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asteryukariさんの北へ。 ~Diamond Dust~の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
北へ。 ~Diamond Dust~
ブランド
ハドソン
得点
83
参照数
73

一言コメント

ちょっぴり危なげで、目に止まるとつい支えたくなってしまう。そんな脆くて優しい女の子たちが集まった作品だった。躊躇ないながらも幸福に向かって歩いていく彼女達の姿に、ただただ見惚れていた。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「舞台は、北海道。僕は恋と出会う旅にでかけた。」


今は亡きハドソンから発売された北海道を旅しながら女の子達と恋愛するゲーム第二弾。第一弾「White Illumination」の続編という位置付けだが、中身は新規のユーザーでも問題なく楽しめるような内容となっている。ただ勿論、前作プレイ済だと気付ける嬉しい要素も散りばめてあるので、個人的には前作をプレイしておいて良かったのかなと思う。

さて、例のごとく北海道を観光しながら旅するゲームであり、ヒロインを通じて様々な名所を巡っていくことになる。DCからPS2に移行したことで北海道の風景がより高画質になり、また動画になっているものもあったりと、旅の臨場感はかなりアップしたように感じた。

また、前作以上に地域の飲食店の製菓店に着目しており、ヒロインの中にはそれらの店との関わりが強いヒロインもしばしば。活性化にかなり力を入れていた。もし、私がリアルタイムでこの作品をプレイしていたのであれば、クリア後にすぐ帯広へ飛んで行って豚丼を頬張っていたことだろう。それくらい北海道への愛が深まっていく作りをしていた。

システムに関してはまあDC版よりは技術が向上したのかなというくらいで、格別に進めやすくなったわけではないものの、旅は遠回りするくらいが良いというか、この作品はこれくらいのシステムでいい気もしてくる。C.B.Sの簡略化により攻略もかなり簡単になったので、個人的には特に不満もない。



と、ここまで外側について語ってきたが、ここからはお気に入りのヒロインをピックアップして感想を綴っていきたいと思う。攻略できるヒロインは隠しヒロインも含めると総勢七人。15歳の女の子から28歳の大人の女性まで範囲は広めだが、共通しているのはどのヒロインも心に弱さを抱えているという点。そんなちょっぴり脆い彼女達を支えていくのが主人公の役目であり、そこが本作の最大の魅力である。以下ヒロインごとの感想。

○果鈴
自然気胸を患い、北見の病院で療養中の少女。主人公の友人、白石満の実の妹でもある。序盤は病気で消沈中の彼女だが、兄を通して主人公と知り合ってからは本来の明るい性格を取り戻していく。子供っぽくて甘えたがりな彼女の愛らしさに心を撃ち抜かれたユーザーも多いことだろう。私もその一人であり、彼女が再び歩けるまで支えるお兄ちゃんの一人になっていた。

このシナリオで良かったのはヒロインと主人公の関係で完結させず、兄である満もしっかり絡めてくる点。主人公と比較するとお見舞いに来る頻度が少なく、態度もどこか突き放しているように見える。そこに果鈴は不満を覚えていたが、実は果鈴の入院費を捻出するために働いていたのである。その事実を知った際は果鈴と同じく私も涙を零しそうになった。序盤から友人たちの中で最も好感度の高い彼だったが、さらに株を上げてくれたのだ。

ラストの告白で果鈴が”本当のお兄ちゃん”として触れてくれたのも嬉しくて、エピローグもまさに私が見たかった光景を見せてくれた。飛ぶことを夢見た少女の夢を叶えてくれたのは主人公だけではない、”二人のお兄ちゃん”だったわけだ。


○笙子
隠しヒロインであり、ヒロインの中では最年長。ラジオのパーソナリティーを務めており、見た目通りの有能な女性。かと思いきや恋愛観は少女そのものであり、彼女と親密な関係になるにつれて、そんな意外な一面が見えてくる。

ストーカーとの一件をきっかけに偽の恋人から大切な存在へと変わっていく極めてシンプルな展開だが、主人公に安心感を覚え、徐々に自分の過去や考え方を話し始める笙子さんはとても愛らしい。

冬編に突入すると手作りチョコをあげたり、自身の想いをそれとなく伝えたり、もうぐいぐいと迫ってくる。年齢を気にして少し工夫しながら自身に対する好意を聞き出そうとするところなんかは、前作の薫さんを思い出す。ハドソンの年上ヒロインはどうしてこうも可愛いのだろうか。

このルートはなんと言ってもラジオ越しの告白がお洒落で素晴らしい。あんな完全武装の告白をうけて彼女を受け入れない者などいないだろう。「…言っちゃった。」の破壊力たるや…告白シーンだけで言えば最も悶えたルートであった。


○まふゆ
二人目の隠しヒロインであり、その正体はなんと高校からの親友である冬真。最後の最後で性同一障害なんて中々にヘビーな問題をもってくるから驚きである。それでいてインパクトを与えて終わりではなく、シナリオもそれなりによく出来ていたのが嬉しい。

ヒロインルートをやっているはずなのに、今まで以上に親友と過ごす機会が多い。そこに序盤は疑問を覚えていたが、彼が彼女だとわかれば見え方は一気に変わる。サッカー部の部長との出来事を話したのも、バレンタインでチョコレートを渡そうとした時の回想が挟まれたのも、全ては彼女の本心を知るためである。

「…やっと渡せた。私の本命チョコ…」

冬編になると前半の回想や語りが生きる場面がいくつも登場して、本当に昔から主人公の事を想っていたことがわかる。個人的には性同一性障害ではなく、男×男でも良かったのではないのかと思わないでもないが、それだとエピローグの一枚絵は見られなかったのかなとも思う。男も女も関係ない、”素敵な仲間”がいる。それでいいのだ。

また、出番こそ少ないが、冬真の母もかなり良い役回りをしていたなと思う。自身の子供を白いトマトと例え、それでもなお愛する心は変わらないと自信をもって答えられる。あの子を受けれられないのであれば、二度と会わないでと言い放つことができる。本当によくできた母親である。


○明理
帯広の有名な老舗製菓店「柳月」でアルバイトをしている少女。母親を早くに亡くし、残ったのは砂金堀りと飲酒に夢中な無職の父親。そんな父親を主人公が事故から救った事で彼女と親密な関係になっていく。

明理ちゃんの魅力を一言で表すと”健気”に尽きる。迷惑をかける父親がいても、決して見放したりはしない。それどころか砂金堀りに夢中になる父親を見て笑みを浮かべたり、もっとバイトを頑張ろうとする。主人公との付き合い方も本当に良い子そのもので、彼女がなぜあのバイト先を選んだ理由を聞いた時なんかは感激してしまった。なんて良い子なんだと。

そんな良い子をどん底に突き落とすような展開を持ってくるからこのゲームは恐ろしい。健気で笑顔が象徴的な彼女が、涙を流しながらどんどん弱っていって...こんなの私が支えてやるしかないだろう。おばさんに向かって啖呵を切る主人公が本当によくやったとしか言えない。

そして、冬編ではそんな彼女が前を向き、幸福への歩みを進めていく姿が描かれている。主人公との時間を過ごしながらも、たびたび父親のことを思い出し、悲観するのではなく笑みを浮かべてくれる。カラオケで彼女が「ハッピー☆デイズ」を歌うシーンでは、彼女の心情がそのまま伝わってきて、泣くようなシーンでもないのに涙を零しそうになった。

お墓参りから告白までの運びもすごく自然で、それでいて彼女の魅力がたくさんに詰まっていた。強くて逞しい彼女だけれど、支えてもらうためのスペースはちゃんと空けている。そういうところが年相応の女の子らしくて可愛いなと思う。本作のヒロインの中ではぶっちぎりで一番好きな子だった。




総じて、たくさんの愛が詰まった作品だったと感じる。前作に引き続き凄く楽しませてもらった。幸福に満ちた素敵な時間をありがとう。