甘く優しい恋模様を描きつつ、賑やかな雰囲気も壊すことなく維持し続けてくれる。実に読み続けるのが楽しい作品だった。
恋愛弱者が身を寄せ合って恋バナを武器に立ち上がる…ということで、本作はヒロインを射止めるために主人公が一人で奮闘するといった内容ではなく、主人公の周り男友達二人と共に恋愛弱者、延いては童貞脱却のために奮闘する物語である。男友達たちが主人公の恋が上手くいくように後押ししてくれる作品はよくあるが、特に後押しをするでもなく男同士で成果発表し合っているだけなのが、恋に飢えている男達といった感じでちょっと面白い。
共通√は主人公が一目惚れしためぐりを追いつつ、他の女の子にも惹かれつつといった感じで、メインヒロインの中で言えばめぐり優勢で事が進んでいくわけだが、脱落方式でヒロインの個別√へと派生していく。なんと最初の脱落者がめぐりなのは少し笑ってしまったが、まあ納得は出来る。
面白いのが先ほども述べた通り、男友達も行動を起こしていく点で、光生はいのり、大河は楓美、未愛は怜を狙って不器用ながらもアプローチをかけていく。読み手としてはやはり主人公とメインヒロインの恋愛劇が見たいので、サブキャラクター達のカップリングなどあまり興味は湧かない…と最初は思っていたのだが、読み進めていくうちに彼らのことを好きになっていって、そうなると当然彼らの恋路にも意識が向くようになる。クリアした今はこういった作りで良かったと感じるし、FDへの期待も高まる。早く大河×楓美のその後が見たい。
彼らのことを好きになったのは、やはり共通部分の日常描写が愉快だからで、体育祭等のイベントは勿論、普段の教室でのボケとツッコミに溢れた生活が眺めていてとても心地よかった。サブキャラクターの中でも光生×いのりのカップリングは見応えがあって、ドン引きするいのりと、めげずに彼女を追いかける光生の恋はどうなるのか、主人公とメインヒロインの恋愛と同等くらいの興味を持ちながら読んでいた。
良いなぁと思ったのが光生にいのりを好きになった瞬間の回想が用意されていた点で、ここまでやってくれるのかと正直驚いた。その回想を挟むことでより光生のことを応援したくなるし、彼が生徒会選挙で放った言葉は決して綺麗事ではない事に気付く。いのりがすっきなのは勿論だが、その気持ちは憧れからきたもの。だからこそ、主人公のように”自分のものにしたい”とかではなく、”支えたい”なのだなぁと。
こんな感じで私は結構楽しみながらサブキャラクター達の恋模様を眺めていたが、早くメインヒロインとの恋愛が見たい、あるいはヒロインとのえっちが見たいと思うユーザーも一定数存在する(むしろその方が多い)と思うので、まあ賛否両論にはなるかなと。まあ、それも加味してサブキャラの恋愛は局所的に入れたのだろう。
で、ここからはメインヒロインとの恋愛、及び個別√について語っていく。
●めぐり
主人公が一目惚れした先輩であり、ヒロインの中では一番最初に個別√へ分岐する。個別の内容は端的に言えば軽い恋愛がであり、軽い気持ちで付き合った二人らしい、自由で濃厚な日々が描かれていた。めぐりが主人公を好きになるきっかけが薄めなので、簡単に股を開くヒロインに見えてしまいがちだったが、幸せそうに笑う彼女はまさに恋をしている乙女だった。最初から最後まで主人公が欲望に忠実で、彼女もそれに応えているのが自由で良いなと。
●常夜
イモムシ女こと常夜ちゃんは私の好み上、まあ好きになることはないかなと思っていたのだが…気付いたら愛しい女の子になっていた。根暗のエロ枠かくらいの気持ちでいたのに、読み進めれば読み進めるほどに可愛らしい一面が零れてくる。付き合い方こそ雑だったが、付き合った後も軽口を叩き合える関係を維持しつつ、常夜は女の子らしくなっていくという素晴らしい話運びをしてくれた。後述する二人と比べるとパンチはないが、結構好きなルートである。ちなみに常夜ちゃんはこころ√でも寂しがり屋な一面を見せる。それがとてもとても愛らしい。
●千依
昔からの幼なじみということでまあ、他のヒロインと比べると手札は多い。ツンデレかと思いきや、わりと真っ直ぐ主人公の事が好きで、付き合い始めると激甘でちょっとおバカな彼女になってしまうところがかわいい。幼なじみだけあって息もぴったりで、自称恋愛経験豊富な楓美に対しても辛辣で的確なツッコミを入れていた。とにかく千依が主人公のことを好きすぎるので、彼女の笑顔とえっちシーンで埋め尽くされるような内容だったが勿論、眺めていて悪い気はしなかった。
●こころ
白馬の王子様を夢見る女の子で、この作品を始める前から気になっていたわけだが…期待通りかそれ以上に優遇されていてホッとした。
「(なぁんだ…ちょっと考えてみれば、好きにならないワケないじゃん)」
彼女を語る上で外せないのはやはり上記のシーンだろう。ちゃんと話は聞いてくれるし、お願いも聞いてくれる。バスケも上手くて教えるのも得意で、自分のことを一番近くで見てくれていた。であれば…と、主人公の後ろで自身の気持ちに気付き、笑みを浮かべる彼女は本当に見ているこちらまで幸せにしてくれた。
この作品凄いなと思ったのは、これを見せた後に千依√とこころ√で分岐させてくる点だ。さらっと辛い選択を突きつけてきて、思わず声が出た。
付き合ってからはチョロくて騙されやすいこころちゃんが、主人公の欲望に振り回されることになるわけだが、ジト目になりつつも笑みを浮かべるこころちゃんが非常に愛らしい。ヘンタイと言いつつも、好きだから許してしまう。心配になるちょろさだけれど、白馬の王子様を夢見ていたことを思い出すと、実に彼女らしいなと納得せざるを得なくなる。
また、この√では光生といのりの距離がぐっと縮まるエピソードも用意されていて、あの二人に関心を向けていた身としても満足のいくものだった。告白までいかないのが自然ですごくいい。
振り返ってみると胸を打つような話があったわけではないが、ずっと楽しく読めたので満足度は高い。最後まで明るく賑やかでい続けてくれてありがとう。