多少の不純物は混じっていたが、読んでいてついつい主人公の恋路を応援したくなるような、心温まる百合物語だった。システムも振り返ってみると面白かったなと思う。
「好きという気持ちさえ憚られる世界で「好き」と「呪い」をつらぬく話」
ということで、異性ではなく同性を好きになってしまった女の子たちが紡ぐ本格百合物語となっている。導入はかなり丁寧で、卒業を控える仲良し三人組の学園生活が自然に描かれていた。
で、主人公こと花ちゃんが段々と樹への恋心を自覚していくわけなのだが、これがもう凄く甘酸っぱい。樹と友達になるきっかけとなったエピソードも非常に私好みで、これは花ちゃんでなくても惚れるわなと。
「比喩ではなく、世界中が敵になったとしても、わたしだけは樹ちゃんの味方でいたい。」
この台詞には深く共感したし、ここで彼女を見る目が変わった。この作品の最大の魅力はつまるところ花ちゃんにあると私は思う。その理由は上記の台詞のように熱い心を持って恋愛しているからだ。
一見、お淑やかで問題に首を突っ込まなそうに見える彼女だが、実は凄くたくましい。好きな人のためなら何度だって立ち上がるし、友達間の軋轢を解消しようと動くことだってある。いつの間にか花ちゃんではなく、花さんと呼びたくなっていた自分がいるくらいには魅力溢れる少女だった。特に印象深いのは観覧車でのシーンである。
「女の子だとか、そんなの関係ない!別に誰が誰を好きになったって悪いことじゃないよ!」
いつも穏やかな彼女がしっかり声を張って、表情を強張らせて自身の気持ちを宣言する。こんなの見せられたら好きにならないはずもなくて、おそらくはユーザーのほとんどがあのシーンで花さんに心を奪われただろう。また、夏の本当の気持ちを知った上でこのシーンを見返すと、やはりとてつもなくかっこいい。樹は彼女のことを「癒し系」と呼んでいたが、全然そんなことはなかったのだ。
そんな我らが花さんが苦難に立ち向かいながら恋心を成就させようと必死に藻掻くのが本作の基本ストーリーなのだが、終章になると作品の仕掛けも物語に絡んでくることになる。これがぶっちゃけると不要で、水を差された気分になった。たしかにどういった理屈でループしていたのかや、夏というキャラクターを理解するにも必要な仕掛けだったとは思うのだが、百合を否定する要素を盛り込んでくるのはどうなのかなと。否定された上で百合に至るというのは話としては盛り上がるかもしれないが、タイミング的にもうそんなくだりは要らなかった。また、父親と五十嵐に対して最後まで不快感が残り続けるのも...。
といった具合で終盤は少し気になる部分もあったが、迎える結末自体は勿論、良かった。ようやく花さんの恋が実って、読み手としても嬉しいかぎりだ。
二人の恋が永遠になるように祈っています。