言葉遣いがなっていなかったり、お祭り騒ぎが大好きだったり、呆れるほどお節介焼きだったり。そんな使用人ばかりなのだが、それが本作の最大の魅力だった。
19世紀・英国ロンドンが舞台ということで、雰囲気は抜群に良かった。ただロンドンの街並みを描くのではなく1892年という細かな設定をすることで、それらの背景にある実際の歴史についても触れたりする。
だからまあ、歴史の勉強ができるという程ではないけれど、確かにそうだなぁと頷く場面もあった。そういう意味でもあの次回予告のコーナーは面白かったなぁと。特に「小公女」の話については作品に対する凝り具合と読み手に対しての愛が感じられた。
そしてキャラクター達は皆ちょっぴりクセが強くて、でも賑やかな面々が揃っていたなと。お嬢様がツンケンしているのはアリがちだけれど、あんなにバラバラな思考の下、行動しているメイドたちを見るのは久々だった気がする。でも屋敷のため、お嬢様のためになると自然にまとまっていくという光景がとても微笑ましかった。
この作品の魅力は何か、それを考えた時真っ先に浮かんでくるのは、やはり彼女達と過ごす日々だった。決して平和とは言えないけれど、そこにあるのは幸せそのものだった。共通√では勿論の事、個別√でも頼れる仲間がいる温かさを感じる場面があって、その度に心が満たされていくような、そんな感覚だった。
個別√、話によっては首を傾げてしまう展開があったりもしたのだが、その後の解決策及び話の締め方がとっても好みだったりして、不快感なんてものは全然残ることはなかった。これはシナリオもそうだが、一枚絵の使い方が上手だったからというのも大いに関わっている。
ロビィ√はメインだけあって出来が良くて、ロビィの女の子としての愛らしさを描きつつ、同時に貴族としての気品ある姿も見せてくれたのが嬉しい。「貴族らしくある者こそ、貴族」あんなに逞しい立ち振る舞いをされては納得せざるを得ないよなぁ。
また、貴族とは何かを説いた上でその地位よりもさらに大切なものがあると。
「もし仮に、この兄と爵位、どちらかを選べと問われれば─」
「─私は、彼を選びます」
この時の台詞を読み上げる力強さと言ったら…。いや見事、流石はお嬢様だ。そしてこの言葉は彼だけに言える事ではなく、屋敷で生活する全ての使用人に言える事であるんだと、彼女の使用人への深い愛を感じた。時には自分を困らせ、怒らせ、泣かせたりもするけれど、どんな時も支えてくれる。この作品の良さが全て凝縮されたような、とても美しいシーンだった。冗談半分だと思っていたのにエピローグで本当に貴族を捨てているのには笑ってしまった。勿論、良い意味で。
もっと長くても良かったんじゃないかと思うくらい日常シーンが良くて、思い返すとついつい笑みが零れてしまう。これまでも執事モノをいくつかやってきた私だが、ここまで使用人全員を好きになれる作品にはそうそうお目にかかれないなと。充実感で満たされるとっても素敵な作品だった。