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asteryukariさんのMy Merry May with beの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
My Merry May with be
ブランド
KID
得点
84
参照数
355

一言コメント

ただレプリスと仲良くする話だとは思っていなかったが、まさかこんなえげつない話の数々が用意されていたとは。冗長に感じる部分も多く、決して人に勧めることはできないが、やる価値は大いにある。衝撃を受けた作品としてまた一つ深く刻み込まれた。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

あらすじを見てすぐに好きそうだと感じプレイに至ったのだが、まさかこんなにも非情で残酷な物語の見せつけられるとは…。レゥちゃん可愛い好き好きと言っていた頃が懐かしい。話もそうだがボリュームも満点で、わりとスローペースで読んでいたのもあり、かなり時間がかかった。ただそれに見合う作品であったのは間違いない。まあ正直なことを言うと、あの話はなくても良かったのではないかと思うほど退屈に感じたものもあったが、仕方ないかなと。

人工生命体である「レプリス」という存在にはやはり惹かれた。もともとそういった題材を扱った作品が好きなのもあるが、想像していた以上にレプリスの設定が面白く、読み進めながらレプリスとは何なのか、人と何が違うのかなど思案に耽っていた。特に人とレプリスとの違いに関してはMay主人公である恭介やMaybe主人公である浩人を通じて考えさせられた。

決してモノや道具ではない、その通りだ。しかし同時に安易に人であるとは言えない。なぜなら彼女達にもレプリスとしての良さ、生き方があるのだから。あくまで彼女はレプリスであって、その上で人と同じような存在なのだと、私の最終的な考えはこうまとまった。この作品の良い所、特にMayなんかで見られる良い所は「レプリスを無理矢理人間に変えたりしない」ところだと思う。レプリスであることを認め、その上で寄り添っていく。そんな光景がとても美しかった。

しかしまあ何といっても凄いのは物語の構成だろう、Mayだけでも十分面白かったが、やはり凄かったのはMaybeのラスト2√。好き嫌いはさておき、Maybeをあんなふうに使い、締めてしまうのに対しては驚きを隠せなかった。あんなに醜くて悍ましい話を用意してくるなんて…ただただ驚くばかりである。

個別√ごとに軽く感想を語っていく。

<May>
○レゥ√
「おにいちゃーん」、「レゥ、えらい?えらい?」、「ふぇええん」。今まで出会ってきた人工生命体の女の子の中でも五本の指に入るほど愛らしかった。主人公が大好きで、気が付くと抱き付いたりすり寄ってきたりする。わからないこと、上手く口にできないことに遭遇すると泣き出す。時には他の女の子にデレデレ吸う主人公を見て嫉妬したりもする。まだまだ子供な喜怒哀楽の激しい女の子だった。

こんな彼女だからこそ平和な日常のまま終わりかとも思うのだが、まあそうはいかない。彼女の√で非常に目を引いたのはレーゾンデートル、存在価値についての話だ。自分の存在意義、価値を見失った時に崩れ落ちる。レプリスのように物理的には崩れないが人間もそんな側面を持っているだろうし、私も身に覚えがある。だからこそ、この話には少し考えさせられた。

また、レプリスである自分を受け入れてくれるかと問うレゥには涙を流した。決して人になりたいというのではない、人じゃないけどそれでもいい?と聞いているのがミソだ。この違いは些細な事ではあるが、とても重要。彼女は自分がレプリスであるということを認めているのだ。

神様に向けた「たましいのないわたしが。ヒトをあいするのはツミなのでしょうか」という台詞からもそれがわかる。しかしまあ彼女にこんな台詞を、しかも神に向かって言わせるだなんて皮肉が効きすぎているよ…。

ハッピーエンドはAエンドだが、他の√をやってしまうと本当にそれでいいのかと思ったり。Maybeまでクリアしてしまうと、この幸せも長くは続かないのだろうなと感じてしまう。

○リース√
いきなり出てきたのにその包容力の高さからついつい呑まれてしまった。こんなのダメ男になってしまう。彼女の√は物語的にハッピーエンドではないが、その一方でこんな結末もありなのではと思ってしまった。

従順且つ理性的でありながらも抜けているところがあったり、彼女と過ごしているうちに彼女らしさというものが見えてくるものだから、普通に恋してしまった。まあレゥちゃんが頭に引っかかるのだが、これはこれでと…。恭介もまさにそういった気持ちだったのだろう。まったく、私も恭介も悪い奴だ。

○ひとえ√
レベル表現大好きガール。
いやあ、この√は凄い。何が凄いって、エンドが二つあるのにどちらもなあなあで終わってしまうんだもん。

この√で何を言いたかったのか考えると、それは前に進むことの大切さではないだろうか。チャレンジし、失敗し、それでも前を向く。そんな当たり前のことを恋愛を通して言いたかったのだと私は思う。

個人的にそこまでひとえの事を好いていたわけでもなかったので、刺さることはなかった。というかレゥちゃんが可愛すぎるのだ。
「…そのね、レゥもね、おぎょうぎよくしたらおにいちゃんももっともっとやさしくしてくれるかな…?」
可愛すぎて息が詰まってしまった。

また、この√では恭平のサングラスが外れ、赤い目が露わになる。これがMaybeに繋がるんだよなぁ。

○もとみ√
彼女の√に関しては…彼女に何ら惹かれなかったのもあり、告白部分や結末を見ても正直微妙だなと感じてしまった。ただまあ、レゥとリースの可愛い一面が見られたりしたので満足はしている。特にAエンドのリースなんか可愛いのなんの。当たり前だがこのシリーズはレプリスが魅力的すぎる。

○たえ√
たえさんには序盤から興味津々だったため、中々楽しめた。たえさん、いやたえかあさまとい言いたくなるほど彼女の母性は凄まじかった。まあ当然ママ‐、ママ―と甘えるシナリオではないのだが…。

恭介が彼女の優しさに触れ吐き気を催した理由、それはかつて母親が自分に向けたものと同じものだったから。

たえさんを利用して恭介の母親に関する話に繋げた時は勿体無さを感じたが、もちろんそれだけではなかった。たえさんがなぜ主人公に惹かれるようになったのか、それは主人公と同じ「寂しさ」からくるものだった。

恭介の「寂しい人ばかりですね」という台詞は中々的を射ていて、振り返ってみるとマイメリシリーズは本当に寂しい人ばかりだったなあと。

○みさお√
お淑やかで可愛らしい女の子、そう思っていた時期もあったが、レゥがレプリスだと分かった時のあの反応。いやぁ怖い怖い。そして何よりも衝撃的だったのはこの√の結末。なんだこの後味の悪さは…。いや大好きなのだがそれでも辛いことには変わりなかった。

「レゥは…レゥはおにいちゃんの…なんだったの?」
結局この質問の答えがそのままシリーズの最終的な結論になってしまうんだと思うと、この√の重要性がわかる。

あとあの結末を見た後にナツノ宇宙聴かされるのは辛すぎる。あんなのさあ、歌詞が切なすぎるだろう…。

<Maybe>
○レゥ√
Maybeからは主人公が変わるのだがその主人公が中々厄介なやつで、あまり好きになれなかった。大人に対しては感情論で戦い、子供に対してはガキだ馬鹿だ言いまくる。どこまでも子供な人間だった。中身があるようでスカスカなのだ。やはり恭介でないと...。

まあそんなこと想いながらプレイしていたのだから当然レゥちゃんとくっつくなんて認められない。むしろこんなやつに靡いてくレゥちゃんを見ているのが辛かった。

○由真√
何かと自分のことを大人だと言いたがる女。…めんどくさいなぁというのが正直な感想だった。何かと主人公にかまってくるし、帰りが遅かったり、他のヒロインと仲良くしていると嫉妬してくる。人生経験豊富なんじゃなかったのかと問いたくなるほど、彼女もまた幼かった。

まあそんな彼女であったからこそ浩人がいつもよりまともに見え、話も読みやすかった。ただ、やっぱりこの√をプレイして最終的に感じたのは「この女、騙されそう」だったかな…。

○鏡√
堅苦しさの極みという感じだったのに、実は弱く脆い人間だった。こういったキャラクターは好きだ。こんな人間かレプリスかわからない自分を受け入れてくれるのか、彼女もまたレプリスたちと同じような不安を抱いていた。彼女の場合はそれが最後まで払拭されることなく残り続ける。これが結構好きで、人間らしいなと感じた。

「認められましたか?自分のことを」
数年経ってその反応かよと思わず突っ込みたくもなったが、まあ数年経ったくらいじゃそんなの難しいよなと。これまで人生をかけて長く長く悩んできたことなはずだ、そんなすんなりはいかない。だから周りを頼り、支えられて生きていくのだ。

○みのり√
おじいちゃん…泣。とはならなかったが、幼いながらも一人で耐え抜いていた少女の姿は輝いて見えた。というかこの√は浩人の言動が特に気に障る。上手くいかないからって子供に当たるなよと。だからこそBエンドは結構好きだったりする。

お話自体はごく普通だったが、みのりちゃんが魅力的だったのでわりとスラスラ読み進めることができた。

○リース√
来た来たリースちゃん。髪を切ってしまったのは残念だったがそれでも可愛いことには変わりなかった。Mayの頃とは違い心を持っている。正直な話、Mayのリースが好きだった私としてはこの設定に抵抗があったのだが、そんなことが気にならなくなるくらいには好みのお話が描かれていた。先生が心を作っちゃったのは引っかかったが。

彼女がレゥになりたいと思ったのは皆がそう望んだわけではなく、皆にそう望まれたいからなのだと。そしてそれが浩人に愛されることにもつながると。いつも理性的で大人しかった彼女がこんなにも感情的になった。これをどう捉えるかはその人次第だが私は素敵だなと感じた。

そしてこの√、何と言ってもBエンドが素晴らしい。勿論、切なさはあるけれど、きちんと「レプリスとしての物語」を描いてくれたことに感謝している。「本当のリース」という表現が刺さりに刺さった。

まあ、だからこそAエンドは許せなかった。

○穂乃香√
モブかと思ったら非常に重要なキャラクターであったし、話の完成度には舌を巻いた。彼女がレプリスだとわかってからはもう食い入るように画面を見ていた。彼女の語るレプリスに関する考えはとても興味深かったし、話を読み進めるうちにどんどん彼女の虜になっていった。

「また出会って恋をすればいい」彼女は本当に心から主人公の事を愛していたのだろう。個人的にはBエンドが大好きなのだが、Aエンドも普通に好きだ。特に最後の手紙には泣かされてしまった。

まあしかしBエンドはやはり別格だ。ライカが好きだったのもあるが、その後の経過が好きでたまらない。美しすぎる。

○ライカ√
全てが明らかになる最終√。最後の最後にこんなモノを用意していただなんて…。驚きの連続だった。渡良瀬がやっていることは正直狂ってるとしか言いようがないし、彼らが言っていた恭介の意思というのも自己解釈で捻じ曲げられているようで、到底納得できないものだった。

結末に関しても、ライカが好きだった私としては大ダメージを受けた。というかレゥ好きな人も大ダメージを受けるだろうし、心から祝福する人なんていないんじゃ…。まあそんな残酷な物語だからこそ衝撃的だったわけで。

好きか嫌いかで聞かれたら真っ先に嫌いと答えるだろう。だが「凄い」と感じた感情だけは嘘じゃない。

「ばいばい」

この言葉の重さよ…。

<Epilogue>
最後のおまけ程度だと思ったら意外と長い。ここで恭介の最後が明らかになるのだが、ただ過去について触れるだけでなく、その後に浩人とレゥのこれからに繋げる。辛くて悲しくて憤りすら感じたが、見事だったと言う他ない。

<総括>
プレイしていて衝撃を受けるということが最近はあまりなかったので、良くも悪くも忘れられない作品になった。作品を通して壮大な家族ごっこを見せられたわけだが、やはり私が好きなのは穂乃香√とリース√だったかなと。色々と心を揺さぶられたが、やはりレプリスの物語が描かれているものが好きだったのだと思う。自分の存在に悩み苦しむ。そんな彼女たちの姿が最も印象に残った。