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asteryukariさんの愛病世界Iゼーメンシュ-After/Beforemath-の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
愛病世界Iゼーメンシュ-After/Beforemath-
ブランド
東堂 前夜
得点
85
参照数
139

一言コメント

溢れんばかりの幸せと苦しみを与えてくれたことに感謝。裏ルートのプレイは愛病世界シリーズ完走後推奨。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

2017年に発売された「ゼーメンシュ-Aftermath-」のリメイク作品。リメイクでありながら愛病世界シリーズファン向けの追加シナリオがあるということで、公開される瞬間を待ち望んでいた。ここ数年に出てきた同人作品の中でもかなり好きな部類に入るシリーズなので、もう本当に楽しみで仕方なかった。


無印と比較するとグラフィック面が大きく向上しており、キャラクタ―の立ち絵だけでなく背景や小物も解像度があがっている。わかりやすいのは水辺だろう、かなりクリアになっていて、そんな場所から半身を出して見つめてくる人魚たちはより神秘的な存在に感じられた。

また、音楽も新しくなっており、元の良さを生かしながらより場面に合うように強弱を意識しながら作ってくれていた。ゼーメンシュのテーマBGMは相変わらず様々なアレンジが存在したが、これまた相変わらずどれも素晴らしかった。OSTを制作中とのことなので是非購入させていただきたい。



さて、ここからは内容について触れていく。第四章までは無印とほぼ同じで、会話イベント及び好感度イベント及びが追加されている形になっている。好感度イベントはエンド分岐の条件にもなっているので回収していく必要があるが、初見はさておき愛病ファンであれば何ら苦にならないはずである。

無印の内容について軽く触れると、やはり蘭万とマイの間のわだかまりが解け、五人が家族になっていく光景は見ていてくるものがある。シリーズを既に完走済だからこそ、あの五人で過ごす時間がとても尊いものに感じた。故に四章の正規ルートでまた涙を零してしまったわけだが。迎える結末があんなにも辛いだなんて…。しかしながらあの結末は紛れもなくトゥルーエンドであり、愛病世界の始まりなのだ。



で、裏ルート及び追加エンドの話だが、某サイコパス出てくるエンドの話や自害エンド、それから扉の先エンドなどもう語りたい所だらけだが、やはり最も印象深かった結末は裏のトゥルーエンドである「友達じゃなくなっても」になる。裏ルートは所謂、停滞を望む結末になっているわけで、欺人の旅は人魚世界で終わる事となる。推理世界どころかヘーメラーにも帰らない。命が尽きるその時まで家族と一緒に暮らそうと欺人が選んだ道なのだ。

結代とも争わず、五人で幸せなひと時を過ごす。公開前からあるだろうなと踏んでいたルートだったが、トゥルーエンドの方は違った。黙って静かに停滞などさせてくれなかったのである。

「来た、のか───…お前が…」

狩人だけでなく、ヘーメラーとも敵対しなければならない。そうして”彼”がやってきてしまった。ドアを見た時点で思わず天を仰いだ。ああ、この作品はこういうことをしてくるのかと。甘い幸せな時間だけでは終わらせない、辛く苦しい時間までちゃんと用意してくれた。もはやゼーメンシュという作品の枠に収まりきらない、愛病世界の裏トゥルーエンドと言ってもいい展開だろう。愛病世界Ⅴにて欺人と彼の関係に焦点を合わせておいて、ファンを増やしておいてこれをやる、流石は愛病世界だ。
 
ずるいのが彼もまたマイと同じ願いを欺人に告げる点。結末は違えど送られる言葉は同じ。もし欺人が双方のルートの記憶を有していたら何を思うのだろうか。私はもう感情が溢れてぐちゃぐちゃになってしまった。エンディング名で号泣である。本当にどこまで愛に満ちた作品なのだろうか。


また、これは好感度イベントになるのだが、結代もまた裏ルートでは友として扱われていたのが良かったなぁと。「最古の友人」という言葉も、愛病世界Ⅴを通ってきたユーザーであれば、じんと来る響きだろう。





振り返ってみると裏ルートは完全に愛病世界シリーズ完走者向けの内容となっていたなぁと。というかシリーズをやらずに裏ルートに足を踏み入れてしまったら後で後悔するだろう。期待はしていたけれど、まさかここまでやってくれるとは思っていなかったので凄く嬉しいし、作り手には感謝してもし切れない。

改めて幸福に満ちた時間をありがとうございました。