思っていた以上に爽やかな作品で、変に恋愛色を強め過ぎずに自然な関係性を保ってくれたのが非常に良かったなと。実に心地のいい一作だった。
歌声を聴いたのが二人の出会いのきっかけという何ともロマンチックな導入を見て、どこか懐かしさを感じた。ヒロインの柊木さんの反応が序盤からかなり好印象で、告白されているみたいと笑いながらも快く引き受けてくれるシーンを見てもう好きになりかけた。
知り合ってからの関係の築き方もすごく自然で、学園では知り合い程度の距離感を保ちながら、放課後になると二人でファミレスに行ったり、家で一緒に練習をしたりするのがとても良い。そしてその中で柊木さんが「心配の仕方が彼氏みたい」とか「恥ずかしいから見ないで」など、翔を意識するような発言を零すようになっていくのがもう最高である。傍から見たら付き合っているようにしか見えない。
しかし本作はあくまで音楽活動に焦点を合わせた作品であり、そのうち恋人になってイチャイチャして終わりな作品ではない。ここが本作を評価している部分で、ライブに向けてテスト期間に練習したりだとか、音楽に関して相談し合ったりだとか、読んでいて夢中になれるやりとりをいくつも見せてくれた。この手の作品では付き合って音楽がなあなあになって終わるパターンも普通にあり得るので、音楽活動>恋愛で進めていってくれたことは素直に嬉しかった。
柊木さんが壁にぶつかった際も無理に翔が彼女に迫るなんてこともなく、活動休止という選択をしてくれた。その後すぐに卒業を迎えた時は少し驚いたが、二人の屋上での会話が本当に二人らしいもので、やっぱりわかっているなぁと。きちんと変わらないまま卒業を迎えてくれたわけだ。
「翔くんのことだから、式が終わったらすぐに手持無沙汰になるかと思ってたんだけどな」
「未だ、茜の中で俺は友達がいないと思われているのだな」
「いないとは思ってないよ。少ないとは思っているけど」
「そうだな」
何気ない会話だがこのシーンがすごく好きで、やっぱり自分はこの二人が好きだなぁと感じた。締め方もすごく綺麗で、何とも言えない気持ちになる。青春だなぁと、そんな言葉しか出てこなかった。
終盤は少し駆け足だけれど締め方は素敵だし、最初から最後までブレずに進んでいってくれた点などは大いに評価したい。あとは単純に柊木さんというヒロインが魅力的過ぎたので、そんな彼女のことを変なシナリオで潰したりしなかったのも嬉しい。ずっとずっと大好きなままでいさせてくれたことに感謝。
改めて、読んでいて気持ちのいい物語だった。次作が出るのであれば期待しています。