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asteryukariさんのシンフォニック=レイン 愛蔵版の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
シンフォニック=レイン 愛蔵版
ブランド
工画堂スタジオ
得点
87
参照数
402

一言コメント

「見つめていることさえ、罪に思える」

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

音楽パートがあるということで、長い間微妙に目をそらしてきた名作と名高い本作。プレイした感想としては紛れもない名作でしたし、まさか音楽パートにこれほどまでにのめり込むとは思っていませんでした。プレイ時間自体は15時間程度で終わったのですが、音楽パートの練習に明け暮れていたので想像以上に長く楽しむことが出来ました。音楽パートの出来によってその後の周りの反応、物語の進行にも影響するため、単純なゲームとしての楽しさとは別に、やり込み続けるモチベーションの維持にも繋がっていたかなと思います。雨のmusiqueのhardをクリアできた時は喜びに満ちていましたね。

そんな楽しみ方だけでなく、もちろんシナリオ面も非常に凝っていて、単純な話の面白さに加え、テキストをよく見ることで見えてくるミステリー的な要素もあるなど、何周もしたくなる飽きない面白さを持っていました。また、これは私の第一印象ではありますが、もっと明るい話だと思っていたので、話を進めていくうちに降りかかる理不尽や衝撃の事実など、全体的にダウナーな雰囲気を保ったまま進行していくのが驚きでした。しかしながらそれはマイナスではなく、むしろ私としてはこういった類の話、雰囲気は大好きなので完全にこの作品の虜になっていきました。

以下√ごとの感想になります。

●ファル√
お淑やかでやさしい優等生、そんなことを思っていた時期もありました。アリエッタと別れてから急に距離を縮めてきたと思ったら、本性を表しましたね。これまで好意的に人に接してきたのはあくまで自分のためだと、利用してきたんだとはっきりと口にする彼女。苦手なタイプだ...と思いきや案外嫌いじゃなかったです。

というのも彼女、自分の本性を表してから誤魔化したりせず、スラスラ認めていくのが中々潔くて感心してしまいましたし、何より自分が切られる側になって、焦りからか主人公を見下すような発言をしてきたクソに一泡吹かせたのが気持ち良かったんですよね。主人公は擁護しようとしていましたが、あんな安っぽい自尊心が支えの弱者に耳を傾けてやる必要ありませんよ、親友だと思っていたからこそ裏切られたような気分でいっぱいでした。

ただ、まあその分彼女に魅力があるかと聞かれればやはりうーんと唸ってしまうんですよね、きっかけはフォルテ―ルでも最終的に主人公の事を好きになったならいいじゃないかとは残念ながら思えません。

●リセ√
なぜリセちゃんがここまでの仕打ちを受けなければいけないのか。話を進めている時も、終わった後も思いました。最後のせめてもの救いとして声が出せるようになり、歌うシーンでもやはりその考え方が変わらず、特に感動とかはせずに終わりを迎えました。まあしいて言えばあのクソが最後の最後まで悪役に徹していたことくらいですかね、途中良い人になるようなそぶりを見せておいて、最後までクズ。あそこまでいくと清々しいですし、そこは評価しようかなと思います。

●トルティニタ√
昔からの幼馴染であり、彼女の双子の妹という複雑な立場から、主人公の事が好きなのに姉のために遠慮しながら動いている。そんな印象でした。まあこの√が真に魅力を発揮するのは後のトルタ視点でのお話を見た後ですかね。しかしながらこの√が初見でもよく読んでいれば終盤、違和感が付きまとうことかと思います。私が違和感を抱いたのはアリエッタがクリスの家に一年振りに訪問した時ですね。言葉の前に「・・・・・・」という溜めが付くようになっていました。まあでもそれが何を意味するのかまでは頭が回らなかったので、後のトルタ視点のお話が楽しみで仕方なかったですね。

●トルタ視点
衝撃ですよ、まさかのまさか、双子の設定をこう浸かってくるとは思ってませんでした。いやだってクリスくん、見分け方には自信あるとか言ってたし...。またクリスくんの見ている雨が幻覚だったという事実が発覚したことにより、より一層ファルが近づいてきたのが不気味に思えました。雨が降っていないのに傘をさして話しかけてくる、それは主人公の秘密を知っているからで、それを教えたアーシノにはまた苛立ちを覚えました。中身も何もかもペラペラ野郎です。

まあ何にせよトルタちゃんですよ、私好みのヒロインのタイプです。クリスを支えるために、アリエッタが目覚めるまでの代わりとして、好きな人への想いの板挟みになっていたんだと。切ないけど、素敵です。アリエッタを演じるためにパン作りを勉強したり、代わりに手紙を書いたり、それとは別にクリスのために歌を歌ったり...よく頑張りました。ええ、ホントにもう...。

近くなったと思ったら遠くなる、そんな辛い日々を過ごしていた彼女もついにはクリスに想いを寄せるだけでなく、クリスが自分のことをどう思っているのか気になってくる。姉の代わりではなく、姉に化けるという裏切りにも近い行為をしてしまう。限界だったんですよね、そんな精神が不安定な時に自分の欲しがってた言葉を聞けてしまったもんですから、戸惑いから涙を流してしまう。ここのシーンがトルティニタ√の時に受け取った印象とは全く違うのを見て改めてこの作品は凄いなと思いました。

そしてTRUE ENDが素晴らしい。何が素晴らしいかって、アリエッタのことは過去にして、自分達は前に進もうという終わり方ではないところが良い。あくまで「残された二人」として、アリエッタへの鎮魂歌を歌い続けるというのが二人のアリエッタへの揺るぎない愛を感じました。三人という一見、複雑に見える関係がどれだけ重要であったか、その愛をしかと受け取りました。

●フォーニ√
これはありえたかもしれない話という感じで、最後こそご都合主義でアリエッタ復活という終わり方ではありましたが、アリエッタに救いを求めていた方、フォーニが好きな方にとっては満足のいく内容だったのではないかと思います。フォーニちゃん、どの√でもかまってちゃんのように見えて、実はクリスの事をよく見ていて、しっかり気配りできる良い娘なんですよね。クリスがヒロインを家に呼ぶときは決まって姿を隠したり、クリスの悩みをそれとなく後押ししたりと相棒という言葉がよく似合う妖精さんでした。

音楽パートの練習に加え、シナリオも何周もしたくなる、非常にやり込み要素の強い良い作品でした。