後半になるにつれて盛り下がりは感じたが、ヒロイン達への情は膨らむばかりだった。あの幸せな空間にいつまでも停滞し続けたい。
物語の導入は、古くから存在する洋館に呼ばれ、美しいメイドに囲まれながら生活していくというどこか懐かしいもの。
共通ルートでは、出身も経歴も不明なメイドたちと触れ合いながら、彼女たちの交流を重ねていくわけだが、これがまあ楽しい。情報が小出しにされていく感じは勿論、単純に容姿が好みのヒロインばかりだったので、共に生活していくにつれて徐々に女の子らしい部分が見えてくるのがたまらなく嬉しかった。
共通の時点でとりわけ気に入っていたのはメイド長ことフィリエルとスミレで、フィリエルは立場に似合わず軽めな性格が自分の肌に合っていた。スミレは真名を知るときにも触れられる通り抜群に容姿が良く、メイドたちの中だと若いためか好奇心旺盛なのもよかった。
個別ルートに突入すると、作品のキーとなる種子について言及していくこととなり、各々のメイドが持つ種子と対峙しながら、愛を育んでいくことになる。種子を与えられるきっかけが語られると同時に、ヒロイン達の過去について明らかになっていくのでなかなか面白い。それまでの甘く謎に満ちた日常というのも悪くはなかったのだが、読む楽しさが生まれていくのはエリス√からになるかなと。
個別ルートの中で最も良かったのはフィリエル√で、女の子らしさを見せていくフィリエルが愛らしいのは勿論、気になっていた種子を与えた存在についても深く掘り下げていくことになるので…まあ面白い。正直ここが一番の盛り上がりところで、そこから先のノワール√、TRUE√は、この時ほど読み進める楽しさはなかった。これはまあ構成を考えると仕方ないのだが、ライターの癖が出ているなとも感じる。
ただ、かといってノワール√以降がつまらないかというとそんなことはなくて、ノワールという少女を磨くに足るエピソードが無数に用意されていた。先ほども述べた通り、私はフィリエルが気になっていて、フィリエル√を読み終えたことでその気持ちがさらに膨らんだにもかかわらず、最終的に好きになったのはノワールだったのだ。
世界で一人だけ違う生まれ方をして、種として孤独に生きていた。そんな少女が家族を求めて彷徨っていたら、まあ手を差し伸べたくもなるもので、彼女のことを知るにつれて彼女に対する情が膨らんでいった。愛らしい少女の容姿をしているが、その実は人外の生き物であるという事実も刺さったのだろう。この辺はゼロ年代を生きたオタクたちであれば理解していただけるかと思う。
彼女との対決に関してはまあ見ていて面白さはなかったけれど、ノワールのために動くエリスやフィリエルは見ていて微笑ましかったなと。あの場面に限らずだが、ヒロイン同士に仲が変に拗れたりしないのが本作の良いところの一つだと思う。皆がノワールを慕い、彼女のために動いている。その関係はもう家族と言ってしまっても決しておかしくはない。
だからこそTRUE ENDを見る瞬間より、後日談を見ている時間の方が私は幸せだった。内容はほとんどえっちシーンの消化だが、やはり皆で過ごすあの時間が私にとってのホンモノだったのだなと思う。
中弛みを感じたり、後半は読み進める楽しさが薄れたりと、差し引く部分は大いにあったが、作品の狙ったヒロインを見事に好きになってしまったのはやられたなぁと。まったく嬉しい誤算である。特に触れていなかったが、アマリリスの後日談なんかも読む価値のあるものになっていたので嬉しかった。
安らぎに満ちた時間をありがとうございました。