編、蛹蟲編、蟲使編、揚羽編、西館編、歩美編・壱、歩美編・弐、成蟲編と多数の章に分かれており、その名前の通り主人公が幼い頃からやがて大人になるまでを描いている。

主人公は一言で言えばまあ悲惨で、幼蟲編から登場するわけだがその役割はただの苗床。というか幼蟲編では煉梧の視点で進行していくため、歩美が主人公だと気付くのは幼蟲編が終わった直後だった。

幼蟲編のラストは非常に印象的で、命令に従うばかり彼女と、息絶えるばかりだった彼女の産み落とした蟲が初めて自由を手にした事実がただ嬉しかった。あの夕焼けをバックに二人手を繋いでいる一枚絵がまた素敵だ。そして、この幼蟲編が幕を下ろすことで、ようやく彼女達の物語がスタートすることを瞬時に理解した。


蛹蟲編から夢美編にかけては彼女が自身の蟲と心を通わせ、蟲使いとして成長していく様が描かれている。中でも初めて右腕として力を発現するシーンがとても好きで、「期待外れ」だと言われ捨てられた蟲が、真価を発揮する展開はシンプルに自分好みだった。また、歩美があの腕に対し何ら不快感を持っていないのが良いなと。確かにはじめは驚いたかもしれないが、決して嫌悪感はなかった。それどころか感謝するように、大切に想うのがすごく良い。

アゲハやレンなど、興味を引くキャラクターが出てきて、ルートによっては容赦のない展開を迎えることも。けれどやっぱり気になるのは歩美と蟲の二人。最強の蟲使いレンとの交戦においても、打ち砕かれることはない。二人の絆の強さにただただ痺れた。ああ、このまま二人でどこまでも一緒に戦い、生きていってほしいと心から願った瞬間である。



そんな風に彼女達を見守っていたわけだから、成蟲編はもう大号泣だった。レンの意志を継ぎ戦おうとする綾佳に感動したのも束の間、最後に持っていったのはやっぱりあの二人だった。

「美しいメタリックブルーのカーテンのような膜が、夢美の体を包み込んでいる」
「外界の炎から夢美を護るため、自ら硬い外甲をもって、優しく夢美を包み込み続けていた」
「繭から一本の触手が伸びてきて、歩美の頬をそっと撫でる。まるで、涙を拭うように…歩美を慰めるように…」

十五年の時を共に過ごし、彼女の命令に背いた事なんてなかった。そんな子が最後の最後に母の命令に背く。無論、母を護るために。そのあまりにも美しい光景を前に泣かずにはいられなかった。この作品は決して凌辱作品でも、恋愛作品でもない。どこまでも純粋な家族の物語だった。二人の歩みが始まった、夕焼けの一枚絵を思い出しながらあの最期を見届けるともう涙が溢れて止まらなくなる。

成蟲編はこの他に蟲姫として蟲使い達を葬っていくエンドもあったりして、それはそれで面白いのだが、やっぱり私は歩美と蟲の出会いと別れを描いたTrue Endを推したい。というか二人の関係を慈しむ以上、あの結末しかありえないとすら思う。



振り返ってみると自然と頬が緩むような、家族愛の詰まった素敵な作品だった。こんなにも蟲に愛着が湧くなんて思わなかったし、あんなにも美しい結末を見届けられるなんて思ってもいなかった。出逢いに感謝です。