思っていた以上にやさしい作品に仕上がってはいるものの、心躍る展開やキャラクターの魅力が光る場面はきちんと用意されていた。項羽軍が本当に愛らしい子ばかり。
新しい恋姫時代の幕開けということで、時は始皇帝が崩御し、後継を巡って各地で群雄が争う戦乱の世。項羽と劉邦の戦いを基盤とした作品になっている。有名な史実故にプレイ前から両軍の雰囲気も何となく伝わってきて、此度の恋姫はどのような物語を見せてくれるのかとても楽しみにしていた。
今作は過去の恋姫と違い何十章もあるわけではなく、全三章となっている。ただ、章の中にはまた更に節が存在するので、体感としては過去作と同じようなリズムでプレイできるかなと。以降は章区切りで感想を述べていく。
<一章>
はじまりは主人公が突然、過去の時代に飛ばされる…といった恋姫あるあるなスタートではなく、外史管理人見習の青年「司馬遷」が破滅の未来のビジョンを見て、外史を救うために下界に降りるところから物語の幕が開ける。はじめから自らの意志で歴史に介入するというのが本作の肝で、私としては主人公の株も上がるので良い導入だなと感じた。
そこからメインヒロインであり、劉邦の長である「桜香」と出会い、劉邦軍の一員として戦い、交流を深めていくというのがこの一章。まあ、序盤から愛らしくてえっちな女の子たちがポンポン出て、目移りしまくってしまう。
天真爛漫を絵にかいたような桜香が可愛いのは勿論、どっちつかずの立場で苦悩している韓信(綺羅)も大変に自分好み(後の大将軍のイメージとはかけ離れている点が嬉しい)。また、項羽軍の長である愛莉も自分の理想通りのキャラクターだったので、ついつい興奮してしまった。キャラクターデザインも抜群に良いが、何よりキャスティングが素晴らしい。
中盤辺りまでは史実に似合わない和気藹々とした日常風景が描かれているだけだが、項梁の死をきっかけに両軍の思想が分かれると読み物としての面白さも増す。嬉しかったのが気になっていた大将軍に至るまでの物語が、結構序盤から始まる点。正直、劉邦よりもヒロインらしく描かれているので、この章で綺羅を好きになったユーザーも多いのではないだろうか。
<二章>
匠は約束により、今度は項羽軍の一員として動いていくことになるわけだが、この章が読んでいて最も面白かった。何が面白いって項羽軍の側近たちがとても濃ゆいのだ。魅音はわかりやすく好感度の高いキャラクターしているし、猫を被っていることが丸わかりな彗も気になる。そして、軍師様の水明ちゃんは…もうかわゆいかわゆい!そんな彼女達と過ごす日常が楽しくて楽しくて、メインシナリオでやっていることは中々に惨忍だが、それを拠点パートで上手く緩和できていたと思う。
前半はもうとにかく水明への力の入れようが目立っていて、水明が匠に恋するまでのサクセスストーリーに目が行く。はじめは目の敵にしていたのに、徐々に好意を抱いてきて、最終的には様呼びになるだなんて…可愛いが過ぎる。特にエピソード「そろそろ告白されるかも?」は何度読んでも口角が上がってしまう。キャラクターと用意されているシナリオが見事にマッチしていて、彼女という存在をひたすらに磨き上げていた。
匠に対する態度が最も尖っていた水明が篭絡されると、項羽軍全体の雰囲気もよくなって、これが本当に凶王率いる軍なのか疑問が浮かぶようになる。立場を比較すると項羽軍が圧倒的に敵なのだが、もう揃っている女が皆、愛おしすぎるので、このまま項羽軍サイドで読み進めていきたいとすら思っていた。
そして、そんな幸せに満ちた時間を与えておいて、一気に突き落とすのがこの章の面白い点である。展開自体は少しファンタジー色が強くて驚くが、ああいった形で四面楚歌へと繋げていくのは上手いなと。史実のような悲しい末路ではなく、勇ましく逞しく散るというのがこの作品の項羽(愛莉)らしくて凄く良いし、涙を誘う。
<三章>
開幕早々、二章の感動は失われるわけだが、腑抜けた彼女を見た項羽軍の反応が期待以上のものだったので、こういった展開もまあアリなのかなと。元々、好感度が高かった魅音だが、この章で更に株を上げていた。他の二人が愛莉様心酔組なので、こういうキャラがいるのは嬉しいし、項羽軍のことが一層好きになった。
また、敵の敵は味方な展開も王道で熱い。両軍共に戦うだけでなく、拠点パートも両軍の交流を主としたものが用意されている点も嬉しいなと。中でも殺苛蛙の話は印象的だ。最強チームのはずが姉妹喧嘩で自爆オチも面白いが、軍師組で揉めているのもクスりとくる。この話に限らず三章全体で軍師×軍師、武将×武将といった、同役職のキャラクターの掛け合いが用意されているのはとても嬉しかった。
そんな具合で始皇帝戦前の時間は結構好きだったのだが、始皇帝戦が始まった後の展開は正直好みではなかった。拠点パートでも薄々感じていたが、南斗の使い方が雑だったのが楽しめなかった原因かなと。南斗ちゃん自体は悪い子ではないのだが、情が乗るようなエピソードが少なく、そんな彼女をキーとして動いていくシナリオは不自然に感じた。こちらはもうすっかり項羽軍と劉邦軍で協力して倒すぞ!という気分だったのに合間合間で水を差されたような、そんな感覚だった。
ただ、締め方は悪くなく、主人公が残る決断をしたのは作風的にしっくりくるし、律義に支障との決別のシーンを入れてくれたのも嬉しかったなと。見習いという立場が絶妙だった。某過去作のような涙を誘うような幕切れではないけれど、とても自然で良かったと思う。
振り返ってみれば、戦乱の世という感じではなく、かなりやさしい世界のお話だった。欲を言えば血で血で洗う戦いも見てみたかったが、まとまりは悪くないし、何より愛着の湧くキャラクターが多く用意されていたので、それなりの満足感はある。実に恋姫らしい楽しみ方ができた作品だったなぁと。例によってここからまたファンディスクがぽつぽつと出ていくのか、それは戦国BRAVEの方でやるのかわからないが、何が出ても楽しみだ。
楽しい時間をありがとうございました。