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asteryukariさんの新宿葬命の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
新宿葬命
ブランド
G-MODE
得点
77
参照数
269

一言コメント

読み始めこそダウナーな空気が印象的だったが、読み終えて振り返ってみると、実に優しい物語だったなと思う。温かな心を持つ者たちとの出会いに感謝。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

豪華なクリエイターが勢揃いした作品で、本作が発表された時から楽しみで仕方がなかった。プレイし始めて最初に感じた印象は結構暗めの作品だなと。血は流れるし、序盤から結構簡単に人が死んでいく。無論、ライターさんの過去作でこういった作風の作品がなかったわけではないし、何なら懐かしさもあったが、序盤はとにかく明るさはなかった。


だが、物語が進んでいくことで物語に明るさと優しさが生まれていく。軸となる虎生と凛音の日々の健気なやりとりは勿論の事、虎生の幼なじみである天依と憂炎も実に良いキャラしていた。虎生と会話している時間も好きだが、この二人はやはり虎生抜きで飲んでいる時が一番良かったと思う。殺伐とした事件が起き続ける裏で、二人の存在が良い緩衝材にもなっていた。緩みすぎて笑ってしまったが。

天依と憂炎は虎生が語っていた通り、相思相愛の関係にあるわけだが、あくまで腐れ縁の幼なじみとしての姿勢を貫いてくれたところが個人的に良かったなと。憂炎が「ダイヤの指輪くらい…」なんて言い出した際はまさか…と身構えたが、天依が相変わらずな反応をしてくれたので笑った。おそらくこの二人は虎生と凛音が結婚したりしたら、自然と結ばれるのだろう。


他に物語に明るさを与えてくれた存在として、真白のことも忘れてはならない。自称:神の御使いであり、自殺を救済と考えている頭のイカれた聖職者の彼女は、物語が進めば進むほどユニークなキャラクターになっていってくれた。電波女かと思ったら、本当に良いアンテナを持っていて、凛音とタッグを組んでからはもう彼女が出てくるだけ気分が高揚した。

また、後半になっても価値観が全く変わっていないのが最高に面白い。彼女が「救済」を口にするだけで笑いが生まれるのだ。利己的な性格も終盤まで変わらずで「すみれさんはどうでも良いです」とバッサリ言い放った際は笑う場面でもないのに笑ってしまった。最後までブレない頭のおかしいキャラクターだった。実に私好みだ。



といった感じで常に事件は起き続けていたわけだが、暗くなりすぎ楽しい物語になっていた。ただ、かといって軽い作品ではなくて、終盤はしっかりと感動と喜びを与えてくれるのが本作の素晴らしかった点。

虎生の不死の秘密と、凛音の身に起こっている出来事が明らかになると、物語も加速度的に動いていき、伏線もじわじわと回収されていく。扉を開けたその先にある光景を見た瞬間は、まず懐かしさが押し寄せてきた。なるほど、こういう感じの話になっていくのかと。ねこねこ過去作に通ずる要素があって、自然と口角が上がった。

EPISODE4-7の凛音とのやりとりと、彼女の優しい性格からあそこで一度消えてしまうのは予想できたが、あんな素敵な演出も交えて刺してくるとは思っていなかったので、あの場面は中々に応えた。わりとそのまま退場みたいな流れも自然ではあったので、「ぎゅっと」という文字を見た時はまあ目の前が明るくなった。

私は言ってしまうと真白と同じ考えで、読み進めている時はすみれへの情は薄かったが、読み終えて改めて彼女の人生について振り返ってみると本当に苦しい。しかし、だからこそエゴで生かされる道から外れ、初めて自分のエゴを通して逝ったのは美しいと感じる。タクシーで海へ向かうワンカットだけ用意するのもセンスが抜群である。





期待はそれなりに高かったが、中々満足度の高い一作に仕上がっていたなと思う。十四郎についてしこりが残ったままだったり、若干パンチが弱い感は否めないが、良い作品だったことには違いない。私なんかはまあ凛音にぞっこんだったので、より一層そう感じてしまう。