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asteryukariさんの僕は天使じゃないよの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
僕は天使じゃないよ
ブランド
130cm
得点
84
参照数
534

一言コメント

鬱ゲーと言ってしまえば簡単だが、この作品をそんな言葉で終わらせたくない。苦しみの先に待ち受けているのは、やはり苦しみだったが、苦しみ続ける中で淡く光る綺麗なモノを見つけることができた。彼女に出会えてよかった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

サンプル画像とあらすじを見て、あー陵辱色強めの作品なんだなくらいの認識でいたが、そんな軽いものではなかった。もう、心がへし折られるような話ばかりで、テキスト、演出はとても軽快なはずなのに、パッパッと読み進めることが出来なかった。

各ENDを見るたびに、胸にずしりと何か重いものが乗っかってきた。辛い、早く終わってほしい、だが物語の続きが読みたい。そんな相反する感情が心の中で渦巻いていた。

先が気になるというのは、単純に物語がどのような結末を迎えるのか気になるという理由以上に、ある登場人物に対する救いを求めていたからだ。なぜこんなにも心優しい娘がこのような仕打ちを受けるのか、彼女に救いがありますように。そんなことを考えながら読み進めていた。


ここで言う"彼女"というのは勿論、小梅のことだ。ビジュアルもさることながら、控えめな性格、物語における配役、盲目と言う設定。どれをとっても私の好みであり、その娘の幸せを願いたくなるような、そんな女の子だった。


故に読み進めるのが辛かったのだ。そして怒りも沸いてきた。

初めに怒りを覚えたのはローザ。最初は「あ♡金髪ロリッ娘だ!しかもお洋服も可愛い!好き!」と一目惚れしかけたのだが、それも不発に終わった。「なんなんだあいつは、頭がおかしんじゃないのか」本気でそう思った。

こんなにも好きなビジュアルで好きになれない女の子がこれまでに存在しただろうか、いや、初めてかもしれない。彼女をどうやったら好きになれるのか模索したが、どうにもそれは難しかった。

そのため、彼女が幸せそうにする姿は到底受け入れられなかったし、楽しめなかった。終章にて彼女の生い立ちなんかも書かれるが、やはりそれも胸に響いたりすることはなかった。少し可哀想とは思ったが。


そして次に怒りを覚えたのが本作の主人公であるところの市蔵。小梅のことを差し引いても彼の行動は目に余るものがある。所謂ダメ主人公だ。柘榴のお話では中々にかっこいい場面を見せてくれたりもしたが、基本的には情けない場面が多い。が、ダメ主人公だからこそヒロインが光る瞬間が生まれることも確かなので、私としてはそこまで彼を毛嫌いしていない。まあ小梅を売るのだけは許せなかったが...。

しかしあれも結局は破滅に向かうわけであるし、そういう意味でもライターさんは意地が悪いなと思った。勿論褒め言葉である。小梅終章を最後に置いたのも考えると、扱いこそ酷かったが、そんな中で淡く光る彼女を描きたかったのかなと思う。

小梅終章は本当にじっくり、それも何度も読み返した。それこそ本を一ページ、一ページめくるような感じで。

「ーあの方のお心をお護りしたかったのです。そのためならわたくしは、何でも出来るつもりで御座いました」

「ー許されるなら、二人きりで、静かに住み、尽くしたかった。けれども...愛して頂きたいとは願いませんでした。ただお傍にお仕え出来れば、わたくしは幸福でした」

彼女の想いが綴られた手紙を見て、私はただひたすら泣くしかなかった。今まで募らせていた市蔵への憎しみも、この時はどうでもよくなった。小梅が想いを寄せているのは、他ならぬ彼なのだから。純愛なのだ。

奇しくも彼女の願いは悲しい形で叶えられたわけだが、悲観はしてなかったはずだ。

表面的に見れば救いはなかったのだが、小梅の気持ちを考えると、彼女は十分幸せだったのかもしれない。が、やはり彼女が好きだった私としては、彼女が受けた仕打ちを考えると心の底から喜ぶことはできなかったし、ライターさんもそんな気持ちにさせるつもりはなかったのだろう。

あえて形容するのであれば、“美しかった"。この言葉に尽きる。