両親を吸血鬼に殺された少女が、復讐を果たすために腕を磨いていく──。全体的に荒々しい作りではあるものの、作品の持つ力強さに終始魅了されていた。戦い、そして血を求める者たちに読んでもらいたい一作。
2005年に発売された同人作品であり、作品名だけ見れば全く馴染みがないのだが、ライターさんは有名な商業作品にも参加されている科さん。主なあらすじとしてはある日突然、目の前で両親を吸血鬼に殺されてしまった少女が、両親の敵を討つべく刀を手に取り、吸血鬼殺しに奮起していくというもの。
そんなわけで主人公は女の子なのだが、女の子というには失礼過ぎるほどに逞しい。自身を拾ってくれた恩人であり、師である達樹の指導の下、剣術を磨く日々を送っていく。戦いの中で強くなっていくのではなく、きちんと鍛錬を積む描写がある点が嬉しい。
師である達樹はまあ良いキャラしていて、子供を拾って鍛え上げてくれるくらいだから、さぞ大人なんだろうなと思きや中々ユニークな人物だった。指導と言いつつも殺すような威力の斬撃を叩きこんできたり、日常では保護者に見えてかなり放任主義だったり。あとは女性と話しているとは思えないほどに下品で最低な発言を連発するのも面白い。
また、達樹に限らず本作の登場人物は本当に癖のある人物ばかり。まともな奴なんか存在しないし、そこらへんは意識して作られていたのかなとも思う。納得という言葉が遠く彼方へ消し飛んで行ってしまうほどに弾けた作品であった。
文章や設定もガチガチの厨二テイストで、状況を事細かに説明してくれるのは勿論、奥義名もしっかり長文漢字で好きな人にはたまらないテキストが用意されていた。ただエフェクトで光らせるだけでなく、それ専用のCGと文章がしっかりと用意されているからこそ、読み手も燃えることができる。
柊咲(主人公)の先見の魔眼なんかも読み手の厨二心を擽る嬉しい設定である。その辺の要素も含めて某作品を思い出すところではあるが、ストーリーは全然違うので問題なく楽しめるかと。
物語が盛り上がっていくのは中盤以降、具体的に言えば柊咲VSヒース辺りからだが、このヒース戦が素晴らしいのなんの。拮抗する戦い自体も熱いが、戦いの中で口にする柊咲の台詞がまた良い。
「苦しそうですが、そこまでして通すものでしょうか。もっと楽に生きられると思いますが」
「そう、だから?楽に生きるのなんて大嫌い。私は楽に生きて出来る綺麗な宝石より、打たれて苦しんで完成する鈍く光る刃がいい。」
まさにこれだよこれ、復讐の意志を感じる言葉がしっかりとヒースに突き刺さっていて、ついつい笑顔になってしまう。ここで完全に柊咲の事を好きになったかなぁと。その病的なまでに復讐に拘る姿勢に心を打たれた。
終盤の柊咲と椅俟のやりとりもまあ好きで、読み手に椅俟に対する情を芽生えさせながらも、最後はしっかりと復讐を完遂してくれるのが最高だ。互いが望んだ結果を途中で捻じ曲げるような、身勝手な展開にしなかったのは本当に感謝する他ない。この辺は同人の良さが光るところでもあるのかなと。
惜しむらくは達樹とヒースの戦闘が省略されている点で、メインはやはり柊咲と椅俟だからという理解もできるが、個人的には無双する達樹の姿を拝みたかったかなと。あの嘘つき腐れ外道がどのようにしてヒースを血塗れにしたのか、気になって仕方がない。
振り返ってみると実に私好みの、熱く滾る作品だったなと思う。消化不良な部分や、もう少し丁寧にやってほしかった部分は大いにあるが、それを差し引いても大きな満足感が残るくらいには印象深い作品になってくれた。楽しい時間をありがとう。