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asteryukariさんのフロレアール ~すきすきだいすき~の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
フロレアール ~すきすきだいすき~
ブランド
13cm
得点
78
参照数
189

一言コメント

作品の作りと好みが見事に合致したような、そんな作品であった。彼女の笑顔がいつまでも続くように、ただ祈るのみ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

開け放った窓からは、潮と新緑の香りが微風とともに舞い込んでくる。そんな地中海岸の片田舎の燈台で暮らす二人に焦点を当てた物語。本作の最大の魅力はやはりジャンとメルンの関係性にある。特別なイベントもないし、盛り上がる場面なんてものはほとんどない。しかしだからこそ、ここまで二人に目を向けることが出来たのだろう。一点集中な作品だが、その一点の輝きはあまりにも眩しかった。

序盤は一緒に食事をする風景やふざけ合いなど、まさに平和な日常が描かれていた。主人公のジャンとご主人様のお世話をするメルン、それからクラマスと呼ばれる犬との三人暮らし。障害となるモノなどない自由で豊かな生活がそこにはあった。一つ目のEND「祝福」ではそんな平和を維持したまま終わりを迎えるが、そこから先のENDは少し違う。

それまでの日常からは大きくかけ離れた凌辱色が強めなシーンが次々と映し出され、始めは戸惑いもしたが、それをしっかりと物語に絡ませてきたので安心した。シーンはわりと過激で、蝋燭責めから鞭打ちまで、見ていて辛くなるようなものばかリ揃っていた。ここで暮らすのが楽しいと言っていた彼女を思い出すと余計に辛くなる。

主人公の精神状態をユーザーに印象付けるためか、「初夏」から先の「不幸」、「銃声」ENDは決して面白いとは言えず、むしろ辛い光景が詰まっているが、最後に開放される「奇跡と閉幕」だけは違った。

奇跡と閉幕ENDはまあ本作で一番面白く、一番胸に沁み込んでくるお話だった。まずこれまでとは違ってメルン視点に切り替わるわけだが、それが本当に良かった。自分の中だけに意識がある、ただ生きているだけの人形のようになった主人公に対して、ただひたすらに尽くす。加えて燈台守の仕事までも引き継いでいたというのだから驚きだ。どこまで良い子なのだろうか…。

見返りを求めるわけでもなく、主人公が目覚めるその時を密かに待っている。そんな彼女の献身的な態度を見て何も感じないはずもなく、メルンという一人の女性に心を掴まれた。「こんなにもお前を想っているのだ、早く目覚めろ」と、そう主人公に言いたかった。

ラストの主人公の語りはまあ感じ入る部分もあったけれど、私にとって…いや彼女にとってはそれどころじゃなかったはずだ。どうして急に意識が戻ったか、また病気は完治したのかさえどうでもいい。ただ自分を見つめ、喋りかけてくれる。それだけで彼女は充分だったはずだ。だからこそ「…おかえりなさい」の一言なのだ。

振り返ってみるとやはり終盤の流れが実に良かったなぁと。そしてそう感じたのは序盤の平和な日常があったからこそであり、作品の構成には感服するばかり。楽しいといった感情は生まれないし、他社に勧めるような作品でもない。けれど好きだとは自信を持って言える一作であった。