登場人物たち一人一人に寄り添いながら進行していく点が好印象で、長い年月をかけて丁寧にじっくり仕上げてくれたことを嬉しく思う。作り手と「彼」に感謝。
世界滅亡が予言された年、東京
空想と心中する勇気もなく
現実にしがみついている僕たちは
マミヤと出会う
レムレスブルーをクリアした時から興味はあったものの、なかなかプレイできずにいたが、今回ようやく完結編に至ったということで手を伸ばした。序章であるところのFallDownからのスタートとなったのでそれなりにボリュームはあったものの、テンポが非常に良く、先を読ませる展開が続くので体感はあっという間だった。以下章ごとに感想を述べていく。
<FallDown>
何も解決しない、何も救えない序章であり、「マミヤ」とは「夏目」とは何者なのかを考えるお話になっている。帰らない母親の代わりに家事を行い、バイトに勤しむ青年「菊池リョウ」のエピソードから始まるわけだが、これがまあ初っ端から容赦なく、話を読み切った後に選択を間違えたかと思い、再度読み直したくらいには衝撃の内容だった。毒母との生活を描いた物語は珍しくないが、ここまで後味が悪いのは珍しい。
リョウの友人であった周防のエピソードも結構好きで、リョウ√では温厚で優しいだけの聖人に見えた彼が、思った以上に強欲なのが良かったなと。ある意味一番人間らしくて恐ろしかった。振り返ってみると後のキーマンになるだけあって、やはり彼だけは異質なキャラクターだったなと思う。
OUTROを迎えることで一章は幕を下ろし、本当の物語が始まるわけだが、序章としてはまずまずの出来だったなと。救いや盛り上がりがないので面白かったと手放しに誉めることは出来ないが、読み手の興味は引くように作られていたと思う。
<DownFall>
傍観者として友人たちを救うために、様々な物語に介入していく章で、この章を読むことで大まかな世界観は理解することができる。どの選択肢を選んでも友人を救うことができなかったFallDownとは違い、選択肢によって夏目と友人たちとの間に繋がりが生まれ、死の運命から逃れられる。前回と同じくはじめにリョウ√をプレイしたわけだが、リョウを死の運命から救えた時はようやくADVらしくなってきたなと、ちょっとした感動と喜びを覚えた。
友人たちとの親睦が深め方も非常に丁寧に描かれていて、抱えている問題だけでなく性格を考えながらゆっくりと紐解き、心の距離を近づけていく。そんなわけで一つのルートを読み切る度に夏目のことを好きになってしまうし、主人公補正のゴリ押しではなくしっかりと魅力あるキャラクターに仕上げてくれたことを嬉しく思う。
友人たちの話の中で最も好きだったのは春樹√で、これはもうダントツで良かった。何が良かったって男友達らしい自然でフランクな掛け合いが豊富にある点である。ぶつくさ言いながらも何かと付き合ってくれる春樹と、春樹のツンデレを見抜き自身の腹をナイフでぶっ刺したりしちゃう夏目。そんな二人の相性はすこぶる良かった。また、どこかエロティックな雰囲気が漂うのもこのルートの魅力かなと。腐のお姉様方はもう堪らなくなってしまうだろう。
また、忘れてはならないのがピンクハウスの面々。彼らの行動理念自体は思った以上にショボくて笑ってしまったが、彼等にもまた彼等だけのエピソードがあって、それを余すことなく丁寧に書いてくれるのは嬉しかったなと。特に新垣のお話は感じ入る部分もいくつかあって、もっと長く彼女のお話を読みたいと思ったほど(他の面子の話がイマイチだったのも大きい)。
そうしてお互いの陣営の抱える想い、物語を知った上で始まるチャプター6から9はまあ面白くて、心が激しく浮き沈んだ。用意したBGM及びその使い方も秀逸で、情動カタルシスがかかる度に興奮した。しっかり夏目を応援したくなる作りになっているのが良いなと。最後の意地悪な引きも含めて上手く出来ていたと思う。
<DoomsDayDreams>
周防を救うべく、再び夏目が傍観者として新たな物語を観測し、紡いでいく最終章。これまで見えなかった登場人物同士の繋がりが明らかになるだけでなく、マミヤとは何なのか、どこから生まれてきたのか。そして夏目の正体に迫るエピソードが用意されている。
特に面白かったのが湊サイドで、これまで以上に湊という人物を好きになってしまった。間宮との繋がりやピンクハウス陣営…特に新垣まゆりとの関係など、本作を理解するための情報がわんさか用意されたお話であったが、純粋に湊が挫け立ち上がっていく構成が面白くて、いつのまにか私もみーなの虜になっていた。他のルートにも言えるが、夏目はあくまで後押しするだけなのが良いなと。
「俺自身が、“俺”の一番のファンなんだよ」
みーなだけでなく「俺」も知りたくなった、「俺」も見てほしくなった。そんな欲張りで逞しい答えを出した彼に感涙した。
春樹サイドやリョウサイドの話も途中までは面白くあったのだが、ピンクハウス組に負の感情しか持つことができなかったため、最後までモヤが残ってしまった。幼稚で短絡的、故に幻想(マミヤ)に囚われているわけだが、そんな彼らを眺めるのはあまりに退屈だった。
また、グランドルートについても思うところがあって、第三の存在の登場と間宮がブレてしまう点がとても気になった。特に後者は致命的で、かっこいいはずの「三千世界の王だ!」でつい笑ってしまった。本当に幻想のままの強く意地悪な間宮でいてほしかった…。
ただ、それらを差し引いても物語の幕の下ろし方としては悪くなかった。最初からずっと一緒で大好きだった「夏目」が、最後まで藻掻き続け、満足して消えていった。その切なくも美しい余韻は決して嘘ではなかった。
また、本編クリア後に解放されるEXもおまけ程度の内容ではなかったのが嬉しい。友人たちや世界観など関係のない、徹頭徹尾「夏目と間宮の物語」であり、IFでありながらも決して本編の空気を損なわない、もっと言えば本編以上にエッジの効いたシナリオだった。
ちょっとした不満も零してしまったが、それは好き故の不満であり、本作のことを好いている事実は変わらない。長い年月をかけただけでなく、登場人物一人一人に熱意が吹き込まれている。こんな贅沢な作品をプレイ出来て幸せです。