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asteryukariさんのプリマドール 無名典礼の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
プリマドール 無名典礼
ブランド
Key
得点
81
参照数
394

一言コメント

この主人公とヒロインだからこその、不純物のない美しい物語が生まれた。綺麗に描き切ってくれ本当にありがとう。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


プリマドールシリーズ第二段ということで、今作は箒星の前日譚が書かれている。箒星といえば過去のトラウマから声を発すること、歌うことができなくなったというのがアニメ版の肝となる部分だが、過去編なのでもちろん普通に喋る。というかめちゃめちゃ喋る。


本作の主人公は極秘任務部隊のエリート兵士であり、ぶっきらぼうで不器用なタイプ。対して箒星はというと明るく天然でお世話焼き。また、階級も臨時大尉ということで実は箒星の方が立場が上だったりするので序盤はまあ仲が悪い。しかしながら寝食を共にすることで、お互いに理解も深まっていく。

とにかく無名の性格がシナリオに上手いこと作用していて、人間よりも表情豊かな箒星にペースを乱されて、だんだんと穏やかな性格になっていく無名が見ていてとても愛おしい。機械少女が感情を獲得していく王道なシナリオも好きだが、こうして機械少女をきっかけに人らしい感情を取り戻していくのも凄く良いなと。常にいい方向に向かっていくのではなく、途中で出会った残存兵、それから上官との繋がりによって度々心が乱れていくのも面白い。


箒星もただ明るく元気な子というわけではなく、他人を憂い、他人のために涙を流すことができる優しい心を持っている。加えて強き者を目の前にして物怖じしないメンタルも持っていて、まあそこは機械なので当たり前だが、その当たり前の強さが最後まで彼女というキャラクターを立てていた。

上手いなと思ったのは彼女の機械っぽさを様々な場面で活かしている点で、命令がないとその場所から動かなかったり、たとえ自分を破壊しようとした人間であっても救助に向かったり、優しさだけでは語れない魅力が彼女にはあった。あざとさがないから凄くピュアな気持ち彼女を見ていられるというか、彼女を見ていればいるほどに愛おしさも募っていった。



そして、そんな二人が迎える結末は決してハッピーなものではないけれど、心の奥にずしんと響くものだった。何がそんなに良かったかというと、まずは主人公が自らの人生に、これまでの歩みに満足して逝くところだろう。箒星と出逢って、ようやく自分が本当に欲しかったもの、本当の自分を理解する。最後まで不器用で、けれど最後の最期で素直になっていく。そんな光景を眺めていて何も感じないはずもなく、つい涙を零してしまった。嬉しいのが二人の間に恋愛的な関係が一切ない点である。

次に良かったのが主人公の名前の件。これはもうよくやってくれたと声を大にして言いたい。おそらく気になるといった意見のユーザーが大多数だろうが、私はそうは思わなかった。あの二人が大好きだからこそ、二人だけの秘密にしてくれるのが嬉しくて仕方なかった。あの時、無名が自分の名前を知ってもらいたいのは、あの人形だけだったのだから。



エピローグも加減がわかっているというか、余韻を切らずに引き延ばしてくれるようなものを用意してくれて…タイトル画面に戻る頃には目の前が滲みまくってしまった。正直、こんなに心が揺さぶられる物語を用意してくるとは思っていなかったので、読後はぼうっと浸ってしまった。振り返ってみると最初から最後まで二人のお話であり、無駄な時間なんて全くなかった。二人の過ごした時間の全てが煌めいた。

次作もこんな素晴らしい作品を読ませてくれると嬉しいです。