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asteryukariさんのあの空の向こう側の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
あの空の向こう側
ブランド
high-soft
得点
81
参照数
201

一言コメント

シナリオの質は決して高いとは言えない上、無駄な要素、延いては無駄なルートまで存在する。しかしながら本作の軸となっている設定とヒロインには一見の価値がある。  

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

シンプルなタイトル画面から始まる物語は癖がなく、言ってしまえば平和そのもの。主人公の周りには昔馴染みの仲間がいて、その中の一人の女の子とようやっと付き合い始めた。序盤からかなり関係性が整っていただけあって、その後の急な展開には少なからず動揺した。

 

意外だったのは主人公だけが別世界へ飛ばされるのではなく、さやかと幸紀も共に飛ばされている点。主人公の隣に美穂がいなくなったことで関係が拗れていく様がありありと描かれていた。ただ、それが面白かったかというと微妙なところで、それは一貫して二人の存在がプラスになっていることがなかったから。さやかが美穂を想い、美穂の事を忘れないためにと主人公へお弁当を作るようになった際はとても輝いて見えたのだが、物語が進行するにつれてやや残念な女の子になってしまった。

 

主人公を支えという純粋な想いがやがて恋心へと変化していく事自体は美しいと思うし、大好きと言ってもいいものなのだが、さやかの場合は汚い部分ばかりが描かれていたため、どうも好きになることが出来なかった。終盤なんかは節操なしにビッチ女になってしまうし、本当にどうしてこうなってしまったのだと天を仰いだ。個別も個別で特別なエピソードがあるわけでもなく、面白さもまるでないので彼女に対する思い入れはあまりない。

 

そして、どうしてこうなったと言いたい件はもう一つある。無論、幸紀ルートのことである。本当にどのユーザーに向けて作られたものなのか、攻略できることを知った際は笑ってしまったし、実際に攻略してみるとそこそこ本気のBLが描かれていて引き攣った笑いを浮かべてしまった。それはもう、序盤のキスを迫るシーンが可愛く見えないくらい凝っていた。もしかしたらシーンの中では一番気合が入っていたのではないだろうか。そんな所に力を入れるくらいなら、もっと他に直すべき点があっただろうと言いたくなる。

 

また、別世界で新たに登場したヒロイン、まどかについても上記と同様、不満が残った。性格はわりと好みで、時たま見せる女の子らしさも実にいいのだが、まあヒロインとしての魅力は薄かったかなと。彼女に対する不満はないのだが、このルートが果たして必要だったのかというと、個人的には必要ではなかったと言い切ってしまいたい。彼女に救いを与えているようで、何もしていないお話だった。

 

 

と、ここまでは酷評続きだが、ここからは本作を大好きになった理由について語っていきたいと思う。

 

こんなにも文句を言っておきながらなぜこの作品が好きなのか、それはとあるヒロインにベタ惚れしてしまったからである。別世界のヒロインであり、美穂の妹でもある「一ノ瀬美沙」という女の子が本当素晴らしいキャラクターだったのだ。

 

明るくて元気で人懐っこくて、そんな性格なので序盤はいきなり出てきてなんなんだこいつはと、良い印象は抱いていなかった。というかはっきり言ってしまえば、それまでの美穂と主人公のやりとりが好きだったのもあって彼女に対する意識は低かった。この時点ではさやかと同じ気持ちだったと思う。

 

けれど、振り向いてもらえるようにと健気に寄り添ってくる彼女を眺めていると少し情が芽生えて、手を繋いだり、一緒に空を見たり、そんなちょっとしたことでも大喜びしている彼女を見てすごく良い子だなと。気付けば美穂よりも好きになっていた。極めつけは最後の「選択」をするシーン。

 

この作品にとって選択することがいかに大切かが描かれているシーンなのだが、私は美沙らしさが最も光るシーンだとも感じた。自身の死期が迫っていても決して自分を推すようなことはしない。それは身を引くことの美しさ以上に物凄く彼女らしい行動だなと私は思う。普段から主人公を想い、そして姉を想っているからこそできる行動だ。本当に作品を丸ごと好きになってしまうくらい大好きな女の子だった。

 

と、本作を好きな一番の理由は彼女の存在にあったわけだが、もう一つ評価しているのはつかさルート。厳密に言えばつかさルートの最後の部分、主人公の「選択」をとても気に入っている。

 

美沙により命を救われていた事実も素敵だが、それを踏まえて第三の選択をした主人公が本当に素晴らしかった。ラストの一枚絵も、あれこそが主人公が見たかった、守ろうとした光景なのだと思うと画面が滲んでいく。

 

改めて、美沙という女の子とつかさルートは私に深い喜びを与えてくれたなと思う。

実に私好みの隠れた名作でした。