揶揄いながらも兄を慕う妹と、揶揄われぶつくさ言いながらも妹を守ろうと必死な兄。読み進めるほどに兄妹が好きになる幸せな一作だった。
四年ほど前に発売したアイコトバの続編…ではなく完全新作。ただ、マッチングアプリが絡む点とヒロインが妹である点は同じで、アイコトバ無印の方はそこそこ好きだった記憶があるので、本作にも少し期待していた。そして、その期待に見事に応えてくれた。本当に素晴らしい兄妹物語を見せてくれた。
本作の魅力は何だったかと振り返ると、第一にヒロインである銀音の愛らしさが挙がる。もうとにかく銀音ちゃんが可愛くて仕方がないのだ。自分に絶対的な自信があって、外ではアイドルのように振舞い、家では駄々っ子のように兄に絡み、たびたび揶揄ってくる。そんなデレ成分多めのツンデレっぷりを披露してくれるので、まあ最初からずっと可愛らしくて、好きにならない理由などはなかった。
初体験への導入も素直になれない彼女らしいもので、一抹の不安など消し飛ぶほどに魅惑的なシーンに仕上がっていた。初体験を済ませると、身体だけでなく心の距離もだいぶ近づいて、デレッデレになっていくわけだがそれもまた非常に愛らしいから困る。特にえっちの際は少し文句を言いつつ始まるのかなと思いきや、むしろ銀音側から誘うことも多く、彼女の兄への愛情の肥大化を強く感じた。
彼女が兄に情を抱くきっかけとなった回想がとても好きで、彼女の想いの深さがしみじみと伝わってくる。主人公が本当に無邪気で良い子なのだ。故にその後に待ち受ける展開は少しチクりとするけれど、そこで下げずに上げていけるのは上手いなと。関係を崩さず二人関係をより尊いものにしてくれたことに感謝。
で、第二の魅力は主人公こと兄がちゃんとかっこいい点になる。序盤は頼りないけれど、美人な妹が付いているラッキーなお兄ちゃんくらいの印象だったが、銀音や自身の回想を挟むことで印象が一変する。
「誰も得しないことをするなと言われたが、しかし、むしろ俺は特しかしていない。」
「天使の顔をした悪魔どもから、大事なものを守れたのだから。」
他の人間と容姿の違う銀音を誇りに思い、その誇りを守るために悪者どもと戦う。回想の中で彼は自逆風に語っていたが、本当にかっこいいしよくやってくれたと思う。ラッキーなお兄ちゃんなど思ってしまって申し訳なかったと心から謝りたい。銀音のお兄ちゃんは彼以外に考えられなかった。
そんなわけで本作の魅力は二つ、それは妹と兄そのものであり、ただただこの二人に焦点を合わせた、それでいてストレスのない物語を提供してくれたことが非常に嬉しい。スケートについての描写があっさりめだったのも個人的に嬉しくて、あくまでメインは二人の関係についてであり、恋物語であるのが本当にもうたまらない。
前作も好きだったが、それ以上に好きなストーリー、キャラクターがいて読後は思わず笑顔になってしまった。二人の幸せをいつまでも願っています。