厚みこそないが個性的且つ沁みるお話が用意されており、時には涙ぐんでしまう瞬間すらあった。小さな幸せを求める少女たちに幸あれ。
パワプロクンポケットということで、なんだ野球のゲームじゃないかと。シナリオパートに期待なんか微塵もしていなかったし、ここに登録する気もなかった。しかし、いざプレイしてみると私の認識とは全く異なる、純度の高いギャルゲーだった。
まず導入部分がノベルゲームで普段よく見る光景そのもので、裏社会で活躍するエージェントたる主人公が潜入捜査のために野球チームに入団するというもの。野球の経験なんて微塵もない主人公が、その恵まれた身体能力から野球の才能を開花させ、野球の魅力にも惹かれていくというとても気持ちのいいストーリーが用意されている。
そして、そんなエージェント兼野球選手の主人公が六人のヒロインと出逢い、関係を深めていく部分が本作の大きな見所である。ヒロインはエージェント仲間から良いところのお嬢様、果ては宇宙人まで幅広く揃っていて、各々が結構な個性をお持ちである。驚いたのがわりと容赦のないダークな設定も多々見られる点で、シンプルに美少女とイチャイチャして終わりなシナリオは一つたりとも存在しなかった。これが本作を高く評価している点でもある。
中でも良かったのは友子√と茜√であり、ヒロインの好みで言えば冬子なんかはドがつくほどのタイプの美少女で、クリスマスイベント以降は毎回悶えるほどの喜びを与えてくれた存在でもある。ただ、シナリオの出来で絞り込むと、上記二つのお話が良かったかなと。
どちらにも共通して言えるのはバッドエンドの切れ味がすこぶる良い。ハッピーエンドを迎える前に踏む価値のあるバッドが用意されているのはやはり嬉しい。しかもただのバッドではなく、主人公にちょっとした救いを与えてくれるビター気味な結末なのがまた好きだなぁと。以下では二つのルートについて感想を語っていく。
◆森友子√
主人公の中学の頃の同級生であり、偶然の再会を果たす…なんて普通の設定ではなく、実はサイボーグで、暗示により他人の記憶を操作できる能力を有する。しかも主人公と敵対する組織の一員であり、彼から情報を引き出すためにわざと近づいてきた…と。勿論、彼の中にある「同級生」という記憶も彼女が作り出したものに過ぎない。
といった具合で鬱気味なギャルゲでもそうそう見ないドきつい設定のヒロインであった。
サイボーグ・アンドロイド系ヒロインということで、シナリオもそれに沿ったものが用意されているわけだが、終盤になるにつれて「敵」という立ち位置が熱を帯びてくる。バッドエンドが最初から最後まで美しくて、主人公にとどめを刺してもらうようなありふれたものではなく、「主人公の記憶を消す」というのが実に自分好みだったなぁと。しかも再会もしない。これだよこれ!と声を荒げたくなるような素晴らしい締め方だった。
湯田も凄く良いキャラしているし、この辺は野球という要素が生きているなぁと感じる。ゲームパートの野球はそこそこ終わっているが…。
そんな結末を見た上で迎えるハッピーエンドは極上と言う他ない。ベンチから立ち上がって彼女を迎える主人公を見て思わず涙が出そうになった。本当に、この一瞬ですべてが報われた。
◆高坂茜√
公園で次作のダンボールハウス(通称:アカネハウス)に住む家出娘。家出の理由も唯一の家族である父親から虐待を受けていたからという中々に悲惨なもの。本当に野球のゲームか?そんな可哀相すぎる彼女と出会い、共に生活していくというのが本√の主な内容。
このルートが真に素晴らしいのは家族という空間が、茜のためにだけ用意されたものではない点。主人公とリンにとっても、あの空間はかけがえのないものだったのだ。
まずリンについて、読み進めている時は成り行きで姉役になった印象が強かったが、彼女にもまた家族いない事実を踏まえると、また見え方が違ってくる。主人公も同様である。はっきりと明言されてはいないが、経歴などを見るに家族とは無縁の生活…もっと言ってしまえば友子と同じなのだろうなぁと。
私はもうとにかくリンのお姉ちゃんっぷりが刺さって刺さって仕方なかった。二人の下から去る場面は本作一の名場面と言っても過言ではない。
「アカネと出会う前なら一番だったわ」
この言葉に彼女の想いが全て詰まっている。茜が可哀相だからとか、負けヒロインだからとか、そんな理由ではない。大好きな妹の幸せを考えて出した彼女の回答に、私は頷くことしかできなかった。
リンに肩入れしていたからこそ、彼女の望まない結末(バッドエンド)を見る時間は辛くて仕方がなかったが、ハッピーエンドではまさかのサプライズがあって嬉し泣きしてしまった。きっと彼女も泣いただろう。本当に、幸せになってくれてよかった。
まさかここまで感情を揺らしてくるゲームだとは思わなかった。友子√でも少し愚痴ったが肝心の野球パートのクオリティはかなり低いので、そこは少し残念だが、シナリオを読みに来た身としては大満足だ。パワポケシリーズはこの後も9,10…14と続いているので、それらも是非ともプレイしてみたい。余裕があれば8以前の作品も全てプレイしてコンプリートを狙いたいものだ。
舐めていてすみませんでした。パワポケ8は正真正銘のノベルゲームでございます。