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asteryukariさんのアンラベル・トリガーの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
アンラベル・トリガー
ブランド
Archive
得点
75
参照数
709

一言コメント

序盤の作りが丁寧で、登場人物たちに対する理解と思い入れが深まる良い話運びだった。個別√分岐後は甘さや物足りなさも目に映るが、掲げたテーマに忠実に違和感なくまとめてくれたのは良かった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

新ブランドArchiveの処女作であり、戦争終結後の不安定な時代を舞台にしている。トリガーやノーブルといった異能要素も盛り込まれているので、そういった類のお話が好きな身としてもそこそこ楽しみにしていた。高濱さんがサブでシナリオ参加しているのも、初手から気合を入れてきたなという印象。

本作は共通√6話、ヒロインの個別√3〜4話という作りになっており、選択肢はヒロイン分岐のみ。話数だけ見ると短めに見えるが、そんなことはなく1話あたりのボリュームがそれなりにある。故に共通√が結構なボリュームであった。しかしながらそこに不満は一切なくて、むしろよくぞここまで丁寧に作ってくれたと言いたい。

良かったのが共通√の時点でしっかりヒロインやサブキャラクタ―の因縁に触れてくれる点。ヒロインへの興味と理解を深めるのは勿論、シンプルに読んでいて面白いので長いとか飽きたとかそういったネガティブな感情は一切生まれなかった。

また、全体を通して言えることだが、話の区切り方にも読み手を飽きさせない工夫が感じられる。毎度毎度、本当に先が気になるところでエンディングに入るので、してやられた気分だった。エンディング曲を聴きながら、次に向けて思考を巡らせる時間もまた楽しさの一つ。多媒体の良いところを上手く取り入れていた。


具体的な内容にも触れると、若葉とレイリのエピソードが良かったなと思う。読み始めの頃は若葉に対してヒロインについているおまけくらいの印象しかなかったが、話が進行することでレイリにとって重要な存在であり、物語の中でも軽視できないほどに眩い輝きを放っていった。終いにはフラグも立っていき…共通√が終わる頃にはぶっちゃけるとレイリよりも惹かれるキャラクターになってしまっていた。あんな顔で自分はチョロいほうなので…なんて言われたらがばっと抱きしめて彼女のルートを歩みたくもなる。



といった具合で共通√はかなり満足度が高くて、ここまで丁寧にやってくれる新作ADVも珍しいなと。全体で見ると面白い新作は数あれど、共通√の時点でわくわくさせてくれる新作はそんなにないので素直に嬉しいかった。

ここからは個別√の内容について触れていこうと思う。


・レイリ√
ヒロインの中では最も早く主人公への想いを伝えることになる彼女。出逢った当初はツンデレさんなのかなと思っていたが、もうとんでもなくデレデレの女の子だった。告白してからの攻めっぷりは他のヒロインの追随を許さず、隙あらば自分の魅力を主人公にアピールしているのが実に微笑ましかった。あれだけ変態変態言っていたのに、時には少し変態じみたアプローチをかけているのも尚良い。

背負っているものがそれなりに重かったので正直、期待よりも不安の方が大きかったのだが、わりと早い段階で解決して無難な話に舵を切ってくれたのでホッとした。ただ、無難が故に読み進める面白さが半減してしまったのも事実で、もう少し何かあってもよかったかなと。

また、レイリ以外のキャラクターの活躍が映える場面もなく、サブのナトレやヘンリエッタが雑に処理されてしまったり、主人公にとって最重要であるはずの紗衣奈との関連エピソードが薄目になっていたりしていた。また、レイリとの恋愛描写についても別段力を入れていたわけではないので、全体的に物足りなさが残るルートになってしまった。


・ソフィア√
幼い見た目ながらその実、連邦の秘密警察であるCSSの中将。常に余裕ない態度で主人公を揶揄うこともしばしば。三人の中では最も恋愛色が薄いヒロインとなっていた。個別ルートに入ってもそれは変わらず...かと思ったのだが、主人公によるノーブル解除により一気にデレた。デレを期待していたユーザーからすれば「キタアアア」となる瞬間だったかもしれない。しかしながら自分としてはむしろその逆で、冷めてしまったという表現の方が正しかった。常にジト目で、告白も表情では余裕を装いつつ行う。そんな陰ではデレているスタンスでやってほしかった。

お話は彼女に所縁のあるルーラー帝国を復活させることを軸に進行していくわけだが、実現に至るまでに様々な人物の思慮が交差していくのがなかなか面白い。特にアリーシャとソフィアの関係性が好みで、普段は温厚な態度をとっているアリーシャが、このルートでのみ感情的になるのが良いなぁと。ルーナの件なんかも、彼女の過去を知っているが故にこのルートでは来るものがある。

また、紗衣奈はこのルートでは唯一味方であることも触れておかねばならない。後述するミリセント√では命を落とさないわけだが、個人的にはこのルートにおける結末こそが彼女にとって最も幸せだったのではないかと思ってしまう(ミリセント√は結局強引な解決方法なので...)。主人公はしっかりと自分のことを想い続けてくれて、そんな彼と共闘しながら、最期は彼の手で殺してもらう。まさに夢のような時間だったのではないかと思う。


・ミリセント√
センターヒロインの話ではあり、上記の二つのルートを読み終えることで進めることのできるグランドルート。レイリ√、ソフィア√では伏せられていた事実が明かされていくわけだが、まずはシルヴィアと若葉に繋がりを持たせてくれたのが良かった。姉妹である事実が良いというよりは、シルヴィアに姉という属性を付与してくれたのが嬉しかったというべきか、姉という立ち位置を介することで、彼女というキャラクターへの理解が一層深まった。ミリセントに対してあんなにも過保護になっていたの納得がいく。

シルヴィアは作中で最もお気に入りのキャラクターで、それ故に彼女をいじるパートが存在したのがとても嬉しかった。主人公の「顔がいい」という発言をいつまでも覚えている行き遅れの処女なんて100点の女になってくれて...もう本当に途中で彼女に浮気してしまうルートに派生してほしかった。

シナリオについては、これまで敵対していた者たちと共闘しつつ進んでいくのが好みだったなと。中でもヘンリエッタがラボに駆けつける場面なんかは非常に印象深い。ヘンリエッタもシルヴィアに次いで好きなキャラクターである。貴族でありながら立ち位置ではなく振る舞いを大切にする彼女がとても好きだ。

ただ、ソフィア√でも少し触れたが紗衣奈に関しては勿体ないなぁと。これは全体を通して言えることだが、もう少し彼女というキャラクターを掘り下げてほしかったし、大切に扱ってほしかった。また、ミリセントに関しても別ルートの方が存在感があったなと思う。不快感はないし、まとまってはいたが、もう少し弾けてみても良かったのではと思う。





といった具合で不満がなかったわけでもないが、読み進めるのが楽しく、力の入った良い作品だったなと思う。グランドルートのエンディング曲である「Various Sky」も最後に相応しい歌詞で、聴きながらしばらく余韻に浸っていた。

次作にも期待しています。