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asteryukariさんの彼方の人魚姫の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
彼方の人魚姫
ブランド
Wonder Fool
得点
70
参照数
475

一言コメント

四人の輪が出来上がるまでが丁寧に描かれていて、空気感も非常に良かった。しかしながら個別ルートの作りは雑で、気落ちしてしまったというのが本音。これならもっと普通の恋愛物語でも良かったかなと思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


タイトルにもある通り、人魚との出逢いから友人になり…そして恋人になるまでが描かれている。ヒロインが人魚という作品はそんなに多くはないので、どういった方向に舵を切っていくのか、また人魚以外にもかなり自分好みそうな幼馴染もいたりと、楽しみな要素がいくつか転がっていた。

個別ルートへ派生する選択肢まで読み切ってまず感じたのはその空気感の良さだ。人魚の少女が主人公と出逢い、そこから主人公を介して二人の友人たちとも仲良くなっていく。共通ルートではそこにひたすら焦点を合わせて進行していくわけだが、それが非常に良かった。

新しい友達との楽しい日常が描かれているだけでも十分良いのだが、ちょっとした軋轢を挟みつつ、改めて友人同士の絆を深めていくのがとても良いなぁと。藍魚と葵なんかは途中に不安を抱いてしまうくらいには複雑な関係だったが、何もかも曝け出し合って改めて手を取り合う光景は中々に美しかった。

といった具合で共通ルートについては好感触で、まだもう少し共通ルートを見ていたいと思ったほど。むしろここに恋愛を入れて崩れていかないか心配にもなった。

個別ルート全体の所感としては、設定に引っ張られて話がどんどん面白くない方向に行ってしまったなと。設定には忠実だが、そこをそのまま掘り下げて満足してしまうのかと思った瞬間が多々あり、振り返ってみると不満がいくつもあった。また、そこに尺を削られたが故に恋愛描写も薄めで、かなり雑にまとめられていたのが悲しい。シーン数のノルマ消化と言わんばかりの適当っぷりに思わず天を仰いだ。

以下、個別ルートごとの感想。



○葵√
共通部分からヒステリック一面が目立つ彼女だったが、個別ルートに入り、主人公と結ばれる事である程度の安定感を得る。そこで恋人らしいやりとりをしてそのまま幸せになってくれれば御の字だったのだが、当然そうもいかず情緒不安定な彼女らしい展開が用意されていた。

スランプを抜け出すべく頑張る姿が描かれていれば、下がった分また上がって来られたかもしれないが、主人公に説得されてその後またえっちしてというのは…ただのヒス女にしか映らなかった。ただ、鈴魚と関係を結び付けたのは悪くない判断だったかなと。故に読後感もそれほど悪くはなかった。



○日輪√
生まれた時から主人公の傍にいる幼なじみで、美しい容姿に加え世話焼きというあまりに勝ち組すぎるポジションに立っていた。藍魚に対しての溺愛っぷりも普段の彼女とギャップがあって大変よろしい。

誰がどう見ても正ヒロインな彼女だったが、個別ルートに入ると展開と共に評価を落していく。聡明に見えてただのドスケベ女さんだったのは私としては嫌いではないし、彼女が主人公への想いの丈を吐露する場面ではちょっとした感動を覚えたりもした。しかしながらその前後があまり良くなかったなと。

特に告白前の藍魚とのギスギスは不快だった。人間関係を一度壊すことでより良い関係になると踏んだのかもしれないが、それよりも日輪の株が下がり過ぎて大変なことになってしまった。安い展開のために魅力的なキャラクターの命を削られたような、悲しい気持ちになった。

強いて言えば好きなヒロインになるし、他ルートでは悪くない動きをしていたが、だからこそ残念さが増す。



○藍魚√
人魚であり、共通ルートで好感を覚える場面は多けれがまだ謎多きヒロイン。故に三人の中ではそこそこ楽しみにしていたルートだが、蓋を開けてみるいたって普通のお話だった。相変わらず恋愛描写は淡白で、そこにはもはや期待してなかったのだが、特に藍魚の魅力を磨くこともなく、設定には忠実だがよくある面白くないタイプのシナリオを用意してきたのが少し残念だった。

終盤はかなり駆け足気味×面白味のない展開が続くので、エンディングに入った時は唖然とした。新しくてわくわくする話を見たかったとつくづく思う。





総じて個別ルートに不満が残る作品だったが、共通ルートに関してはとても良く出来ていた。ずっと仲良し四人組な風景をいつまでも見ていたかった...。