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asteryukariさんのこころノートをあなたに -kokoro-note for you-の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
こころノートをあなたに -kokoro-note for you-
ブランド
Virtual Novel
得点
73
参照数
37

一言コメント

後半になるにつれて雑さが目立っていくが、前半で培った良いモノを絶やさず、生かしていたのは良かったかなと思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


過去の出来事をきっかけに音楽から距離をとっていた青年が、少女との出会いをきっかけに再び音楽の世界に手を伸ばす。導入はとてもありふれたものだが、珍しいのはその音楽の世界がバーチャルの世界である点。ブランドの掲げる目標の一つである「VTuber文化を世界に広める」という部分と噛み合ったものだったと思う。前作はまずそこが噛み合っていなかったので、ホッとしたし、作品への期待度も上がった。

同じ目標を志す仲間たちと出会い、共に助け合いながら、バンドという一つの個として成長していく。前半部分に関しては、かなり出来が良くて、音楽モノに必要な要素がしっかりと揃ったパートだったように感じる。特に良かったのが登場するキャラクター一人一人にスポットライトを当ててくれる点。

紅葉やみりあ、朔といったバンドメンバーだけでなく、くるみやかしこまりなど立ち位置としてはサブのキャラクターに対しても、同等かそれ以上の活躍所を用意してくれた。中でもかしこまりの輝き方はとても印象的で、普段はヘラヘラして「プロなんて所詮肩書だけさ」と零していた彼女が、自身のくすんだ魂に火をつけ、再び本気でロックに向き合う姿には心を奪われた。

そんな先輩たちの姿を見ることで、電子軽音部のメンバーたちが更に上を目指そうとするのも良いし、読んでいて先に待つ物語が非常に楽しみになった。



後半部分に関して、正直な感想を書くと一つ目のルートを読み終えた時点の気分はあまり良いものではなかった。まず紅葉との恋愛パートがかなり不自然だったのは気になった。ヒロインを用意する以上、いつか一緒になるのはわかっていたが、それにしてもいきなり感が強く、音楽モノとしての魅力に惚れ込んでいた身としては、若干引いてしまった。

また、結末についても着地点だけ見れば好きそうな内容ではあるのだが、そこに至るまでが雑すぎる上、作風を考えても音楽の凄さをそんな形で表現してほしくなかったというのが本音である。

少々辛口にはなったが、もちろん後半部分に良いところもあって、二つ目のルートに関しては実にロックでこの作品らしいものだったと思う。特に最後のステージで電子軽音部の先に先輩たちが歌う構成が美しく、前半部分がしっかりと生きているなと感じた。

自分を再び音楽の世界に引き込んだ者達と同じステージで、自分たちも音楽を奏でることができる。そんな主人公たちの喜びが画面を通して伝わってきて、こちらとしても非常にいい気分になることができた。最後に限らずではあるが、場面に合わせた力強いスチルが用意されているのは、本作の大きな魅力の一つだと思う。



といった具合でやや落ちる部分もあったのは確かだが、ジャンルとしてやってほしいところは丁寧にやってくれていたし、音楽面と演出面に関しても申し分なかった。何より前作と比較すると大きな成長を感じられる作品に仕上がっていたので、次の作品が今から楽しみである。

心に残る力強いメロディをありがとう。