派手さはないが安心感と懐かしさを覚える、私の好きな同人作品に仕上がっていた。ユニークにユニークを重ねた彼の言動の全てが心地いい。
商業作品で大活躍のはとさんがnon colorで新作を出す。これを聞いた時の衝撃たるや、嬉しさのあまり飛び上がるとは本当なのだなと、身をもってそれを体験した。タイトルとキャラクターデザインが公開され、けれどもシナリオに関する情報はあまり出ていなかったので余計に楽しみになった。
読み始めてまず最初に感じたのはテキストの面白さ。わかってはいたけれど、やはり独特で読み進めるのが楽しくなってしまう。主人公のゴボウとクマの温度差もまた会話劇を面白くしていて、雑な物言いをするクマに対し、必死に自身の考えをペラペラと並べる主人公滑稽で眺めていてとても楽しい。
過去作(non color)では主人公は比較的まともな性格で、友人やヒロインは少し狂ったキャラクターだったりした。中には少しどころでは済まない狂い方をしている某宇宙人もいたが、それはさておきnon colorのユニークなキャラクターと言えば周りのキャラクターであった。けれど、今作は違う。ヒロインポジションであるところのクマはいたって冷静で、主人公が少し…いやだいぶユニークだった。
スイッチが入ると喋りが止まらなくなって、クマだけでなく周りのおじさん達にも若干引かれている。けれど当の本人はそれに気づいておらず、更にペラペラと喋り続けるから面白い。本当に改めて見返すと主人公の台詞だけ異常に鍵括弧が大きくて笑える。
中盤以降はそんな彼の面白さが大炸裂して、公民館ちゃんとのズレた会話劇には何度もくすりとさせられた。「そういうところが、無理なんです…」と本気の拒絶をされているのが本当に面白い。そして、そうやって拒絶されて、ぶん殴られても何度でも立ち上がり別の角度から喋りかけ続けるあたり本物である。
また、終盤の老人とのやりとりではnon colorや商業作品でも見られた、静かに心が温まっていくお話が混ぜられており、懐かしさを感じた。本当にああいったジャンルのお話が好きなのだなぁと。無論、私も大好きなので読みながら自然と頬が緩んでいた。そして、いい感じの流れになってもゴボウが全てを掻き消していくのは、実にこの作品らしいなと。「氷点下から始まった恋がプラスになりかけてたんだ!」で思わず吹き出してしまった。
内容としては短めであるし、感動や驚きをダイレクトにぶつけてくるような作品ではないが、同人らしく、non colorらしい一作に仕上がっていたと思う。丁度いいという言葉が正しいかもしれない。
幸せなひと時をありがとうございました。これからも素敵な作品を作り続けていってくれると嬉しいです。