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asteryukariさんの機械仕掛けのイヴ Dea Ex Machinaの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
機械仕掛けのイヴ Dea Ex Machina
ブランド
ninetail
得点
84
参照数
145

一言コメント

振り返ってみれば悪者なんて誰もいない、温かくて優しい作品だった。人工知能というジャンルをより一層好きになる素晴らしい一作。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

自分が作り上げた人工知能技術が、兵器へと転用されると知った主人公が、自分の勤める会社社を倒すためには、莫大な資金が必要となる。その資金を集めるためにアダルトグッズを開発し、売りさばいていこうというのがざっくりとした導入である。

駆け出しからまあまあぶっとんでいるが、プレイした感想としては非常に面白かった。人工知能、AIというジャンルが好きなのでまあ本作も合うとは思っていたが…想像を大きく超えてきた。まずはゲームシステムについて語っていく。

ゲームの流れはかなりシンプルで、淫具の設計書を解読して、開発して、商品を納品して資金を稼ぐというサイクル。曜日によって材料日が安くなったり、また技術や設備のレベルによって高性能な商品が開発出来たりと、序盤はそこそこ考えることがあったりするが、慣れてくるとまあ作業になる。そのため、SLGパートが面白かったとは口が裂けても言えない。

が、時たま発生するバトルパートについては自信をもって面白かったと言える。じゃんけんの仕組みを上手く利用したカードバトルでありながら、じゃんけんのような運で勝負するものではなく、それなりに戦略性や思考を巡らせる場面がある。例えば、相手が手札がチョキとパーしかなかったら、チョキの強いカードを出せば必ず勝てたり、必ずグーチョキパーの連結なので相手のカードの枚数で出してる手が概ね予想出来たり…とにかくハマったし、よく出来ているなと感じた。本編クリア後もおまけモードでレベルをカンストさせるくらいには熱中していた。


とまあこんな具合でゲームシステムについてはかなり楽しめた。で、肝心なお話の方はというと…これも勿論良かった。はじめはライバルとなるSHEとの闘争が描かれていたが、物語終盤になるとどのルートでも軋轢なんてなくなる。そして、今まで敵だった奴らが途端に、魅力的に見えてくる。これが本当に嬉しくて、気付けば嫌いな登場人物なんて一人もいなくなっていた。読めば読むほど人物達に対する感情がプラスに変化、あるいは好感度が高まっていくような、そんな作品に仕上がっていたのである。

特に良かったのは九音で、彼女の存在が本作の価値をより高めていたと私は思う。序盤はティアラの内なる人格として、度々ティアラの前に現れては彼女を苦しめていた。そんなわけで印象もあんまりよくなくて、いずれはラスボスとして立ち塞がり戦うことになるのだろうと思っていた。

けれど、そうではなかった。彼女もまた先ほど述べた通り、“優しい人物”…いや”優しい姉”だったのだ。

「…そうか、あれは…今考えれば…楽しい日々であったのかもしれぬな...。ああ…そうか…」
「どうやら、時間のようだな。貴様は戻るがいい。帰りを待つ者がいるのだから」

宗一郎との思い出を語り始めるシーンは印象的で、彼女に対する感情が大きく変わった場面でもある。分かり合えなくとも、語り合い、互いに想い合っていた。それをあっさりと認め、穏やかな表情を浮かべる。…こんな子が敵として立ちはだかることはないだろうと、いつの間には自身の初めて抱いたイメージを打ち砕きたくなるほどに、彼女の事を想っていた。

だからこそ、ティエラ√で彼女を切り離さないこと(ティエラが寂しがりますよ?を選ぶこと)がトゥルーエンドの条件になっているのが嬉しくて仕方なった。ああ、この作品は本当に間違えないなと、感動すら覚えた。最後に詰めの甘い悪い妹の為にそのチートじみた力で全て解決してあげるところも含めて最高である。アマテラスには申し訳ないが、彼女こそがティアラの本当の姉であり、最も大切な存在だとすら思う。

また、九音√もかなり好きで、扱い的にはBADなのだが、やっぱり九音の魅力が光る結末だったように思える。ただの気まぐれだとか、演技は苦手だとか相変わらずそっけない彼女だけれど、出来の悪い妹の最期の願いにしっかり応えていた。おそらく、この先ずっと演じ続けるのだろうと思う。機械仕掛けの女神はそういうやつである。だからこれほどまでに好きになってしまうのだ。


こんな感じでまあ九音にぞっこんだったので、ティエラ√と九音√は大好きで仕方なかったのだが、ファム√なんかもよく出来ていたなと思う。ファムとイリアの関係性だけ追っても幸せになれるのに、人工生命が”自分を証明する”なんてシナリオを盛り込まれたら、黙っていることなんてできないわけで、この手のジャンルが好きなユーザーには刺さりまくるルートだったなと。

「みんなが、どうして『私』って使ってるのか、やっと分かった気がするの。ねえ、おとーさん、これ、スゴイ発見だ…」

うんうん、本当に凄い発見だし凄く好きなお話だったよと、彼女の頭を撫でたくなったほどだ。他者と触れ合うことで、自分の中の世界が広がり、自己と他者を認識出るようになる。結末だけでなく、そこに至るまでの運びも丁寧な、文句なしに素敵なお話だった。




ジャンル的に好きになる予感はしていたけれど、想像以上に登場人物たちの動かし方が自分好みで、読後もしばらく余韻に浸ってしまうくらいには面白い作品だった。人気投票の結果もまさに納得の結果であり、作品が評価されている理由もよくわかる。九音という素敵なキャラクターに出逢えて、本当に良かった。