他の作品にはない圧倒的な熱意と美を内包した強烈な一作だった。
短いスパンで名作をバンバン生み出してくれるサキュレントさん。今作もあらすじを見る限りまあ好きになりそうな予感しかしなかったのだが、蓋を開けてみると想像以上に世界が広がっていた。
今作の主人公は例によってちょっと変わった女の子。前作でもかなり独特な性格をした子を用意してきたが、今作のひだりちゃんはしっかり手帳持ちなのでまた一つランクが違っていた。脳内のもう一人の人格と会話し、時にはそれが原因でいきなり発狂する。サキュレント作品でもかなり攻めたキャラクターだったのではないだろうか。また、前作の喪女とは違い、気軽に身体を許してしまうところも印象的で、ミギと出会った時も彼女はすぐにそういった思考になっていた。
ミギもミギでかなり掴めないキャラクターであり、彼女が最初に抱いた印象の通り、天使のような見た目が余計に不気味である。ただ、綺麗を装ったイケメンというわけでもなく、本当に純粋で綺麗なイケメンなのがまた…今思うとひだりとの相性が良すぎて恐ろしい。
三回目の性行為がターニングポイントで、そこから物語が終着点に向かっていくわけだが、そこからがもう凄まじい。同人作品はその自由さ故に尖った内容になる事が多いが、本作の尖り方は生半可なものではなかった。万人受けなんて一切考えない、評価されたいなんて感情が一切伝わってこない、そんな鋭くて細い一撃が私の胸の奥まで突き刺さった。
邑田の使い方が非常に上手くて、醜い彼を見ていれば見ているほどに彼女と同じくミギのことが天使に見えてくる。やり口は上手いかもしれないが、彼は一切ひだりのことを認めておらず、理解もしていない。それがはっきりと示されていたのが良かったなぁと。飛び出していった彼女の心情がよく理解できる。
「私よ、永遠に孤独であれ!」
自分の言葉が誰にも届かない、世の誰も理解してくれない。以前であればそれを恐ろしく思っていた彼女が愛という名の加護を受け、孤独に生きることを誇りに思うようになる。逞しい、逞しいけれど最後の笑い声にはしっかり絶望もあって、そんな笑い声を聞きながらエンディングを迎えるものだから…いい意味で開いた口が塞がらなかった。エンディング後の雨音が拍手になっているのがまた…いや、こんなの本当に拍手を送るしかない。
決して心が温まる作品ではないことはわかっていたし、身構えてもいたのだけれど、勢いを殺すことすら出来ずにぶっさ刺されたような感覚だった。こんなに全力で向かってきてくれる同人作品は久しぶりだったので、恐ろしさと喜びが入り混じる複雑な心境だった。
間違いなく人を選ぶし、恐らく誰もが皆絶賛するような作品ではないだろう。けれど、私にとって本作は名作以外の何物でもない。出逢いに感謝。