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asteryukariさんの水夏A.S+ ~SUIKA~の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
水夏A.S+ ~SUIKA~
ブランド
CIRCUS
得点
86
参照数
226

一言コメント

夏らしく優しい雰囲気からは予想もつかないほど物語として読みごたえがあり、話の合間合間で話を整理しながらプレイしました。どの章も違った魅力があり、その中でも私は一章の伊月の想いにやられました。双子の姉妹愛というものは、なぜこんなにも美しいのでしょうか。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

考察ゲーという程ではありませんが、私の理解力不足もあり物語を整理するのに時間を要する場面が多々ありました。しかしながら散りばめられた出来事や言動の繋がりを発見できた時の喜びと感動は大きく、クリア後は良くできているなあとしみじみ思いました。久しぶりに「読むおもしろさ」というものを味わった気がします。また、外伝については名無しの少女の過去が明らかになり、なぜ名無しの少女は死神になったのか、アルキメデスは何者なのかなど、作中の四章だけではわからなかった事実が次々と明るみに出てきて読みごたえがあったのですが、0章に関しては外伝ということで、死神という存在について、本編とは関わり合いのない人物たち、話が進められていくので、話の長さもあり正直言っておもしろくはなかったです。

本編に関して、初めは夏らしい雰囲気とそれを掻き立てるBGMが流れる雰囲気ゲーなのかなと思いきや一章で度肝を抜かれまし、やはり最後まで一章が好きでしたね。ことあるごとに視点が過去と現在に変わり、話の謎に近づいていく感覚がたまりませんでした。まさか伊月が実は父親の手によって既に死んでいたとは。このこともありそのままEDを迎えた時はなんか伊月が可哀想だなくらいの感想だったのですが、ED後に千夏から明かされる伊月の願いを改めて見つめ、伊月の思いや生き様を考えると涙が零れ落ちました。

伊月の願い、それは、ひとつは主人公と結ばれること、もうひとつは小夜が蘇ることだったんですよね。生まれた時から二人一緒で、どこに行くにも何をやるのも一緒。それに加えて父親と母親の仲が悪くいつも喧嘩してると来たら、この二人は本当にいつも二人だったんだと思います。そんな二人に初めて亀裂が入る。皮肉なことに好きになる人も一緒だったんですよね。

小夜が持ち前の我の強さもあり、主人公に果敢に攻めていましたが、主人公が選んだのは伊月だった。小夜が伊月から主人公が引っ越してしまうと聞いたときの最初の驚きはその事実自体に対してではなく、その事実を伊月は知ってて私は知らないということだったんですよね。嫉妬とか今までずっと一緒だったのにとかもう色々な感情が溢れてきたと思います。その後もやはり揉めて不幸にもそのまま喧嘩別れになってしまう。

伊月はそのことをずっと悔やみ続けていたんですよね、恐らく主人公と結ばれた時でさえ小夜への想いとの板挟みになっていたに違いません。だからこそ主人公ともっと一緒にいることよりも小夜が蘇ることを望んだ。自分はもう"結ばれた"のだから。もし伊月が小夜をこんなにも愛していなければ、伊月は主人公と一緒に居続けることを望んだでしょう。いくら喧嘩をしたって言っても本来は大の付くほど仲良しなんです。そのことはED後に小夜に出会った時も小夜が言ってましたね、「すごく仲良かったから...」と。傍から見たらお前何も知らないくせに...と言いたくもなりますが、伊月の想いと小夜の想いが一緒だったようで私は嬉し泣きしてしまいました。

驚いた場面とか盛り上がった場面とかで考えるとやはり三章の茜と透子のトリックだったり(これに関しては伏線が山のように散らばっていておもしろい)、四章で明かされる千夏の正体などが挙げられますが、自分は「姉妹愛」に滅法弱く、それも恐らく一番弱いと思われる「双子の姉妹愛」について語られていたので、一章が大好きでした。